人事制度・施策への反映relationship
イグジットマネジメントを実効性あるものとするためには、出口戦略に沿って一貫した人事制度・施策を設計し、実行する必要があります。ここでは、高齢者雇用制度、退職金制度、社内公募・社内インターン制度、オフボーディングを取り上げて解説します。
高齢者雇用制度
シニア期およびシニア移行期において、イグジットマネジメントに直結するのは、いうまでもなく高齢者雇用制度です。
高齢者雇用制度については、65歳までの雇用確保措置が事業主に求められるようになってからも60歳定年のままとする企業が大半でした。しかし、近年は定年年齢を65歳以上とする企業が徐々に増え続けており、厚生労働省の「令和7年『高齢者雇用状況等報告』」によれば、中小企業(31~300人)のおよそ3社に1社、大企業(301人以上)のおよそ4社に1社が65歳以上への定年引き上げ(または定年廃止)を行っています。
また、現在は努力義務である70歳までの就業確保措置についても、3割程度の企業が実施済みとなっています。これらは、年齢にかかわらず最後までパフォーマンスを発揮し続けて退職を迎えてほしいという企業側の期待を表すものであり、特に人手不足が深刻な業種でこの傾向が強まっています。
(高齢者雇用に関する直近の状況とこれまでの推移は下記リンク先を参照ください)
企業の高年齢者雇用への対応状況 > 厚生労働省「高年齢者の雇用状況」
一方で、組織の新陳代謝や事業構造の転換への対応などの観点から、定年を一つの区切りとして、役割や職務の再定義を行うことで個人と組織のパフォーマンスを最大化し、シニア人材の価値を高めようとする企業も増えています。具体的には、継続雇用制度の見直しを行い、シニア社員に期待する役割や職務に沿ってコース制や等級制度を整備することで、本人の意思や能力にマッチした仕事と処遇の実現を図るとともに、社外転進も含めた定年後の働き方について従業員自身の自律的な選択を促そうとしています。
また、現行制度からの接続や、個々のライフプラン・キャリプランへの対応の観点から選択定年制を導入し、一定の範囲で従業員自ら定年退職のタイミングを選択可能にしたり、個別の状況に応じて雇用契約から業務委託契約に移行できるようにするケースもあります。業務委託に関しては、業務内容と報酬の対応が明確化されるとともに、個人にとってはより柔軟な働き方が可能となるメリットがあります(当社のお客様企業でも、プロジェクトメンバーのキーパーソンが途中段階で雇用期間の終了を迎え、業務委託契約に切り替えて引き続きプロジェクトに従事するケースが複数ありました)。プロジェクト単位で進む仕事は、業務委託になじみやすいといえます。
重要なのは、シニア期における「“望ましい退職/在職」の在り方を踏まえて、企業がシニア社員に求める役割や働き方を明確化することにあります。単に定年延長をする/しないではなく、少なくとも65歳までの雇用確保が求められている中で60歳定年という区切りを設ける必要があるのか、あるとしたらどのような意識や役割の転換を期待するのかを制度に反映させていくことが肝要です。そして、構築した制度が有効に機能するよう、後述する社内公募制やキャリア研修などの施策も組み合わせることで、従業員の自律的な選択とマッチングを図っていくことが求められます。
退職金制度
(1)シニア期・シニア移行期
退職金制度(企業年金制度を含む)も、イグジットマネジメントにおいて中心的な役割を果たす人事制度の1つです。特に、シニア期およびシニア移行期においては高齢者雇用制度を補完し、従業員に対して「出口」についてのメッセージを伝える重要ツールとなります。
例えば、定年延長とともに退職金や企業年金の支給時期が後ろ倒しとなり、延長された勤務期間も支給額に反映されるようになれば、「60歳以降も、それまでと変わらない貢献を期待する」というメッセージとなります。65歳以降で定年を迎えた後は、継続雇用など何らかの形で仕事を続けるのか引退するのかを本人が決めることになりますが、公的年金に加えて退職金や企業年金が支給されることでお金のために働く必要性は薄れ、やりがいや生きがいをより重視した選択ができるようになります。
一方で、引き続き60歳定年としたケースでは、退職金・企業年金は再雇用の有無にかかわらず支給され、60歳時点での進路の選択や、継続雇用時の役割・処遇の転換を意識させるメッセージとなります。定年退職を控えた従業員に、再雇用以外の選択肢も含めてしっかりと考えてほしい場合には、再雇用を選択しない場合に退職金を上乗せする早期退職優遇制度を設けるケースもあります(65歳まで働くことが当たり前になりつつある今、60歳での退職は「早期退職」と呼んでも差し支えないでしょう)。
