会社によってこんなに違う退職金 | 連載「退職金がない会社は今すぐ辞めるべきか」
みなさんは就職先や転職先を選ぶときに、退職金制度の有無や内容を確認したでしょうか?初任給や年収に比べるとて見過ごされがちですが、重要な労働条件の 1 つであり、しかも会社による違いが非常に大きいのが退職金です。定年退職者に対して平均 2,500 万円を超えるような退職金を支給したり、終身にわたって企業年金を給付している会社もある一方で、退職金制度そのものがない会社もあります。退職金の有無や内容は退職後の生活設計やキャリアプランに大きな影響を及ぼすものであり、就職・転職の際や、将来の生活設計を考えるときには必ず確認しておきたい項目の 1 つです。
退職金の水準はゼロから 2,500 万円超まで様々
厚生労働省の就労条件総合調査 (2018 年) によると、従業員数 30 人以上の企業のうち退職給付制度がある企業は 80.5 %となっており、およそ 2 割の企業では退職金がないという結果になっています。また、各企業の退職金の水準に関して、その分布に関する公的な統計調査の結果は (私の知る限り) ありませんが、定年退職者に対する会社ごとの平均的な退職金の額は、概ね次のようなイメージで捉えて差し支えないと思います。
中小企業から大企業まで、退職金のある会社が 10 社あったとすると…
- 2,500 万円以上:1 社
- 2,000 万円以上 2,500 万円未満:1 社
- 1,500 万円以上 2,000 万円未満:3 社
- 1,000 万円以上 1,500 万円未満:3 社
- 1,000 万円未満:2 社
上記は退職金を一括で受け取った場合の金額で示していますが、確定給付型の企業年金で終身年金を設けている企業の場合、90 歳以上まで生きると総額で 4,000 万円~ 5,000 万円以上の支給額となることもあります。
傾向としては、規模の大きな企業ほど平均的な退職金の水準は高くなっていますが、上記調査では 1,000 人以上の規模の会社でも 7.7 %は「退職給付制度なし」と回答しており、一概には言えません。また「会社の中でもこれだけ差がつく退職金」で書いたように、会社によっては社内でも金額に大きな差がつくことがあります。
統計調査などから退職金の相場、あるいは平均額が示されることもありますが、実際には会社ごと、また個人ごとでも異なるため、個別に確認しなければ水準を知ることはできません。
このところ「老後 2,000 万円問題」が大きく取り上げられていますが、引退後の資金として公的年金以外に必要とされる金額は人それぞれであり、望む生活や引退の時期によっても大きく異なります。しかし、例えば退職金や企業年金が 2,000 万円以上あるのと全くないのとでは、引退後の資金を自ら積み立てておく必要性が大きく異なるのは明らかです。
仮に勤続 40 年で退職金が 2,000 万円だとすると 1 年あたりの金額は 50 万円であり、年収とは別にこれだけの金額が退職金という形で報酬に上乗せされていることになります。労働条件を比較する際には退職金も含めて考えることが重要です。
退職金の支払いに備えて資金を積み立てている会社とそうでない会社
みなさんの会社には「企業年金」はあるでしょうか?あるいは、退職金共済制度に加入しているでしょうか?
