人事制度を構成する等級制度と評価制度、報酬制度 | イグジットマネジメント入門
人事制度は大きく分けて等級制度、評価制度、報酬制度の 3 つで構成されます。なかでも等級制度は人事制度の骨組みとなるものであり、社員の処遇や育成についての基本的な考え方を反映するものとなります。
職能資格制度と職務等級制度の違い
例えば、日本企業でこれまで広く採用されてきた職能資格制度は社員の能力水準をもとに等級を区分する考え方で、社員は能力の発展段階に応じて各等級に格付けされます。職能等級制度のもとでは、評価制度や報酬制度も社員の能力水準に着目して設計されることは自然なことです。
結果として、下位の等級では短期的な成果よりも能力水準の向上が重視されるため、長期的な視点から社員を育成していくのには適した仕組みだといえます。その一方で、経験年数などに基づく年功的な運用になりがちであり、上位等級においては能力と職責、処遇にミスマッチが起こりやすくなります。
これに対し、職務等級制度は社内のあらゆる仕事に対して職務評価を行い、その職責の大きさをもとに等級を区分する考え方です。つまり、人ではなく仕事に等級が紐づいているため、任せる仕事の内容とセットで社員の格付けが決まることになります。職務等級制度のもとでは、評価制度や報酬制度は職責の大きさやその達成度の観点から設計されることとなります。
職務等級制度においては同種の仕事の賃金相場から処遇が決定されるため、職責と処遇のミスマッチは起こりにくくなります。その一方で、仕事が変われば報酬も上下するため、ジョブローテーションなどにより長期的に社員を育成していくことは難しくなります。また、それぞれの仕事の内容や責任範囲を定めた職務記述書を整備し、これに沿って各社員の仕事の範囲を明確に定めたうえで組織運営を行っていくことが求められます。
再雇用社員にも人事制度は必要
しかし、実際には職能資格か職務等級かの二者択一ではなく、非管理職には職能資格寄り、管理職には職務等級寄りの制度を構築するなど、会社によって様々な等級制度が存在します。ただ、いずれにしても数十人以上の規模の会社であれば、等級制度とその考え方に基づく評価制度、報酬制度により人事制度を構成し、運用を行っているのが通常です。
ところが、60 歳未満の社員に対しては人事制度が詳細に設計されているのに、60 歳以降の定年後再雇用社員に対しては等級すら存在しないという会社が大企業でも少なからずあります。等級がないということは会社として再雇用社員に期待する役割や処遇の基準がないということですから、評価も行わないか、行うとしても基準のはっきりしないものとならざるを得ません。こうした会社では、報酬についても一定の額や、60 歳前の水準の一定割合により一律に定めることとなるため、処遇は能力にも職責にも見合わないものとなってしまいます。
今後大きく増えることが予想される 60 歳以上の社員を活性化させるためには、期待する役割を明確に定めて等級制度に落とし込み、それに基づいて評価や報酬を決める仕組みを整備しておくことが必要でしょう。60 歳以上の社員には、基本的にはそれまでに培った知識、技術、経験、人脈などを生かしたアウトプットが期待されるでしょうから、職能資格よりは職務等級寄りの仕組みのほうがマッチすると考えられます。そして高齢社員を 60 歳以降にスムーズに接続させるためには、60 歳未満の制度についても (年齢に応じて) 職務等級の考え方にシフトさせていくことが必要となります。
著者 : 向井洋平 (むかい ようへい)
株式会社IICパートナーズ 常務取締役
日本アクチュアリー会正会員・年金数理人。京都大学理学部卒。大手生命保険会社を経て、2004 年、IICパートナーズへ入社。アクチュアリーとして退職給付会計や退職金・年金制度コンサルティング、年金資産運用コンサルティングをおこなう。2012 年、常務取締役に就任。著書として『金融機関のための改正確定拠出年金Q&A(第2版)』 (経済法令研究会/ 2018 年 10 月刊) がある。2016 年から退職金・企業年金についてのブログ『社員に信頼される退職金・企業年金のつくり方』を運営。
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