制度設計にもよりますが、企業から直接支給する退職金は設計の自由度が高く、早期退職者への上乗せなど、企業側が特定のタイミングで退職を意識させることができます。一方で、企業年金(特に確定拠出年金)は受け取り方の選択肢が広く、個々のライフプランやキャリアの選択により柔軟に対応できる制度です。それぞれの特徴を踏まえ、高齢者雇用制度と接続させることで、より効果的にメッセージを打ち出せるようになるでしょう。なお、定年延長に伴う退職金・企業年金制度の見直しに関しては、税制や企業年金法制の問題も絡んでくるため注意が必要です。
(退職金の税制に関する解説資料は下記リンクよりダウンロードできます)
人事なら知っておきたい退職金の税制
(2)ミドル期
ミドル期においては、退職金の水準が大きく伸びるように設計されていることが多く、この場合、退職金制度はシニア期(またはシニア移行期)までの勤続を促すメッセージを持ちます。一方で、少数ではありますが組織の新陳代謝を特に重視し、ミドル期で従業員が退職してくことも厭わず、早い段階で退職金を頭打ちにしているケースもある。また、定年より早いタイミングで早期退職優遇制度を設けているものの、実際にはほとんど利用されていないケースも見られます。
仮にミドル期において転進を意識させる必要性があるのであれば、制度の説明に加えてキャリアカウンセリングの場を設けるなど、手厚いフォローと働き掛けが必要になるでしょう。
(3)ジュニア期
ジュニア期において、退職金制度は定着に効果を発揮してほしいところですが、まとまった金額を受け取ることができるのは長い勤続を経た遠い将来のことであり、本人が実感を持ってイメージすることは難しいのが実情です。まずは、ファイナンシャル・ウェルビーイングの観点から、社会保障・金融経済教育の一環として退職金制度の意義や内容についても説明を行い、お金に対する漠然とした不安を取り除くことで、しっかりと仕事に向き合える環境を整えることから始めるのがよいでしょう。その上で、自らライフプランを立てられるようになれば、将来のキャリア自律の土台にもなります。
一方で、最近では退職金を減額または廃止し、その原資を賃上げに回すことで若い社員の確保や定着を図ろうとする動きも出てきています。終身雇用の前提が崩れ、賃上げが進む環境の中で、採用競争力を高めるために社員にとってより魅力的に映る賃金に重きを置いて報酬配分を見直すことは十分に検討の価値があります。但し、制度の見直しにあたっては退職金・企業年金に対する税制優遇や、ベテラン社員の受け止めも考慮する必要があるでしょう。
(賃上げ時代の報酬配分設計に関する解説資料は下記リンクよりダウンロードできます)
賃上げ時代の報酬配分設計―退職金制度を“差がつく報酬”へ―
社内公募・社内インターン制度
(1)ミドル期からシニア期
ミドル期からシニア期にかけてのイグジットマネジメントに欠かせないのがキャリア自律です。高齢者雇用制度や早期退職(転進支援)等の仕組みを整えた上で、従業員が自ら主体的に進路を選択できるようになることで、「望ましい退職/在職」が実現されます。社内公募や社内インターン制度の仕組みは、キャリア自律を後押しするための有力な手段となります。
事例として、定年後の継続雇用制度においてジョブ型の考え方を取り入れ、社内公募によって人材のマッチングを行っているケースがあります。等級制度や賃金制度に基づき、職務内容や労働条件、人材要件をまとめた「募集要項」を各部署で作成して公開し、継続雇用を希望する従業員はそれらに応募して選考を行います。企業のほうから具体的なオファーを出し、従業員が自らの意思や能力に基づいて応募する仕組みであり、当社ではこのフレームワークを「Will-Can-Offer」と呼んでいます。
(「Will-Can-Offer」に関する解説資料は下記リンクよりダウンロードできます)
ミドル・シニア人材の活躍を促す新フレームワーク「Will-Can-Offer」
これによって社内にある仕事の内容や条件が可視化され、社外転進の選択肢との比較もしやすくなり、従業員のより主体的な選択が期待できます。もちろん、これを有効に機能させるためには入念な準備と丁寧なプロセスが必要であり、各部署に対する募集要項の作成支援、定年を迎える従業員に対する制度の説明と応募に当たってのサポート、各部署のニーズと各従業員の意思・能力を可能な限りマッチングさせるための期間の確保と調整といった役割を、人事部門が担うこととなります。マッチングを効率的に進めるために定年退職日を年度末にそろえ、年度始めに一斉に継続雇用をスタートさせるなどの実務上の工夫も重要です。
