確定拠出年金制度の改正――企業や運営管理機関はどう対応しているか 確定拠出年金教育協会 大江加代 氏 × 退職金専門家 向井洋平 後編
2016 年に、確定拠出年金法が改正された。企業型 DC に関しては、加入者への継続的な投資教育、運用商品や運営管理機関の選定や見直しといった面で事業主が果たすべき責務がより具体的に示された。この制度改正の背景には何があったのか、また今回の改正により企業に求められる対応とは? さらに、先進的に取り組んでいる企業の対応について、NPO法人 確定拠出年金教育協会 大江加代 氏と退職金専門家 向井洋平に話を聞いた。
—加入者利益優先を踏まえて運営管理機関が取るべき行動
向井 | 運営管理機関側は、今回の確定拠出年金法改正を受けて、どのように対応すべきだとお考えですか。 |
大江 | まず、現在の実態についてお話しますね。今年、運営管理機関からのサービスについて事業主さんに調査をしたところ、商品に関してはモニタリング報告などの面で、かなり改善が見られたようです。特に、加入者の利益を考慮した商品がラインナップである、ということについて、説明が相当なされているようです。 もっとも、これは法定業務なので、従来から運営管理機関側は、書類を作成して事業主に渡しているはずなんですが、事業主側の意識が薄かったので、多くはスルーしていたのでしょうね。でも、法改正により、運営管理機関サービスの評価項目として明示され、事業主も運営管理機関も意識が高まりました。そうすると、事業主側は、書類をもらっただけでなく、説明も受けたから、「説明してもらった」とポジティブに受け取って、運営管理機関を高く評価する、そういう良い循環がサービス評価に表れてきています。 |
向井 | 加入者の運用状況のレポートなどもそうでしょうか。 |
大江 | そうですね、商品モニタリングだけでなく、加入者モニタリングについても「良くなった」という意見が少し聞こえてきています。ただ、これは、実際には書式が変わったのではなく、受け取る側の意識が変わったこと、運営管理機関が渡すときにきちんと説明責任を果たすようになったこと、その相乗効果で「きちんとやってもらった」と感じているところが増えてきているのかな、とは思います。 事業主が、運営管理機関に求めているのは、例えば事業が同規模、または DC 加入率が同程度の企業が、DC 運営をしていく上で、また教育で、何をすれば高い効果が出るのか、というヒントや提案です。 特に、教育に関しては、どういうターゲットに何をしたら効果が出たのか、あるいは出なかったのか、課題はどこにあるのか、年代は? といったことについて知りたいと思っている熱心な事業主もいます。でも、それには加入者個人を特定しないけれどターゲッティングできるようなデータが必要になる。運営管理機関も、協力できるところは協力するような体制を取る必要があるのかな、と思います。 |
向井 | 投資教育は必ずしも運営管理機関の仕事ではないとはいえ、必要な情報を持っているのも運営管理機関ですしね。 ここまでで、運営管理機関が確定拠出年金法改正を受けて対応すべきことについて、商品や加入者のモニタリングについての説明責任を果たすこと、課題解決のヒントや提案になることを伝えること、という点について伺えました。ほかにはどうでしょうか。 |
大江 | コールセンターに入っているクレームや質問の内容を事業主に報告すること、ですね。「何件電話がありました」ではなく、こういった手続きの質問が多い、中途退職の人から少しクレームまがいのこんな問い合わせがあった、など具体的な内容が含まれるとよいと思います。 中には、会社の訴訟の種になりそうなこともあるかもしれないので、それは会社として知っておくべきですし、そこまで行かなくても、課題を解決するヒントが含まれているはずなので、ぜひそれは実行してもらいたいと思います。 少し脱線するのですが、運営管理機関のコールセンターの方たちは、本当に優秀なんです。加入者は、よくわからない状態で電話をかけてきますよね。場合によっては、何を聞きたいのかもはっきりしていないことがあります。それでも質問内容から、「この人は、これについて知りたいのかな」とアタリをつけ、加入者が何を聞きたかったかを探り出し、明確な答えを与えてくれる。電話版個人相談センターのような役割を果たしているのではないか、と思えるほどです。 せっかくそのような優れた機能があるのに事業主にも加入者にも知られていないようなので、それをぜひとも積極的に活用してもらいたいですよね。 |
向井 | コールセンターの存在はもちろん知っていましたが、利用したことはなかったので、そんなに優秀だとは知りませんでした。それは活用しないともったいないですね。 |