企業年金は「年金」という言葉がついているため、なんとなく国の年金に近いイメージを持たれるかもしれませんが、その実態は退職金に近いものです。企業年金の実施パターンは、主に次のどちらかです。
ひとつは、会社で実施している退職金制度の一部、または全部を企業年金化しているパターンです。例えば、退職金の半分を企業年金化している会社で合計 2,000 万円の退職金が支給される場合、半分の 1,000 万円は会社から直接支給されますが、残りの 1,000 万円は企業年金を運営している年金基金や金融機関から支給されます。また、企業年金化した 1,000 万円については「年金」として、すなわち分割払いで受け取ることも可能です。
企業年金化された部分については、会社は各社員の在職中に毎月掛金を支払って外部に資金を積み立てています。この外部資金は会社の財産とは切り離されて管理・運用され、退職者への支払い以外の目的で使用されることはありません。
もうひとつは、独自に退職金制度を持たない会社が、複数の会社で運営される企業年金に加入しているパターンです。企業年金が退職金そのものだということもできます。企業年金に積み立てられた掛金が会社の財産とは切り離されて管理・運用されているのは、最初のパターンと同じです。
また、「中小企業退職金共済」などの退職金共済は企業年金とは別の仕組みですが、位置づけは企業年金と非常に似ています。会社は、退職金共済制度に加入することで毎月掛金を積み立て、社員が退職したときに退職金の一部を退職金共済度からの支給で賄うパターンや、退職金共済そのものを会社の退職金制度としているパターンがあります。
一旦積み立てられた掛金は退職金の支給以外の目的で使用されることはなく、会社の財産とは切り離されて管理・運用されるのも企業年金と同じです。
つまり、企業年金や退職金共済制度は、会社が退職金の支払いに備えて外部に計画的に資金を準備しておくためのものであり、社員にとっては会社から直接支給されようが、社外の機関から支給されようが、退職金であることには変わりないということもできます。
しかし、会社が倒産してしまったような場合には、企業年金や退職金共済制度に資金を積み立てているかどうかが大きく影響することになります。会社の財産が底をつき、退職金を支払えるような状況ではなかったとしても、これらの外部制度に積み立てられた分の給付は受け取ることができます。
前出の就労条件総合調査 (2018 年) によると、退職金のある企業のうち、制度の実施形態として「退職一時金制度のみ」 (企業年金がない) としている企業は 73.3 %を占めています。また、退職一時金制度の支払準備については「社内準備」が多数を占めており、退職金はあっても外部制度への積み立てを行っていない会社は少なくありません。
また外部積立を行っている場合でも、その積立割合は会社によって異なります。退職金のすべてを外部積立としている会社もあれば、退職金全体の 1 ~ 2 割程度しか積み立てていないこともあります。決められた退職金の額は同じであっても、それが支払われる「確実さ」は、外部積立の有無や割合の大小によって異なります。
「企業型確定拠出年金」があるかどうか
外部積立制度である企業年金の 1 つに確定拠出年金があります。確定拠出年金には企業型と個人型があり、個人型のほうは iDeCo (イデコ) の愛称で知られていますが、会社が企業年金として実施する確定拠出年金は企業型のほうです。
企業型確定拠出年金も退職金の 1 つであることに変わりはありませんが、「口座が個人ごとに作られ、掛金が積み立てられていく」「積立金の運用商品は各自が選択し、その運用結果によって受取金額が変わる」「中途退職した場合でも、原則として 60 歳になるまで受け取れない」といった、他の退職金にはない特徴を持っています。
また、会社によっては「確定拠出年金に加入するかどうか」「毎月の掛金額をいくらにするか」を各社員が選択できるようにしていることもあります。こうした特色を生かすためのポイントについては、本連載の「最大限に活用したい企業型確定拠出年金」をご覧ください。
確定拠出年金のもう 1 つの特徴に「ポータビリティ」があります。ポータビリティとは「持ち運びができる」という意味です。例えば、確定拠出年金のある会社を辞めて転職するとき、転職先の会社にも確定拠出年金があれば、それまで積み立てた資金を転職先の口座に移すことで、掛金の積み立てを継続することができます。
