イグジットマネジメントと密接な関係にある退職金制度 | イグジットマネジメント入門
退職金や退職年金は文字通り退職時、あるいは退職後に支払われる報酬であり、イグジットマネジメントと密接な関係にあります。退職金制度を見ればその会社の出口戦略が分かるといっても過言ではありません。
出口戦略は退職金制度に表れる
例えば、次のような退職金制度を設けている会社があったとします (いずれも実在の会社をもとにした例です)。
【A社】30 代後半から 3 歳ごとに早期退職加算金を設定 (定年は 60 歳)
【B社】65 歳から退職年金を終身にわたって支給 (定年は 65 歳、その後も年齢上限のない継続雇用制度あり)
【C社】退職金なし、定年なし、採用に年齢制限なし
ここからどのような「出口戦略」を読み取ることができるでしょうか。
まず、A社に関してはかなり早い段階から 3 年おきに退職金の加算を設けており、定年を待たずに会社を離れて次のキャリアに進むことを想定した制度であることが読み取れます。
次に、B社に関しては定年年齢や継続雇用制度の内容から、高年齢者の雇用に積極的であることが窺えます。さらに終身年金を設けていることから、引退後の生活資金も十分に賄えそうです。能力や意欲のある社員には、老後に不安を抱えることなく自ら引退するまで働いてもらうことを想定した制度であることが読み取れます。
最後に、C社に関しては退職金も定年もないことから「生涯現役」を追求した制度であることが読み取れます。高年齢者を社員として受け入れることで、他社の出口の受け皿になっているということもできるでしょう。
これらは非常に特徴的な例であり、イグジットマネジメントに対する考え方が明確に表れています。一方、あなたの会社に 60 歳定年で継続雇用もなかった時代の退職金制度がそのままの形で残っていたとしたら、それは出口戦略の欠如を意味しているかもしれません。
高年齢者雇用安定法の改正により、すでに定年年齢に関わらず 65 歳までの継続雇用が定着しつつあります。さらに、70 歳までの就業機会確保に向けた企業の努力義務についても法改正に向けた具体的な検討が進んでいます。各社横並びではなく、自社の状況に合った出口戦略の構築と、それを反映した退職金制度の整備が求められます。
出口戦略は退職金だけでは構築できない
出口戦略が退職金制度に表れるからといって、退職金だけで出口戦略を構築できるわけではありません。A社のように 3 年おきに退職金の加算を設けたところで、次のキャリアが見えていなければ社員は会社を離れることはないでしょう。
また、B社やC社のような出口戦略をとるには、高年齢者が活躍できるような職務や職場環境が整備されていることが前提になります。昇級・昇格や賃金制度についても年功的な要素が強いと実現は難しいでしょう。
引退するまで社内で活躍できるようにするのか、どこかの時点で社外に活躍の場を見つけてもらうのか、いずれの方針をとったとしてもその実現には在職中からの積み重ねが重要になります。そのためには、人事評価制度の構築や運用、キャリア開発支援などの人事施策についても出口戦略に沿ったものでなければなりません。
退職金制度はいわば出口戦略のゴールに位置する施策です。ゴールを明示し、そこに向かって準備を進められるような環境を整えることが、人生 100 年時代における個人のキャリア自律と企業の競争力確保には欠かせないのではないでしょうか。
著者 : 向井洋平 (むかい ようへい)
株式会社IICパートナーズ 常務取締役
日本アクチュアリー会正会員・年金数理人。京都大学理学部卒。大手生命保険会社を経て、2004 年、IICパートナーズへ入社。アクチュアリーとして退職給付会計や退職金・年金制度コンサルティング、年金資産運用コンサルティングをおこなう。2012 年、常務取締役に就任。著書として『金融機関のための改正確定拠出年金Q&A(第2版)』 (経済法令研究会/ 2018 年 10 月刊) がある。2016 年から退職金・企業年金についてのブログ『社員に信頼される退職金・企業年金のつくり方』を運営。
出口 (イグジット) を見据えたシニア雇用体制の確立をしましょう
労働力人口の減少と高齢化が同時進行する中、雇用の入口にあたる採用、入社後の人材育成・開発に加え、出口 (イグジット) をどうマネジメントしていくかが、多くの企業にとっての課題となりつつあります。特に、バブル入社世代が続々と 60 歳を迎える 2020 年代後半に向けて、シニアの雇用をどう継続し、戦力として活用していくのか、あるいはいかに人材の代謝を促進するのか、速やかに自社における方針を策定し、施策を実行していくことが求められます。多くの日本企業における共通課題であるイグジットマネジメントの巧拙が、今後の企業の競争力を左右するといっても過言ではありません。
シニア社員を「遊休人員化」させることなく「出口」へと導くイグジットマネジメントを進めるために、まずは現状分析をおすすめします。
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