大江 | そして、運営管理機関に求めたい最後のことは、経営側が掛金の拠出をするだけでなく制度にコミットするよう口添えいただき、DC 担当者をサポートしてあげてください、ということです。 経営側は確定拠出年金制度を導入したらそれでこの仕事は終わった、と考えがちですが、実際は前述したとおり、そこがはじまりで永続的に運営していくもの。そのため、組織的対応、DC ガバナンス体制が求められます。 とはいえ、社内では、経営層より DC 担当者のほうが下の位置にいますよね。彼らが「DC ガバナンス体制を整備してほしいんですけど」と訴えたとしても、一蹴されてしまう可能性がある。そこで、「世の中の流れはこうなってきています。企業の佇まいとして、このままではまずいですよ」と、外部からつついて、その体制を取れるようにする、というわけです。それが運営管理機関の本業ではないことはわかるのですが、ぜひサポートしてあげてほしいところです。 |
向井 | 導入してかなり年数が経っているところでは、導入当時とは状況が変わってきていますからね。そもそもどういう目的で入れたのか、ということも確認しつつ、現状を踏まえて位置づけを見直す、そして今後どうしていくかを考えていくべきでしょうね。 |
—企業型 DC で金融リテラシーを学び資産形成を
向井 | 繰り返しになりますが、2016 年に確定拠出年金法が、加入者利益を考慮したものへと改正されました。とはいえ、法が変わるだけでは十分ではなく、加入者側も意識を高めていく必要がありますよね。 |
大江 | そうですね。自分の老後のお金ですから。いくらセミナーの機会を設けたとしても、他人事として捉えていると情報はすり抜けていってしまいます。誰であれ年を取り、老後を迎えるんだという意識を早めに持っていただきたいですね。 |
向井 | 加入者の意識が高まれば、会社側もますますきちんとしよう、という意識を持てますしね。 良い兆候だと感じている最近の動向としては、投資ブロガーの台頭が挙げられます。 |
大江 | 彼らはいわゆる「外の人」なので、金融機関が口に出せないようなことまでズバッと発信してくれますからね。彼らは金融機関の販売員より、投資信託についてかなり詳しいので、そういう人たちが情報発信してくれることにより、興味を持つ加入者が増えるのではないか、これがいい起爆剤になるのではないかと考えています。 運用会社も、投資ブロガーたちを呼んで、意見を聞いて新商品を作るようになってきているほどですからね。そういう人が社員にいたら、その人へも胸を張って説明できるように、事業主は商品を整えないといけない、という意味では、いい流れになっているかと思います。 今、企業型 DC の加入者は 720 万人というところまで拡がってきました。これは、サラリーマンの 6 人に一人は利用している状況です。人生 100 年時代に合わせ、継続雇用制度が敷かれる中、企業型 DC の加入可能年齢も引き上げられ、より活用される方向にリメイクされていくことでしょう。 企業型 DC に加入することで、はじめて投資信託と出会った人が多いことと思います。それにより、資産管理、資産運用、リスクといった教育を受けられたのではないでしょうか。 これからも、企業型 DC は、社会人が金融リテラシーを学ぶ場として大きな役割を果たしてくれると信じています。 |
向井 | 会社に企業型 DC があることで将来のライフプランやお金のことについて学ぶ機会が得られるわけですから加入者の方にはそうした機会を積極的に活用してほしいですね。今日はありがとうございました。 |
後編では「確定拠出年金法改正を受けて運営管理機関が取るべき対応」について語ります。
「確定拠出年金制度の改正――企業や運営管理機関はどう対応しているか 前編」に続く >-->
※取材日時 2019 年 10 月
※記載内容は、取材時点の情報に基づくものです。
出口 (イグジット) を見据えたシニア雇用体制の確立をしましょう
労働力人口の減少と高齢化が同時進行する中、雇用の入口にあたる採用、入社後の人材育成・開発に加え、出口 (イグジット) をどうマネジメントしていくかが、多くの企業にとっての課題となりつつあります。特に、バブル入社世代が続々と 60 歳を迎える 2020 年代後半に向けて、シニアの雇用をどう継続し、戦力として活用していくのか、あるいはいかに人材の代謝を促進するのか、速やかに自社における方針を策定し、施策を実行していくことが求められます。多くの日本企業における共通課題であるイグジットマネジメントの巧拙が、今後の企業の競争力を左右するといっても過言ではありません。
シニア社員を「遊休人員化」させることなく「出口」へと導くイグジットマネジメントを進めるために、まずは現状分析をおすすめします。
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2019 年 7 月より、従来実質的に対応が困難であった金融機関の窓口における確定拠出年金の運用商品の提示や説明が解禁され、金融機関行職員がその場で対応することができるようになります。そのため、確定拠出年金の業務に携わる金融機関行職員は制度の仕組みを正確に理解したうえで、個人および法人のお客様が制度を有効に活用できるようにするための対応力が求められます。
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