もし転職先の会社に確定拠出年金がなければ、自分で iDeCo (個人型確定拠出年金)の口座を作り、そこに資金を移す手続きを行う必要があります。また、会社が実施する確定拠出年金の口座管理手数料は会社が負担するのが一般的ですが、iDeCo については本人の負担となります。
前出の就労条件総合調査 (2018 年) によると、確定拠出年金は最も多くの企業で採用されている企業年金制度となっており、また実施する企業数も増え続けています。
ライフコースが多様化していく中で、職業によらず 60 歳まで積み立てを継続できる確定拠出年金は、引退後の資金を積み立てるための制度として今後中心的な役割を担っていくことになると考えられます。就職・転職を考える際には、確定拠出年金があるかどうか、会社が出す掛金はいくらなのかということも確かめておくとよいでしょう。
気を付けたい「選択制」確定拠出年金
上記のとおり、確定拠出年金は退職金の 1 つとして位置づけられるものですが、最近増えているのが給与制度の変更により導入される「選択制」確定拠出年金です。選択制確定拠出年金では、もともと給与 (または賞与) であったものの一部を「ライフプラン給」等の名称で切り出し、この部分について従来どおり給与として受け取るのか、一部または全部を確定拠出年金の掛金として積み立てるのかを各社員が選択できるようにします。
確定拠出年金の掛金に回した分は給与とはみなされませんので、その分、税金や社会保険料を節約できるというメリットがあります。しかしその反面、将来の厚生年金や、病気・ケガで働けなくなった時の傷病手当金など、社会保険からの給付の受け取りが減少する可能性があります。また、会社が負担する社会保険料の減少にもつながるため、これを目的として選択制確定拠出年金を導入しているケースもみられます。
給与の一部を切り出す形で導入される選択制確定拠出年金は、給与とは別建てで退職金として実施される確定拠出年金とは異なり、希望すれば給与の一部を確定拠出年金の掛金に振り替えられるという仕組みに過ぎません。求人票などに「選択制」とある場合には、提示された給与に確定拠出年金の掛金相当額が含まれているのかどうか、よく確かめたほうがよいでしょう。
よくある質問
退職金共済制度とはなんですか?
会社が退職金の支払いに備えて資金を積み立てる制度です。
会社が、退職金共済制度に加入することで毎月掛金を積み立て、社員が退職したときに退職金の一部を退職金共済度からの支給で賄うパターンや、退職金共済そのものを会社の退職金制度としているパターンがあります。
退職金共済制度とは別に、「企業年金」という制度もあります。これは会社で実施している退職金制度の一部、または全部を企業年金化するパターンの制度です。
会社が倒産してしまった場合でも退職金はもらえますか?
企業年金や退職金共済制度は、一旦積み立てられた掛金は退職金の支給以外の目的で使用されることはなく、会社の財産とは切り離されて管理・運用されるものです。そのため、会社の財産が底をつき、退職金を支払えるような状況ではなかったとしても、これらの外部制度に積み立てられた分の給付は受け取ることができます。
著者 : 向井洋平 (むかい ようへい)
クミタテル株式会社 代表取締役社長
1978年生まれ。京都大学理学部卒業後、大手生命保険会社を経て2004 年にIICパートナーズ入社。2020年7月、クミタテル株式会社設立とともに代表取締役に就任。大企業から中小企業まで、業種を問わず退職金制度や高年齢者雇用に関する数多くのコンサルティングを手掛ける。日本アクチュアリー会正会員・年金数理人、日本証券アナリスト協会検定会員、1級DCプランナー、2級FP技能士。「人事実務」「人事マネジメント」「エルダー」「企業年金」「金融ジャーナル」「東洋経済」等で執筆。著書として『確定拠出年金の基本と金融機関の対応』(経済法令研究会)ほか。
出口 (イグジット) を見据えたシニア雇用体制の確立をしましょう
労働力人口の減少と高齢化が同時進行する中、雇用の入口にあたる採用、入社後の人材育成・開発に加え、出口 (イグジット) をどうマネジメントしていくかが、多くの企業にとっての課題となりつつあります。特に、バブル入社世代が続々と 60 歳を迎える 2020 年代後半に向けて、シニアの雇用をどう継続し、戦力として活用していくのか、あるいはいかに人材の代謝を促進するのか、速やかに自社における方針を策定し、施策を実行していくことが求められます。多くの日本企業における共通課題であるイグジットマネジメントの巧拙が、今後の企業の競争力を左右するといっても過言ではありません。
シニア社員を「遊休人員化」させることなく「出口」へと導くイグジットマネジメントを進めるために、まずは現状分析をおすすめします。