加えて、より早い段階でキャリア自律の意識を高めてもらうために、社内の一定のポジションについては公募制としたり、任期を定めて定期的に選考を行ったりする対応も考えられます。また、社内インターン制度を設けることも有効でしょう。この場合、受け入れ部門と応募者本人の話し合いにより業務内容や期間を決め、一定の枠内で他部門の業務を経験させることで、応募者本人とのマッチングがよりスムーズに進むことが期待できます。
(2)ジュニア期からミドル期
ジュニア期からミドル期にかけては、社内公募制があることで早くからキャリア自律の意識が高まるほか、社内でのキャリアに対する将来の不安を解消し、自らの希望を実現する機会が広がることとなり、本人のWill・Canと配属のアンマッチによる「望ましくない退職(転職)」を防ぐことにもつながります。
キャリア自律やリスキリングを目的として教育研修の機会を設けている企業も少なくないですが、学んだことを実践する機会がなければ具体的な行動や成果につながらないばかりか、かえって不満や失望を生むことになります。今後のキャリアを考える時に、少なくとも社内にどのような選択肢があるのかをまず示した上で、自分が進むべき/進みたい進路についての意思を明確化し、その実現のために必要な知識やスキルを身に付けるための教育研修と位置づけるべきでしょう。
オフボーディング
終身雇用が当たり前であった時代では、中途退職者は「脱落者」「裏切り者」などと揶揄され、例外とみなすような考え方が一般的だったかもしれませんが、労働市場の流動化や口コミサイトにおける評価の広がりにより、オフボーディングの重要性が増しています。退職を申し出てきた従業員に対して、企業に対する信頼や共感を失わせるような対応を取ってしまえば、業務の引き継ぎに支障が出るだけでなく、退職後も自社に対して悪い影響を及ぼしかねません。
近年、「カムバック採用」などの名称で、一度自己都合により退職した従業員を再び採用する制度を導入する企業が増えており、退職した従業員との関係を維持するために企業としてアルムナイネットワークを構築しようとするケースも出てきています。こうした仕組みを有効に機能させるためにも、特にジュニア期からミドル期にかけては適切なオフボーディングが不可欠となります。
オフボーディングにおいて重要な要素となるのが退職理由の把握です。退職理由を正しく把握できれば、どのような理由による退職を防ぐべきかを明らかにして対策を立案したり、退職後の関係維持に何が有効なのかのヒントを得たりすることにも役立ちます。しかしながら、退職者の本音を聞き出すのは容易ではありません。退職者自身が、退職理由をうまく言語化できていないケースもよくあることです。
したがって、オフボーディングに力を入れるのであれば、退職理由の聞き取りなどの対応を職場のマネジャー任せにせず、人事部門(あるいはHRBP)が一連の退職手続きの中で本人との面談を行うプロセスを入れて、ノウハウを蓄積させるのが望ましいでしょう。退職者全員への対応が難しければ、離職防止や退職後の関係維持の重要性の観点から対象を絞ったり、外部の専門家を利用することも考えられます。
従業員は、退職を申し出た時点で意思を固めていることがほとんどであり、基本的に引き留めは効果がないと考えておくべきです。本人の意思に反して強引に退職を撤回させようとしたり、企業側が何か譲歩をして退職を思いとどまらせようとしたりしても信頼を失うだけです。それよりも、退職の意思を確認したらそれを受け入れ、業務の引き継ぎや必要な手続きを問題なく進めることのほうが重要でしょう。
転職が一般化したとはいえ、従業員にとって退職は大きな決断であり、上司や同僚に対する後ろめたさはついて回ります。そうした心情を理解し、退職者の意思を尊重する姿勢を示すことで、退職を決めるに至った背景や本質的な理由を引き出し、その後の対策や関係構築につなげることができるでしょう。こうした点は部下を持つすべてのマネジャーが理解しておくべきであり、管理職研修などの機会を利用して、退職の申し出があったときの対応や考え方を周知しておきたいところです。
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以上、大きく4つの視点からイグジットマネジメントを人事制度・施策に反映させる際の考え方や事例を紹介しました。対象となる従業員層や目的の方向性によって実施すべき施策の内容は異なるため、「望ましい退職/在職」との乖離、あるいは目指す人材ポートフォリオとの乖離を解消する観点から、重要なポイントを見極め、そこを起点に取り組むべき課題と施策を考えていくとよいでしょう。その際、相互のつながりや他の人事制度・施策との関係性も考慮し、全体として一貫性のある施策とすることが大切になります。

