なぜイグジットマネジメントが重要かimportance
終身雇用を前提とした「トコロテン式」人事管理が機能しなくなったことにより、以前はあまり注目されることがなかった人事の出口の設計が、取り組むべき主要な人事課題の1つとなっています。また、人的資本経営の観点からも、イグジットマネジメントは従業員生涯価値(ELTV)を最大化させるための重要なアプローチとして位置づけられます。
「トコロテン式」人事管理の終焉
また、高年齢者雇用安定法による65歳までの雇用確保の義務化に加えて、いびつな人員構成を背景とした高齢社員の急激な増加が出口の問題を顕在化させています。これも元をたどれば、バブル期の大量採用から団塊ジュニア世代・氷河期世代の採用抑制へと急激に変化したことで生じた社員構成の偏りが、日本型雇用システムの中で現在に至るまでそのまま温存されてきたことが原因です。
ただ、雇用の入口に比べて、出口に関する議論や施策は後回しにされていることが多いのが現状ではないでしょうか。採用に関しては人事部門内に担当者や担当チームを置き、外部の採用媒体やエージェント等も活用しながら、計画の策定から募集、選考、内定等の一連のプロセスを担っているのが一般的です。これに対して、退職あるいはキャリアの終え方に関して、組織的・計画的・戦略的に取り組んでいるケースはまだ限られています。
しかしながら、かつてのような「中途退職は例外」「定年で一斉に退職」という発想のままでは、入口の多様化(雇用の流動化)や高齢社員の急増に対応できず、必要な人材が流出したり、逆に目詰まりを起こして組織の新陳代謝を妨げ、余剰人員を抱えたりするリスクを負ってしまいます。人口構造や雇用環境が大きく変わる中で、目指す人材ポートフォリオを構築していくには、出口の設計も欠かせないピースとなります。
人的資本経営とイグジットマネジメント
人的資本経営とは、簡潔に言えば「社員を投資の対象と捉え、人材価値を最大化させることで中長期的な企業価値の向上を実現していくこと」であり、その人材価値を直接的に表すものがELTV(Employee Lifetime Value:従業員生涯価値)です。
ELTVは、1人の従業員が全勤務期間にわたって企業にもたらした価値の総和であり、上記のように横軸を入社から退職までの期間、縦軸を各時点で生み出している成果(コスト控除後)としたときの面積で表されます。採用時点では採用コストのみが発生しているため成果はマイナスからスタートしますが、その後、組織にオンボーディングしていく中でプラスに転じ、成果を伸ばしていくことでELTVは増大していきます。
しかしELTVを最大化させるためには、縦軸だけでなく横軸の視点からも検討する必要があります。すなわち、「成果のピークを迎える前の退職を防ぐ」「成果のピークを迎えた後はできるだけそれを維持しつつ勤続を促す」「成果が期待できなくなれば退職を促す」ことが必要であり、これらを実現することがイグジットマネジメントの目的となります。
これらが、少子化による採用難や転職の一般化、就業期間の長期化や社員の高齢化に伴って重要課題となっていることは、既に述べたとおりです。
さらに言えば、近年では、退職した後の社員の行動も企業価値に影響を及ぼすようになっています。口コミサイト等で、元社員による自社への評価が誰でも見られるようになり、求職者にとっての重要な判断材料の一つとなっています。また、一度退職した社員について、アルムナイネットワークを経由して再び雇用したり、リファラル採用やビジネスパートナーといったさまざまな形で退職者との継続的な関係を維持したりする動きも出てきています。つまり、退職後の期間においても(元)社員は企業にとってプラス・マイナス双方の価値を生み出し得る存在であり、これを最大化することもイグジットマネジメントの目的の一つとなります。

