【人事必見】2020年通常国会に提出された年金制度改正法案の概要
公的年金制度及び企業年金制度 (iDeCoを含む) 等を改正する法律案が 2020 年 3 月 3 日に国会に提出されました。法案の内容は基本的に社会保障審議会での議論に沿ったものとなっておりますが、施行期日等、新たに明らかになった事項もありますので、改めて整理しておきます。
なお、法律案の概要、要綱、新旧対照条文等については厚生労働省のWebサイト第 201 回国会 (令和 2 年常会) 提出法律案に掲載されています。今国会の会期は 6 月 17 日までの予定です。
※本法律案は、2020年5月29日の参議院本会議で可決、成立しました。
<参考記事>
企業年金・iDeCoはこう変わる~企業年金・個人年金部会で示された改正案
厚生年金・国民年金はこう変わる~年金部会で示された改正案
確定拠出年金に関する主な改正事項
(1) 公布の日から 6 ヶ月以内に施行
・中小事業主掛金納付制度 (iDeCo+) と簡易企業型年金 (簡易型DC) について、実施可能な企業の範囲を「従業員数 100 人以下」から「従業員数 300 人以下」に拡大する。
(2) 2021 年 4 月 1 日施行
・脱退一時金の受給要件のうち、通算拠出期間について「3 年以下」から「政令で定める期間内」 (具体的には 5 年以下を想定) に拡大する。
(3) 2022 年 4 月 1 日施行
・老齢給付金の受給開始時期の上限年齢を 70 歳から 75 歳に引き上げる。
(4) 2022 年 5 月 1 日施行
・企業型年金の加入要件について、65 歳未満の年齢要件及び 60 歳以上の同一企業要件を撤廃し、厚生年金被保険者であれば加入可能とする (規約の定めにより加入できる年齢は最長 70 歳未満となる) 。
・個人型年金 (iDeCo) の加入要件について、60 歳未満の年齢要件を撤廃し、国民年金の被保険者であれば加入可能とする (第 2 号被保険者が加入できる年齢は 65 歳未満となる) 。
・60 歳時点で加入期間がない場合でも、加入してから 5 年経過した時点で老齢給付金を請求できる (60 歳以降も新規加入できる…今回の法律案により新たな明らかとなった点) 。
・企業型年金の加入者が 60 歳未満で退職した場合に企業年金連合会へ資産を移換し、通算企業年金として受け取ることを可能とする (障害給付金の受給権者である場合を除く) 。
・脱退一時金の受給要件のうち、「保険料免除者であること」を「iDeCoに加入できないこと」等に改める (具体的には短期滞在の外国人が帰国する際に脱退一時金の請求が可能となる) 。
(5) 2022 年 10 月 1 日施行
・企業型年金の加入者も規約の定めにかかわらず iDeCo に加入可能とする (ただし iDeCo に加入する場合は企業型へのマッチング拠出はできない) 。
・レコードキーパーは、企業型年金の加入者がWebサイト等でiDeCoの拠出可能額を把握できるようにしなければならない。
確定給付企業年金に関する主な改正事項
(1) 公布の日に施行
・規約に定める老齢給付金の支給開始時期の上限年齢を 65 歳から 70 歳に引き上げる。
(2) 2022 年 5 月 1 日施行
・制度終了時に分配される残余財産を iDeCo に移換可能とする。
公的年金に関する主な改正事項
(1) 2021 年 4 月 1 日施行
・国民年金保険料の申請全額免除基準に未婚のひとり親や寡夫を追加する。
・短期滞在の外国人に対する脱退一時金について、支給上限年数を3年から政令で定める年数 (具体的には 5 年を想定) に引き上げる。
(2) 2022 年 4 月 1 日施行
・繰下げ受給の上限年齢を 70 歳から 75 歳に引き上げる。
・65 歳未満の在職老齢年金について、支給停止の基準額を 28 万円から 47 万円 (65 歳以上と同額) に引き上げる。
・65 歳以上の在職者の老齢厚生年金について、1 年ごと (毎年 10 月) に加入期間を年金額に反映させる。
(3) 2022 年 10 月 1 日施行
・週の所定労働時間が 20 時間以上 30 時間未満の短時間労働者について、従業員数 500 人以下の企業においても厚生年金保険を含む被用者保険の適用対象とする (ただし従業員数 100 名以下の企業については 2024 年 10 月に施行、従業員数 50 名以下の企業については従来どおり労使合意があった場合に適用対象とする) 。
・短時間労働者への被用者保険の適用要件のうち、勤務期間要件について「1年以上」を「2 月超」に改める。
・被用者保険の適用対象となる個人事業所の業種に、弁護士、税理士、社会保険労務士等の法律・会計事務を取り扱う業種を追加する。
著者 : 向井洋平 (むかい ようへい)
クミタテル株式会社 代表取締役社長
1978年生まれ。京都大学理学部卒業後、大手生命保険会社を経て2004 年にIICパートナーズ入社。2020年7月、クミタテル株式会社設立とともに代表取締役に就任。大企業から中小企業まで、業種を問わず退職金制度や高年齢者雇用に関する数多くのコンサルティングを手掛ける。日本アクチュアリー会正会員・年金数理人、日本証券アナリスト協会検定会員、1級DCプランナー、2級FP技能士。「人事実務」「人事マネジメント」「エルダー」「企業年金」「金融ジャーナル」「東洋経済」等で執筆。著書として『確定拠出年金の基本と金融機関の対応』(経済法令研究会)ほか。
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