人生 100 年時代に向けた定年延長の実態
最近は定年延長を実施する企業が増加してきましたが、実際どれほどの企業が定年延長を実施しているか、また、どのような課題を抱えているのかご存じでしょうか。
今回は国から公表されている調査結果をもとに、定年延長の実態に迫ります。
高年齢者の雇用状況の変化
『高年齢者の雇用状況』は、企業における高年齢者雇用確保措置の実施状況を把握するため、厚生労働省から毎年公表されている調査結果です。直近の平成 30 年の調査に基づく高年齢者雇用確保措置の内訳は図表 1 のとおりです。大部分の企業が「継続雇用制度の導入」を実施しているなかで、2 割弱の企業は「定年の引き上げ」(定年延長) を実施していることが分かります。
なお、企業規模別でみると、大企業より中小企業の方が定年延長の実施割合が高くなっています。
また、過去の調査結果をもとに、「定年の引き上げ」または「定年制の廃止」を実施した企業の推移を集計したのが図表 2 です。これを見ると、「定年の引上げ」を実施した企業は、少しずつ増加傾向にあることが分かります。
なお、「定年制の廃止」を実施した企業の割合はほとんど変わっていないため、定年制は維持したうえで、定年年齢の引き上げにより 65 歳までの雇用を確保しようとする企業が増えてきたと考えられます。
業種・企業規模と定年年齢の関係
『就労条件総合調査』は、企業の就労条件の現状を明らかにすることを目的に、厚生労働省が毎年実施している調査です。定年制に関しては、直近で平成 29 年に調査が行われており、定年年齢の状況は図表 3 のとおりです。
ほとんどの企業は定年年齢を 60 歳もしくは 65 歳としており、61 歳 ~ 64 歳としている企業は 3 %程度で、ごくわずかとなっています。
なお、企業規模が小さいほうが定年年齢が高くなっており、定年延長を実施していることがここからも分かります。
また、定年年齢を 65 歳以上としている企業の割合を産業別に集計した結果が図表 4 です。「宿泊費、飲食サービス業」が 29.8 %で最も高く、それ以外で「サービス業 (他に分類されないもの) 」「医療、福祉」「運輸業、郵便業」「建設業」においても 20 %を超えています。
いわゆる人手不足といわれている業種を中心に、定年延長が実施されていると言えるでしょう。
定年延長実施企業の実状
『定年延長実施企業調査』は、独立行政法人「高齢・障害・求職者雇用支援機構」が定年延長等を行った企業を対象に行ったアンケート調査です (発行日:2019 年 7 月 31 日 改訂版)。「なぜ定年を延長したか」、「定年延長を行って良かったことは何か」、「今後の課題はあるか」など、幅広い調査が実施されています。今回は、これらの調査結果の中から 3 点を紹介します。
1 つ目は、65 歳時点の賃金水準についてです。59 歳時点の賃金水準 (基本給・賞与) を 10 割とした場合の 65 歳時点の賃金水準は図表 5 のとおりであり、「10 割以上」 (59 歳時点と同水準以上) としている企業が全体の 6 割弱を占めています。
なお、企業規模別で見ると、規模の大きい企業の方が、59 歳時点と比べて賃金水準は低くなっている傾向があります。
2 つ目は、定年を延長した理由です。図表 6 のとおり、半数以上の企業が「高齢社員に働いてもらうことにより、人手を確保するため」、「60 歳を超えても元気に働けるから」、「優秀な高齢社員に引き続き働いてもらいたいと考えたから」を定年延長の理由として挙げています。
つまり、「元気に働ける」「優秀な社員」という「人材の確保」が定年を延長した理由と考えられます。
3 つ目は、定年延長にあたっての課題です。図表 7 のとおり、「高齢社員の賃金の設定」、「組織の若返り」、「社員の健康管理支援」、「高齢社員に長く働く気持ちになってもらうこと」を課題として挙げる企業が多くなっていることが分かります。
なお、図表には載せていませんが、企業規模が大きくなるにつれて、退職金や賃金原資の捻出を課題として挙げる企業が多くなっています。
このように、業種によっては定年延長が進んでいたり、企業規模によっては定年延長に消極的であったりすることが分かります。
クミタテル編集部
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