会社が倒産しても退職金は大丈夫? | 連載「退職金がない会社は今すぐ辞めるべきか」
後払い賃金である退職金は、社員の立場からすると在職中からすでに受け取りの権利が発生しているものと考えることができます。しかしだからといって退職時に約束どおりの金額を受け取れるとは限りません。例えば会社が倒産してしまった場合、退職金はどうなるのでしょうか。
退職金は外部積立で守られる
経営破綻によって退職金 (企業年金) が減額された例としてよく知られているのが日本航空 (JAL) です。現役社員だけでなく、OB に支給されていた年金も減額の対象となり、当時大きなニュースとなりました。
しかし JAL のケースでは退職金が丸々なくなってしまうことはありませんでした。確定給付企業年金を実施しており、会社の資産とは切り離された状態で年金資産が積み立てられていたからです。
確定給付企業年金に積み立てられた資産は、法律上、会社に返還することが禁じられています。そのため、仮に会社が倒産して事業が継続できなくなるような状況であっても、年金資産が会社の借金返済に使われる心配はなく、積み立てられた資産は何らかの形で加入者 (現役社員) と受給者 (OB) に給付されることとなります。
もっとも、確定給付企業年金では一定の運用計画のもとに制度運営が行われるため、実際の運用収益が計画どおり上がらなければ積立不足が生じます。JAL のケースでは、年金の減額を前提に積立不足を圧縮し、企業再生支援機構の支援の下で制度が継続されることとなりました。
会社の資産と切り離された退職金の外部積立制度には、確定給付企業年金以外にも確定拠出年金や中小企業退職金共済、特定退職金共済などがあります。確定拠出年金に積み立てられた掛金は個人ごとの口座で管理され、会社が倒産したとしても影響を受けることはありません。また、中小企業退職金共済や特定退職金共済に積み立てられた掛金はそれぞれの運営団体において一括管理され、会社が倒産したとしてもそれまでの掛金納付実績に応じた退職金が個人に直接支払われることになります。
もし外部積立がなかったら
大企業では退職金の一部または全部を企業年金制度による外部積立としているケースが多いですが、中小企業では退職金制度はあっても外部積立を行っていないことが珍しくありません。外部積立がない会社が倒産したときには退職金はどうなるのでしょうか。
会社の倒産により破産手続きが進められる場合、会社の資産はすべて現金化され、債権者で分け合うこととなります。このとき、社員に対する未払い賃金や退職金はほかの一般債権 (例えば仕入代金) よりも優先される扱いとなります。しかし、そもそも会社に現金や資産が残っていなければ払いたくても払えません。 未払賃金立替払制度という国の制度により一部立替払いを受けられる可能性はあるものの、外部積立を行っている場合と比較すると退職金が支給される可能性や金額は低いといってよいでしょう。
なお、会社によっては退職金の資金準備のために養老保険などの保険商品を利用しているケースもありますが、社員が死亡した場合を除いて満期保険金や解約返戻金は一旦会社が受け取る契約となっています。そのため、会社の資産と切り離された外部積立制度とはいえず、退職金を守るというという意味では心もとないと言わざるを得ません。
著者 : 向井洋平 (むかい ようへい)
クミタテル株式会社 代表取締役社長
1978年生まれ。京都大学理学部卒業後、大手生命保険会社を経て2004 年にIICパートナーズ入社。2020年7月、クミタテル株式会社設立とともに代表取締役に就任。大企業から中小企業まで、業種を問わず退職金制度や高年齢者雇用に関する数多くのコンサルティングを手掛ける。日本アクチュアリー会正会員・年金数理人、日本証券アナリスト協会検定会員、1級DCプランナー、2級FP技能士。「人事実務」「人事マネジメント」「エルダー」「企業年金」「金融ジャーナル」「東洋経済」等で執筆。著書として『確定拠出年金の基本と金融機関の対応』(経済法令研究会)ほか。
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