退職金制度における休業・休職期間の取り扱い~実態調査‐1‐~
掲載日:2016年8月29日
平成27年民間企業における退職給付制度の実態に関する調査より
退職金・企業年金制度に関する統計調査の一つに、内閣官房が実施している「民間企業における退職給付制度の実態に関する調査」があります。
この調査は「国家公務員退職手当制度の中長期的な見直しのための基礎資料を得ることを目的として、民間企業における退職給付制度の調査・研究を行っているものです」とされており、年度ごとにテーマが設定され、それによって調査項目も毎年異なる内容となっています。(ちなみに、平成26年調査のテーマはポイント制退職金でした。詳細は「ポイント制退職金の動向~ポイント制退職金制度の設計について -5-」をご覧ください。)
先日公表された平成27年調査については、「ワークライフバランス・女性活躍推進への対応及び高年齢者雇用確保措置への対応について」が主なテーマとなっており、具体的には育児休業期間に対する退職一時金算定上の取り扱いや、高年齢者雇用確保措置の導入に伴う退職一時金制度の見直し有無などについて、調査が行われています。
今回は、このうち退職金制度における休業・休職期間の取り扱いについて、主要な調査結果を紹介します。
休業・休職期間全般についての取り扱い
勤続期間を退職一時金の算定に使用している企業において、休業・休職期間の取り扱いに対する回答結果は次のとおりとなっています。
回答内容 | 回答割合 |
休業・休職の内容にかかわらず一律に全て勤続期間から除く | 42.3% |
休業・休職の内容にかかわらず一律に全て勤続期間に含める | 24.0% |
休業・休職の内容により異なる | 26.6% |
その他(注) | 7.1% |
注:「休業・休職の内容にかかわらず一律に一定割合に相当する期間を除く」という回答を含む。
「一律除く」としている企業が最も多いものの、回答は分かれる結果となっています。
育児休業期間についての取り扱い
上記1.で「休業・休職の内容により異なる」とした企業における、育児休業期間の取り扱いについての回答は次のとおりとなっています。
回答内容 | 回答割合 |
育児休業期間を全て勤続期間から除く | 34.5% |
育児休業期間を全て勤続期間に含める | 48.7% |
その他(注) | 16.8% |
注:「育児休業期間の一定割合に相当する期間を除く」「子の年齢により異なる」という回答を含む。
これを上記1.の結果と合わせ、勤続期間を退職一時金の算定に使用している企業全体における育児休業期間の取り扱いをまとめた結果はと次のとおりとなっています。
回答内容 | 回答割合 |
育児休業期間を全て勤続期間から除く | 53.0% |
育児休業期間を全て勤続期間に含める | 39.0% |
その他(注) | 8.0% |
注:「育児休業期間の一定割合に相当する期間を除く」「子の年齢により異なる」という回答を含む。
育児休業期間についても勤続期間から全て除くとしている企業が多いものの、回答は分かれる結果となっています。
育児短時間勤務期間についての取り扱い
勤続期間を退職一時金の算定に使用している企業において、育児短時間勤務期間の取り扱いに対する回答結果は次のとおりとなっています。
回答内容 | 回答割合 |
育児短時間勤務期間を全て勤続期間から除く | 10.6% |
育児短時間勤務期間を全て勤続期間に含める | 81.8% |
その他(注) | 7.7% |
注:「育児短時間勤務期間の一定割合に相当する期間を除く」「子の年齢により異なる」という回答を含む。
育児短時間勤務期間については全て勤続期間に含めるという企業が圧倒的に多い結果となっています。
育児休業期間の取り扱いに関する個別のヒアリング結果
育児休業期間を勤続年数に含める企業
・育児休業から復帰後1年以上勤務を条件で全通算。
・育児休業期間のポイントは付与されない。復職後に付与されるポイントの算定にて、育児休業から復帰後1年以上勤務を条件として「支給率」算出時の「勤続年数」に育休期間も含める。
・育児・介護休業はポイント全額付与。
・育休期間中の退職一時金ポイントは全額付与。自己都合乗率(勤続年数を反映)上も除算しない。No Work, No Pay.が大原則だが、社員個人のライフイベントの節目においても”仕事と家庭を両立しながら継続して勤務”することを支援する。
・勤続年数に基づき表彰、節目休暇の付与を行う場合において、男女の機会均等を図る観点から、育児休業による期間も勤続年数に算入すべきであり、退職一時金についても同様の考え方で算入している。育児休業から復帰後半年以上勤務を条件で全通算。
育児休業期間を勤続年数に含めない企業
・無給期間は当然勤続年数には含まない(No Work, No Pay.)。育児休業等働いていない時期を勤続年数に含めないのは、従業員間の公平性担保のため。
・有給休暇としての育休は通算。
・No Work, No Pay.が大原則。ただし、産前産後休業、育児休業の有給部分等は例外取り扱い。
上記以外の企業
・子の年齢が1歳6か月までは通算(ポイントが付く)、それ以降は除算(ポイントが付かない)。
※子が3歳になるまで育児休業の取得が可能。
・2分の1のポイントを付与。やむをえない事由によるとみなし、介護、傷病の場合と同様に扱っている。
個別のヒアリング結果を見ると、育児休業期間を勤続年数に含めるとする企業であっても、復職後一定期間の勤務が条件になっていたり、ポイント付与の対象期間からは除かれているケースがあることがわかります。
また、育児休業期間を勤続年数に含めないとする企業であっても、有給休暇である期間は含める取り扱いにしているケースが多いようです。
所感
私自身、退職金制度の見直し等のコンサルティングの経験を振り返ってみても、休業・休職期間はいわば「例外的な期間」と捉えられ、その取り扱いについて深く議論されることはあまりなかったように思います。
しかし女性の社会進出が進み、育児休業から復帰して長く働くことや、男性の育児休暇取得が当然のこととなれば、休業期間は決して「例外的な期間」ではなくなります(今回は詳しい調査の対象とはなっていませんが、介護休業の問題もあるでしょう)。今後は、退職金制度における休業・休職期間の取り扱いについても、よく検討しておくことが必要になってくるのではないでしょうか。
No Work, No Pay.を貫くというのは考え方としてはシンプルでわかりやすいですが、それがかならずしも「公平」であるとは言い切れません。育児の責任を負い、一時期休業することが必要な社員が、そうでない社員と比べて不利益を被るのは不公平だとする考え方もあるでしょう。
退職金制度における育児休業期間の取り扱いを検討するにあたっては、「会社として育児休業期間をどう位置づけるか」ということとともに、退職金の位置づけをどう考えるか(長期の勤続に対する報奨か、退職後の生活資金としてか、それとも単なる給与の後払いか)という点についても整理しておくことが重要であると思います。