厚生年金・国民年金はこう変わる~年金部会で示された改正案
2019 年 12 月 27 日、厚生労働省の社会保障審議会年金部会において、公的年金制度改正についての「議論の整理」がとりまとめられました。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08721.html
今後はこれに沿った形で法案化が進められる見通しです。以下、その内容について解説します。
中小企業等への厚生年金の適用拡大
(1) 500 人以下企業への段階的な適用範囲拡大
週の所定労働時間が 20 時間以上 30 時間未満の短時間労働者 (注) については、従業員 500 人超の企業等では全て厚生年金保険を含む被用者保険の適用対象としているのに対して、従業員 500 人以下の企業等では労使合意があった場合にのみ適用対象にすることとしています。
注:労働時間要件のほか、賃金要件 (月額 8.8 万円以上) 等の要件を満たす者
今回示された改正案では、労使合意によらず短時間労働者を被用者保険の適用対象とする企業等の範囲を段階的に拡大し、2022 年 10 月に「100 人超」、2024 年 10 月に「50 人超」とすることとされました。
(2) 勤務期間要件の見直し
短時間労働者を被用者保険の適用対象とする要件の 1 つに「勤務期間が 1 年以上であること (見込みを含む) 」がありますが、この期間をフルタイムの労働者と同様に「2 ヵ月超」とすることとされました。
(3) 個人事業所における適用業種の拡大
個人事業所については法定16業種に該当する常用従業員数 5 人以上の事業所が被用者保険の適用対象となっていますが、現在非適用となっている弁護士・税理士・社会保険労務士等の法律・会計事務を取り扱う士業についても適用業種に加えることとしています。
年金部会では当初、より広範に適用拡大を行う案も示されていましたが、企業の負担増に配慮すべき等の要請を受けて限定的、段階的な拡大にとどまりました。「議論の整理」では、本来、被用者には全て被用者保険を適用すべきであるという考えが繰り返し述べられており、被用者保険の適用拡大に向けて引き続き対応を進めていく必要があるとしています。
在職老齢年金の支給停止基準引き上げ
60 ~ 64 歳の在職老齢年金については、賃金と年金月額の合計が 28 万円を超えると年金の一部または全部が支給停止される仕組みとなっています。
今回示された改正案では、この支給停止基準額を 65 歳以上と同じ 47 万円に引き上げることとしています。当初は 65 歳以上についても支給停止の撤廃や基準額を引き上げる案が提示されていましたが、高所得の高齢者を優遇する等の意見もあり、現状維持となりました。
在職時改定の導入
65 歳以降、老齢厚生年金を受給しながら就労を続けて厚生年金保険料を納めた場合には、退職時または 70 歳到達時に 65 歳以降の加入期間を反映して老齢厚生年金の額を改定 (増額) する仕組みとなっています。
今回示された改正案では、在職中であっても 1 年ごとに 1 年分の加入期間を反映して額改定を行うこととしています。
繰上げ・繰下げ受給についての見直し
老齢基礎年金・老齢厚生年金の支給開始年齢は65歳ですが、実際の受給開始時期については個人が 60 ~ 70 歳の間で自由に選ぶことができ、受給開始を早めた場合 (繰上げ受給) は 1 月あたり 0.5% (最大 5 年で 30%) 年金額を減額、受給開始を遅らせた場合 (繰下げ受給) は 1 月あたり 0.7% (最大 5 年で 42%) 年金額を増額する仕組みとなっています。
今回示された改正案では、繰上げ受給の減額率を 1 月あたり 0.4% (最大 5 年で 24%) とし、繰下げ受給については上限年齢を 75 歳まで引き上げることとしています。なお、受給開始時期を 70 歳以降としたときの増額率は 70 歳までと同じ 1 月あたり 0.7% (最大 10 年で 84%) とすることとしています。
その他の主な改正事項
(1) 被用者保険の適用について、雇用契約の期間が 2 ヶ月以内であっても実態としてその雇用契約の期間を超えて使用される見込みがある場合は適用対象とする。
(2) 国民年金保険料の申請全額免除基準の対象について、地方税法上の非課税措置の対象に合わせ、未婚のひとり親や寡夫を追加する。
(3) 短期在留外国人の脱退一時金について、支給上限年数を現行の 3 年から 5 年に見直す。
著者 : 向井洋平 (むかい ようへい)
株式会社IICパートナーズ 常務取締役
日本アクチュアリー会正会員・年金数理人。京都大学理学部卒。大手生命保険会社を経て、2004 年、IICパートナーズへ入社。アクチュアリーとして退職給付会計や退職金・年金制度コンサルティング、年金資産運用コンサルティングをおこなう。2012 年、常務取締役に就任。著書として『金融機関のための改正確定拠出年金Q&A(第2版)』 (経済法令研究会/ 2018 年 10 月刊) がある。2016 年から退職金・企業年金についてのブログ『社員に信頼される退職金・企業年金のつくり方』を運営。
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