継続雇用制度はこう変わる~労働政策審議会で示された改正案
2019年 12 月 25 日、厚生労働省の労働政策審議会において雇用対策基本問題部会報告書及び雇用保険部会報告書が取りまとめられ、職業安定分科会に報告されました。
<第 143 回労働政策審議会職業安定分科会資料>
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08662.html
これらの報告書には、70 歳までの就業機会確保に向けた事業主の努力義務や、60 歳代前半を対象とした高年齢雇用継続給付の縮小が盛り込まれており、今後これに沿った形で法案化が進められる見込みです。以下、その内容について解説します。
70 歳就業に向けた事業主の努力義務
高年齢者の雇用については、2013 年に施行された改正高年齢者雇用安定法により希望者全員の 65 歳までの雇用が企業に義務付けられていますが、さらに 70 歳までの就業機会確保についても努力義務とすることが示されました。その概要は以下のとおりです。
(1) 就業機会確保措置の選択肢
「定年廃止」「定年延長」「継続雇用制度の導入」といった現行の継続雇用と同様の措置に加え、「関係会社以外の企業への再就職」「フリーランスや起業による就業」「社会貢献活動への従事」といった新たな措置を設け、これらの措置のうちいずれかを講ずることを事業主に対する努力義務とする (複数の措置の組み合わせも可)。また、雇用によらない措置による場合には、事業主が制度の実施内容を明示して労使で合意し、労働者に周知するよう努める。
(2) 就業機会確保措置の対象
65 歳以降の高年齢者については体力や健康状態その他の本人を取り巻く状況がより多様なものとなることから、事業主が講ずる措置について対象者の限定を可能とする。なお、対象者を限定する場合には、その基準について労使で合意が図られることが望ましい。
(3) 努力義務を負う事業主
現行の 65 歳までの雇用確保措置では関係会社で雇用を継続することも可能とされているが、70 歳までの就業機会確保措置の努力義務を負うのは 60 歳まで雇用していた事業主とする。
(4) 各選択肢の具体的な措置の内容
- ・「定年廃止」「定年延長」「継続雇用制度の導入」については現行の 65 歳までの雇用確保措置と同様とする (ただし対象者の限定を可能とする)。
- ・「他の企業への再就職」については関係会社での継続雇用と同様に事業主間で契約を締結する。
- ・「フリーランスや起業による就業」については、元従業員との間で 70 歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度を設ける。なお、どのような事業を制度の対象とするかについては、事業主が導入する制度の中で定めることができることとする。
- ・「社会貢献活動への従事」については、事業主または事業主が委託、出資 (資金提供) する団体 (当該団体とは 70 歳まで引き続いて事業に従事させることを約する契約を締結するものとする) が行う事業であって、不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するものに係る業務に元従業員が 70 歳まで継続的に従事できる制度を設ける。なお、どのような事業を制度の対象とするかについては、事業主が導入する制度の中で定めることができることとする。また、他の選択肢との均衡の観点から、制度の対象となる事業は高年齢者に役務の提供等の対価として金銭を支払う有償のものに限ることとする。
(5) 行政による指導や報告
厚生労働大臣は事業主に対して措置の導入に関する計画の作成及び提出、計画の変更や適正な実施を求めることができるようにする。また、事業主が国に毎年 1 回報告する「定年及び継続雇用制度の状況その他高年齢者の雇用に関する状況」について、70 歳までの措置に関する実施状況や労働者への措置の適用状況を報告内容に追加する。
(6) 努力義務化の時期
措置の導入に向けては、労使による話し合いや事前の周知に一定の期間を要することが見込まれることから、 過去の高年齢者雇用安定法の改正時の例も参考としつつ、 適切な準備期間を設ける。
現行の 65 歳までの雇用確保措置と比較すると、努力義務である点、対象者を限定することができる点、雇用以外の措置も選択肢に加えられている点が異なりますが、少なくとも自社においてどのような対応ができるのか (ふさわしいのか) を検討することが求められます。制度改正の時期については明示されていませんが、現行の継続雇用制度の経過措置が終了する 2025 年度が一つの目途になるものと思われます。
【追記】その後公表された法律案要綱では、70歳までの就業機会確保措置(努力義務)の施行時期は2021年4月とされました。
高年齢雇用継続給付の縮小
2025 年度には現行の継続雇用制度の経過措置が終了し、65 歳未満のすべての労働者が希望すれば継続雇用の対象者となります。すでに希望者全員が65歳以上まで働ける企業の割合は 78.8 % (2019 年) に達していることや、今後高年齢労働者も含め雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保が求められていくこと等を踏まえ、雇用継続給付としての高年齢雇用継続給付については段階的に縮小することが適当であるとされました。
具体的には、2025 年度から新たに 60 歳になる高年齢労働者への給付率を半分程度に縮小するとともに、その後の激変緩和措置についても併せて講じていくべきとしています。その上で、高年齢雇用継続給付の在り方については、これらの状況も見つつ廃止も含め更に検討を行うべきとしています。
現行の継続雇用制度においては、高年齢雇用継続給付の支給基準を勘案して 60 歳以降の賃金水準を設定している企業が少なくありません。こうした企業では、給付の縮小や廃止、同一労働同一賃金といった観点から、60 歳以降の処遇についての見直しを迫られることになるでしょう。
著者 : 向井洋平 (むかい ようへい)
株式会社IICパートナーズ 常務取締役
日本アクチュアリー会正会員・年金数理人。京都大学理学部卒。大手生命保険会社を経て、2004 年、IICパートナーズへ入社。アクチュアリーとして退職給付会計や退職金・年金制度コンサルティング、年金資産運用コンサルティングをおこなう。2012 年、常務取締役に就任。著書として『金融機関のための改正確定拠出年金Q&A(第2版)』 (経済法令研究会/ 2018 年 10 月刊) がある。2016 年から退職金・企業年金についてのブログ『社員に信頼される退職金・企業年金のつくり方』を運営。
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