【人事担当者向け】高年齢者雇用への対応としてのジョブ型~シニア層から始めるメンバーシップ型からの脱却
昨今、企業人事では「ジョブ型」への関心が非常に高まっています。日本の大手企業から「ジョブ型」導入の発表が相次ぐなかで、自社での導入について情報収集や検討を進めている人事担当者も多いのではないでしょうか。しかし(これは何もジョブ型に限った話ではないですが)、ジョブ型というのはあくまで人事制度・人材マネジメントの手法の1つであり、導入にあたっては何のために、どのように取り入れていくかを明確にしておくことが重要です。今回は、ジョブ型についての基本的な解説と導入の背景を踏まえ、高年齢者雇用の観点からジョブ型を取り入れることの効果や意義について考えていきます。
そもそもジョブ型とは? ジョブ型への移行で困ること
「ジョブ型」とは、これまで日本で根付いてきた「メンバーシップ型」と対比する形で提示された、雇用慣行及び人事システムのことです。ジョブ型では、まず事業運営に必要なポストと職務を定め、その職務要件を満たす人材を採用して当てはめていきます。これに対して、メンバーシップ型ではその人が持っている(潜在的)能力や資質に着目して採用を行い、そのあとで仕事を割り当てていきます。
こうした雇用に対する考え方の違いは、採用方法に加えて配置や処遇、退職のあり方にも及んできます。例えば、職務経験を持たない“初心者”の学生を配属も決めないまま採用する新卒一括採用はメンバーシップ型特有のやり方であり、入社後の職務内容を明示して双方合意のうえで雇用契約を結ぶジョブ型ではこうした採用方式はとられません(したがって、ジョブ型の社会とメンバーシップ型の社会では教育のありようも異なってきます)。
また、ジョブ型では職務内容を明示して採用するわけですから、それに反して会社側が一方的に人事異動(配置転換)を命じることはできません。報酬についても、ジョブ型では人に対してではなくポストや職務に対して定められるので、仮に異動によって従事する職務のレベルが下がればそれに伴って報酬も下がってしまうことになります。
このように、メンバーシップ型では当たり前のように行われてきた以下のようなことが、ジョブ型に移行すると容易ではなくなります。
【育成】
・職務範囲を固定せず、少しずつ広げたりレベルアップさせていくことで、未経験の新卒採用社員を社内で主力を担うまでに育てる。
・様々な部署・職種を経験することで、総合的な仕事のスキルを身につけていく。
【配置】
・退職等により欠員が出たときには、必要があれば部署を超えた社内の人事異動により対応する。
・効率的な新卒一括採用と人事部門主導の人員配置により必要人員の大部分を充足させる。
【処遇】
・その時々に従事している仕事だけでなく、長期的な視点で組織への貢献に見合った処遇を行う。
・未経験の部署に異動して職務レベルが下がったとしても処遇は下げることはしない。
それでもジョブ型を導入する理由とは
それでは、ジョブ型を導入した日本企業はどのような理由で導入に踏み切ったのでしょうか?
