企業年金の債務評価に使用する3つの利率について
掲載日:2016年5月30日
継続基準の予定利率
年金財政運営では「継続基準」及び「非継続基準」という2つの観点から毎年財政検証を行っています。
「継続基準」では、直近の財政計算時に算定した掛金率を変更しなくとも、将来にわたり確実に給付(年金及び一時金)を支払うことが出来るか検証します。
継続基準の予定利率は、掛金率(標準掛金率及び特別掛金率)を算定する際に使用します。掛金率の1つである標準掛金率は、「将来の給付支出を現在価値に換算した総額=将来の掛金収入を現在価値に換算した総額」という関係式が成り立つように算定されます。
年金財政では、時の経過に伴い発生する掛金収入と給付支出の差額を蓄積し、資産運用により資産価値を増加させ、将来の給付に備えることになります。
従って、現在価値に換算する際には、長期に亘る資産運用の収益の見通しの利率を使用します。
非継続基準の予定利率
「非継続基準」では、現時点で企業年金制度を廃止(解散)したと仮定した場合に、従業員等のこれまでの勤務期間(過去期間分)に応じて発生している受給権に見合った年金資産を保有しているか検証します。検証は全企業に共通の基準で実施し、仮に必要な資産が保有出来ていないと判定されれば、共通の基準で積立不足を解消していきます。
非継続基準の予定利率は、過去期間分に応じて発生している受給権に関して、想定される支払時期の貨幣価値を現時点の価値に換算するために使用します。
想定される支払時期は、制度を廃止するとなると通常、廃止と同時に一時金を支払うと考えたくなりますが、企業年金制度の趣旨に従い、定年年齢(老後)まで据え置いた上で年金又は一時金を支給するという前提により計算する考え方が採用されました。
従って、割引計算には、満期までの期間が十分長く、かつ、貨幣価値の換算に適したリスクの小さい債券である30年国債の金利を使用します。
※30年の根拠は必ずしも明確ではありませんが、日本の標準的な企業の平均年齢を40歳、定年年齢65歳とし、かつ、年金給付の場合は分割払いにより支給時期がさらに遅れることを考慮すれば、平均支払時期まで30年程度が見込まれます。
退職給付債務の割引率
退職給付債務は、企業が継続する前提の下、従業員等のこれまでの勤務期間(過去期間分)に応じて発生しているとみなされる債務を客観的に評価し、貸借対照表に負債(退職給付引当金)を計上するなどのために計算します。
退職給付債務の割引率は、過去期間分に応じて発生しているとみなされる債務に関して、想定される支払時期の貨幣価値を現時点の価値に換算するために使用します。
想定される支払時期は、各企業の過去実績等から作成した退職率等(各企業の実態を反映した客観的な前提)に基づき算定します。この想定される支払時期(金額の重みを考慮)までの年数をデュレーションと言います。
従って、割引計算には、デュレーションの年数に応じた国債又は優良社債(貨幣価値の換算に適したリスクの小さい債券)の金利を使用します。
【企業年金の債務評価で使用する3つの利率の比較】
継続基準の予定利率 | 非継続基準の予定利率 | 退職給付債務の割引率 | |
---|---|---|---|
使用目的 | 掛金率の算定 | 従業員等の過去期間分の受給権の評価 | 企業が保有している債務の評価 |
法令上の規制 | 直近5年間に発行された10年国債の応募者利回りの平均または直近1年間に発行された10年国債の応募者利回りの平均のいずれか低い方(下限予定利率)以上とする | 直近5年間に発行された30年国債の応募者利回りの平均 ※上記利率に0.8~1.2の係数を乗じた率を使用することが認められている |
決算日時点のデュレーションの年数に応じた国債または優良社債のスポットレート |
決定方法 | 各企業の年金資産の政策アセットミックスに基づき算定 (政策アセットミックスの決定に関する規制はない) |
全企業に共通の利率が適用 (0.8~1.2の係数については各企業が任意に選択可能) |
各企業のデュレーションの年数に対応した金利を使用 (国債または優良社債を採用するかは各企業が任意に選択可能) |
決定時の自由度 | 政策アセットミックス次第なので自由度は高い | 係数の範囲内で選択可能なので自由度は中程度 | デュレーションの年数でほぼ一意的に決まるので自由度は低い |
見直し時期 | 再計算時(5年に一度程度)に見直し(見直した結果、変更しないケースが多い) | 毎年4月1日に基準利率が改定 | 毎年決算時点で見直し、ただし重要性基準を適用して見直さないことも可 |