評価制度は管理職の武器である~高齢者雇用の負のトライアングルを打破するために~
1.評価の基準がないことでもたらされる負のトライアングル
高齢社員を重要な戦力として扱わない、いわゆる「福祉的雇用」では、高齢社員は人事評価の対象となりません。そうすると、「やってもやらなくても同じ」という意識から、本人のモチベーション低下が問題になります。
それと同時に、高齢社員を部下に持つ管理職にとっても評価の基準がないことは大きな問題となります。高齢社員にどこまで仕事を任せるべきか、どこまで期待してよいのかの判断ができないですから、こういうところでもっと貢献してほしいという思いがあっても、それを本人に伝えて実行に移してもらうことが難しくなります。
すると、期待されていないという思いから本人の意欲はますます低下し、周囲のメンバーにも不満がたまり、上司に対する不信も深まるという、まさに負のトライアングルに陥りかねません。
2.評価制度の目的は組織貢献
これを打破するためには、管理職に本来の役割を果たしてもらう必要があります。管理職の役割とは、高齢社員に対しても期待することを明確に提示して、その人が本来持っている能力や意欲を引き出して、組織に貢献してもらうことです。評価制度はそれを実行するための重要な拠り所となります。
評価というと、昇給や昇格、賞与を決めるための査定というイメージが強いかもしれませんが、それが本来の目的ではありません。もちろん評価には査定という側面もありますが、そこだけに目がいってしまうと管理職にとって「面倒で気の重い仕事」になってしまいます。部下の処遇を決める責任の重さがありますから、できればやりたくないというのが多くの人の本音でしょう。
しかし、評価制度の最終的な目的は、社員の意欲の向上や成長を促し、組織としての成長やパフォーマンスを高めることにあります。これは管理職の役割とも一致します。高齢社員に関して言えば、長期的な成長よりも、限られた期間の中でいかに能力を発揮して貢献してもらうかが重要になるでしょう。
ですから、会社として、高齢社員に期待する仕事の内容やレベル、それを遂行するために必要な知識・能力などを評価制度に落とし込んでおき、上司はそれに基づいて部下である高齢社員の具体的な目標設定を行ったり、目標設定に向けた働きかけができるようにしておくことが大切です。
査定については細かく行う必要はありません。目標設定に対してどこまでできたのか、期待された役割を果たせたのかという観点からシンプルに評価すれば十分です。項目をいくつも設けて点数を付けたりしても、負担が大きい割に社員のパフォーマンス向上には直接つながりません。
3.評価制度を管理職に使いこなしてもらうには
人事評価制度という道具を管理職に有効に使ってもらうためには、道具の使いやすさとともに管理職の意識も重要になります。よい評価制度ができたとしても、管理職が査定のための道具だと考えていると有効に機能しません。
評価制度について、管理職から「これはどういう基準で評価(査定)したらいいのか」という質問が出たら要注意です。評価制度の目的を、社員や組織のパフォーマンス向上ためではなく、社員の処遇を決めるためのものだと考えている可能性があります。
評価制度を自分になりに解釈して、これをどう使えば高齢社員のモチベーションアップや活躍、ひいては組織全体の活性化や成長に結び付けられるか、という視点で考えてもらうようにする必要があります。
そのためには、管理職に自分の本来の役割を自覚してもらうことが重要ですし、評価制度をつくる段階から管理職を巻き込んで進めるのもよいでしょう。
どんな仕組みにすれば高齢社員のマネジメントツールとして使いやすくなるか、という観点から管理職の意見を聞き、制度設計に反映させるとともに、そこでもし評価制度の目的を誤解しているような意見や質問がでたら、その都度正していくことで管理職の意識を変えていくことができます。
以上、今回は高齢社員のマネジメントを念頭に置いて評価制度について解説しましたが、「評価制度は管理職の武器である」という考え方はすべての社員に対して当てはまるものです。
部下の育成やキャリア開発といった重要なミッションに対しても、その手引きとなるような人事評価制度を用意することで、査定に対する負担感を減らし、管理職本来の職責を果たせるようにしていきましょう。
著者 : 向井洋平 (むかい ようへい)
クミタテル株式会社 代表取締役社長
1978年生まれ。京都大学理学部卒業後、大手生命保険会社を経て2004 年にIICパートナーズ入社。2020年7月、クミタテル株式会社設立とともに代表取締役に就任。大企業から中小企業まで、業種を問わず退職金制度や高年齢者雇用に関する数多くのコンサルティングを手掛ける。日本アクチュアリー会正会員・年金数理人、日本証券アナリスト協会検定会員、1級DCプランナー、2級FP技能士。「人事実務」「人事マネジメント」「エルダー」「企業年金」「金融ジャーナル」「東洋経済」等で執筆。著書として『確定拠出年金の基本と金融機関の対応』(経済法令研究会)ほか。