1つには、人材のグローバル化への対応があります。国籍や文化、キャリアの違いを超えて必要な人材を確保し、処遇していくには、”ジョブ”という客観的な基準に基づく人事システムを整備する必要があります。同じレベルの仕事をしているのに報酬が違うというのは通用しません。そのため、グローバル展開を進める企業においては、国内外を問わずグループ共通の人事システムとしてジョブ型を取り入れるケースが見られます。
一方で、日本国内の状況を見てもメンバーシップ型の限界が表れてきています。メンバーシップ型の雇用では、“メンバー”の一員として迎え入れた社員を解雇することは強く制限されますが、その代わりに定年制という一定の年齢で強制的に雇用契約を終了させる仕組みを設けることで人材の新陳代謝を図ってきました。しかし人口の高齢化を背景に60歳以降の雇用確保が義務化されるとともに、少子化によって新卒採用の競争は年々激しくなっています。メンバーシップ型の前提となる人事サイクルが成り立たなくなってきているのです。
そこで、新卒一括採用や社内での育成といったメンバーシップ型の要素を残しつつも、以下のような形でジョブ型の要素を取り入れる企業が出てきています。
・ 管理監督者層など一定レベル以上の層にジョブ型の処遇体系を取り入れることで、年齢やキャリアの違いにかかわらず、職務内容や責任の大きさに合致した人材の確保・配置と処遇を実現する。
・ 新卒採用においても職種やコース別に募集を行い、本人が希望する仕事に就けるようにする。また、試用期間が経過したのちに格付け(等級の付与)を行うことで、高いパフォーマンスを発揮している社員は入社1年目から高く処遇する。
完全な形でのジョブ型への移行は現実的ではない、しかしこれまでどおりのメンバーシップ型では立ち行かなくなってきている中で、ジョブをどのような形で取り入れていくのがよいのかが問われています。
シニアの雇用にジョブ型を取り入れる効果とは
そこで、今回は高年齢者の雇用に着目して考えます。これまでのメンバーシップ型雇用では、60歳定年に到達した社員は“メンバー”から外れることを前提として人事システムが組み立てられていました。そこへ65歳までの雇用確保を義務付ける法律ができたために、高年齢者の雇用はメンバーシップ型でもジョブ型でもなく、「福祉的雇用」の色合いが強いものとなっています。
しかし、今後ますます60歳以上の社員の占める割合が高まっていく中で、福祉的雇用を続けていけば生産性の低下を招いてしまいます。かといって、従来のメンバーシップ型の人事システムをそのまま延長するわけにもいきません(だからこそ、大半の企業は定年後再雇用により対応している)。
多くの人事担当者からは、60歳超のシニア社員に対する期待度は、職種(部門)や個人による差が大きいという声が聞かれます。会社に残って活躍してもらいたい社員もいれば、そうでない社員もいるというのが実情でしょう。であれば、シニア社員に期待する職務内容や役割を処遇とセットで明確に定め、その要件に合致する人材をあてはめていくジョブ型の考え方がフィットします。
現にメンバーシップ型の人事システムで雇用され、処遇されている現役社員をジョブ型に移行させることには様々な困難が伴います。それに対して、すでにメンバーシップ型の人事システムから外れているシニア社員に対しては、それほど抵抗なくジョブ型を取り入れることができるでしょう。加えて、ジョブ型を導入し、運用していくことで以下のような効果も期待できます。
・ 職務内容を洗い出す過程でシニア社員に任せたい仕事や役割が明確になる。
・ 職務ランク(役割や責任の大きさ)に応じて報酬水準を設定することで、賃金の根拠が説明できるようになる(同一労働同一賃金への対応)。
・ 職務内容とそのランク、報酬水準があらかじめ示されることで、社員は60歳以降のキャリアについて主体的に考えることができるようになり、キャリアの選択に対する納得感が高まる。
これまでのメンバーシップ型の人事システムに課題を抱えながらも、いきなり現役社員をジョブ型へ移行させることは抵抗感やデメリットが大きい――そうした場合には、高年齢者雇用への対応としてシニア層からジョブ型を取り入れてみてはいかがでしょうか。
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著者 : 向井洋平 (むかい ようへい)
クミタテル株式会社 代表取締役社長
1978年生まれ。京都大学理学部卒業後、大手生命保険会社を経て2004 年にIICパートナーズ入社。2020年7月、クミタテル株式会社設立とともに代表取締役に就任。大企業から中小企業まで、業種を問わず退職金制度や高年齢者雇用に関する数多くのコンサルティングを手掛ける。日本アクチュアリー会正会員・年金数理人、日本証券アナリスト協会検定会員、1級DCプランナー、2級FP技能士。「人事実務」「人事マネジメント」「エルダー」「企業年金」「金融ジャーナル」「東洋経済」等で執筆。著書として『確定拠出年金の基本と金融機関の対応』(経済法令研究会)ほか。
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