企業年金・退職金の価値向上-8- 企業年金・退職金のコスト削減策
掲載日:2016年1月25日
制度設計の見直し
一口に制度設計といっても、制度や給付プランその他、非常に多様な組み合わせがあります。信頼できる専門家に、「経営戦略」「人事戦略」あるいは「求める人物像」や「企業年金・退職金を設けている人事戦略上の目的や位置付け」などを伝えたうえで、いくつかの制度設計案の提示を受け、長期シミュレーションによりコスト実態を把握しつつ、慎重な議論、検討が必要となるでしょう。
制度設計は、根本的なコスト削減策になりうる一方で、パフォーマンスの低下を招く可能性もありますので、企業年金・退職金の価値(=パフォーマンス/コスト)を強く意識した設計が求められます。仮にコスト削減に軸を置いた制度の見直しを行う場合、より丁寧な労使合意プロセスが求められることは言をまたないところです。
なお、一般的に、企業が負担する運用リスクを軽減するためには、確定拠出型の制度への変更を行うケースが多いものの、想定利回り次第では、平均的な会計上の費用水準やキャッシュアウト水準が増加するケースもありえますので、長期シミュレーションがポイントになります。
(1)制度
・ 退職一時金制度
・ 確定給付企業年金制度
・ 確定拠出年金制度
・ 中小企業退職金共済制度
・ 特定退職金共済制度・・・etc.
(2)給付プラン
・ 定額制
・ 給与比例制
・ ポイント制
・ キャッシュバランスプラン・・・etc.
専門性が高く分かりにくいだけに、企業にとって最適な制度作りを、的確なシミュレーションと、分かりやすくフレキシブルな対応により実現できる専門家選びも大事なポイントです。また、運用実績連動型CBプランなど新たな制度設計プランがあること、厚生労働省企業年金部会での議論を踏まえ、さらなる制度改革が予定されていることなどを考えると、わかりやすくタイムリーな情報提供を受けられるかどうか、ということも重要なポイントといえるでしょう。
年金運用体制の見直し
最も重要であるのは、資産運用の結果の8~9割を決めるといわれる政策アセットミックスの策定です。政策アセットミックスを、年金ALM等により、負債特性を考慮して決定することにより、リスクを抑えつつ運用利回りの向上を期待できる可能性があります。仮に運用利回りが向上すれば、会計上の費用とキャッシュアウトが低下するという意味でコスト削減になりますし、リスクの低減も、本コラムの定義上、コスト削減の一つの形となります。
また、運用委託先の選定、ファンド採択等を含めた運用モニタリング態勢について、外部の専門家を活用して整備することにより、運用報酬の適正化や運用利回りの改善などコスト削減につながるケースもありえます。
企業年金・退職金運営コストの見直し
企業年金・退職金の運営コストは、外部へ支払うコスト(制度管理料、退職給付債務計算コストなど)に加えて、企業(基金含む)の内部人件費コストがあります。特に運営に関する内部人件費コストについては盲点になりやすく、逆に言えばスリム化できる余地があるでしょう。「人材不足、賃上げ」がテーマとなる『攻めのフェーズ』になりつつある今だからこそ、この運営に関する内部人件費コストは大事なテーマです。
企業年金・退職金に関する専門的な検討事項を、仮に社内専門家がいない状況で調査する場合には、極めて多くの時間(調査、社内会議等にかかる時間)を要し、外部専門家を効果的に活用した方が結果的に安く済むということが起こりえます。
前述の制度設計の見直しや、政策アセットミックス検討、運用モニタリングなどにおける外部専門家の活用もありえるでしょうし、退職給付債務の計算委託先についても、監査対応や会計処理対応、基礎率変更対応あるいは報告期間などについて、スピーディに対応できる外部専門機関を選ぶことにより、これらにかかる社内人件費を抑えることが可能です。
おわりに
専門性の高い企業年金・退職金についての様々な選択事項について、スムーズに検討を進め、最適な選択を行うためには、気軽に相談でき、かつ信頼できる専門家の活用が重要となります。企業年金・退職金に関する課題に取り組む際には、まずは既に取引のある総幹事、監査法人、コンサルティング会社等に積極的に相談されることをおすすめします。
企業年金・退職金が、より経営に役立つ、価値あるものとなり、企業の皆さまのご発展、ご成長が実現されますことを祈念しております。