退職金制度における高年齢者雇用確保措置への対応~実態調査‐2‐~
掲載日:2016年9月5日
平成27年民間企業における退職給付制度の実態に関する調査より
退職金・企業年金制度に関する統計調査の一つに、内閣官房が実施している「民間企業における退職給付制度の実態に関する調査」があります。
この調査は「国家公務員退職手当制度の中長期的な見直しのための基礎資料を得ることを目的として、民間企業における退職給付制度の調査・研究を行っているものです」とされており、年度ごとにテーマが設定され、それによって調査項目も毎年異なる内容となっています。(ちなみに、平成26年調査のテーマはポイント制退職金でした。詳細は「ポイント制退職金の動向~ポイント制退職金制度の設計について -5-」をご覧ください。)
先日公表された平成27年調査については、「ワークライフバランス・女性活躍推進への対応及び高年齢者雇用確保措置への対応について」が主なテーマとなっており、具体的には育児休業期間に対する退職一時金算定上の取り扱いや、高年齢者雇用確保措置の導入に伴う退職一時金制度の見直し有無などについて、調査が行われています。
今回は、このうち退職金制度における高年齢者雇用確保措置への対応について、主要な調査結果を紹介します。
高年齢者雇用確保措置の導入状況
2012年8月に成立した改正高年齢者雇用安定法により、65歳までの雇用確保措置が求められることとなりましたが、各企業の導入状況は次のとおりとなっています。
回答内容 | 回答割合(複数回答あり) |
再雇用制度の導入 | 88.8% |
勤務延長制度の導入 | 10.0% |
定年年齢の引き上げ | 6.1% |
その他(定年の廃止を含む) | 1.3% |
ほとんどの企業が「再雇用制度の導入」により対応していることがわかります。
また、再雇用制度を採用している企業においては、退職一時金の支払いについて「定年退職時に退職一時金を支払い、再雇用終了時には退職一時金を支払わない」という回答が87.7%と圧倒的多数を占めています。
退職一時金制度の見直し
高年齢者雇用確保措置に際して、退職一時金制度の見直しを行ったかどうかについての回答は次のとおりとなっています。
回答内容 | 回答割合 |
見直す予定はない | 87.8% |
見直しを検討中 | 7.9% |
見直しを行った | 4.3% |
見直す予定はないとする回答が圧倒的に多い結果となっています。これは上記1.で見たとおり、「再雇用制度を導入し(定年は従来通り)、退職金の支払いは定年退職時のみ」とする企業が多いことと対応していると考えられます。
再雇用制度以外の措置を導入している企業では、退職一時金制度を見直すとする割合が、やや高くなっています。
退職一時金制度の見直しの内容
上記2.で退職一時金制度の見直しを行った(または検討中)とした回答の具体的な見直し内容は次のとおりとなっています。
回答内容 | 回答割合(複数回答) |
退職一時金の算定に用いる支給率等の変更 | 52.7% |
退職一時金の支払時期の変更・分割払い | 19.5% |
定年退職者が継続雇用を辞退した場合の退職一時金の割増 | 9.0% |
その他(注) | 34.4% |
注:以下の回答を含む。
・退職一時金の一部を企業年金に移行
・企業年金の全部または一部を退職一時金に移行
・定年前退職者の退職一時金の割増
例えば、定年年齢の引き上げを行った企業においては、引き上げ前の定年年齢以降の期間については従前の支給率を適用せず、別途新たに支給率を設定する等の対応を行っているケースが考えられます。
退職一時金制度の見直しの退職一時金額への影響
上記2.で退職一時金制度の見直しを行った(または検討中)と回答した企業では、退職一時金額への影響については次のような回答となっています。
回答内容 | 回答割合 |
退職一時金の増加 | 69.0% |
退職一時金の減少 | 19.3% |
その他 | 13.3% |
勤続期間が長くなれば通常退職金は増えますが、「退職一時金の減少」という回答が一定割合あるということは、従来の定年退職金の原資の一部を取り崩し、雇用延長後の給与の原資に回している等のケースがあるためと考えられます。
所感
高年齢者雇用安定法の改正の趣旨は、少子高齢化が急速に進む中で、
・労働力人口の減少に対応し、高年齢者も社会を支える側に回ること
・年金の支給開始年齢が段階的に引き上げられることに対応し、無年金・無収入となるのを避けること
にあります。
この趣旨に合致する形で、「人材の流出を防ぐために(再雇用ではなく)定年年齢の引き上げを行った」とする個別のヒアリング結果もあった一方で、雇用延長に伴う人件費の増加を補てんまたは回避するために、退職金制度を利用していると受け取れる回答も一部に見られました。具体的には以下のような内容です。
・退職金の減少(上記4.のとおり)
・定年退職者が継続雇用を辞退した場合の退職一時金の割増
・定年前退職者の退職一時金の割増
業種や個々の企業によって経営を取り巻く状況は様々であり、一概に論じることはできないと思いますが、現役世代の人口である生産年齢人口が減り続けているなかで、高年齢者の能力や意欲をどう活かしていくのかは多くの企業にとっての課題ではないかと思います。
継続雇用制度や賃金・評価制度、勤務体系などに加え、退職金制度に関しても、働く意思と能力をもつ高年齢者にいかに活躍してもらうかという観点から考えてみる必要があるのではないでしょうか。