企業型DCを実施していない場合にDCの資産をもつ社員が入社・退職するときの対応
更新日:2019年2月26日
確定拠出年金法の改正によって2017年から個人型確定拠出年金(iDeCo)の加入者数は大幅に拡大しました。既に700万人近くにまで増えている企業型確定拠出年金(企業型DC)に加え、、個人型も広く普及していくと、入社時や退職時に、企業型、個人型、またはその両方に資産を持つ社員も増えてくることになります。
各企業におけるDCに関する入社・退職時の対応は、以下のとおり、企業型DCの実施状況によって異なります。
1.企業型DCを実施していない場合
2.企業型DCを実施しており、個人型DCへの同時加入を認めていない場合
3.企業型DCを実施しており、個人型DCへの同時加入を認めている場合
今回は、企業型DCを実施していない場合において、iDeCoまたは前職での企業型DCの資産をもつ社員(厚生年金の適用者)が入社・退職するときの対応をお話します。
入社時の対応
社員が入社前に企業型DC及びiDeCoに加入していた場合の資産の取り扱いは、以下のとおりとなります。
入社時のDC資産の取り扱い
企業型DCの資産 | 個人型DCの資産 | 取り扱い |
---|---|---|
あり | なし | 個人型のDCの口座を新たに開設し、企業型DCの資産を移す。 |
なし | あり | そのまま個人型DCの資産として運用を継続する。 |
あり | あり | 企業型DCの資産を個人型DCに移す(1つの口座にまとめる)。 |
(注)iDeCoの資産がなく、かつ企業型DCの資産額が1.5万円以下の場合、企業型DCの加入者でなくなってから6か月以内であれば、iDeCoへ資産を移すことなく、脱退一時金として受け取ることが可能。
企業型DCの資産はそのままもっておくことはできないため、iDeCoの口座に資産を移してもらうことになります(iDeCoの口座を持っていない場合には新たに口座を開設)。この手続きは、本人が行う必要があります。
【自動移換について】 前職で企業型DCに加入していた場合、退職から6か月以内に個人型DCに資産を移す手続きを行わないと、強制的に国民年金基金連合会に資産が移されます。これを「自動移換」といいます。 自動移換されると運用がストップし、手数料が差し引かれていくとともに、受け取り開始可能な年齢を判定するための期間にカウントされなくなるため、受け取りの時期が遅れる可能性があります。 こうした説明は、本来、前職の会社から退職時になされるべきものですが、本人にその認識がない場合もありますので、入社時にも改めて説明しておくとよいでしょう。 |
また、いずれのケースでも、社員は入社後、新たに、もしくは引き続きiDeCoに加入して掛金を積み立てることができますが、入社前の状況に応じて以下の手続きを本人が行う必要があります。
iDeCoへの掛金積み立てに必要な手続き
入社前の個人型DC加入状況 | 必要な手続き |
---|---|
未加入 | 金融機関に対して加入申出の手続きを行う。 |
会社員・公務員等として加入(注1) | 「加入登録事業所変更届」を金融機関に提出する。 |
自営業者・専業主婦等として加入(注2) | 「加入者被保険者種別変更届」を金融機関に提出する。 |
(注1)厚生年金の加入対象であった者
(注2)厚生年金の加入対象でなかった者
※入社前から引き続きiDeCoへの掛金積み立てを行う場合で、入社前の掛金設定が入社後の掛金の上限(企業年金の加入者となる場合は月1.2万円、ならない場合は月2.3万円)を超えている場合には、掛金額の変更も併せて行う必要がある。
これらの手続きには「事業所登録申請書兼第2号加入者に係る事業主の証明書」の添付が必要となるため、会社側は社員からの求めに応じて証明書への記入を行うこととなります(証明書の記入の詳細については「個人型確定拠出年金(iDeCo)の加入者拡大に企業はどう対応すべきか?」をご覧ください)。
【加入資格の証明がないと…】 入社前から個人型DCに加入していた社員が、入社後も引き続きiDeCoに掛金を積み立てようとしたとき、上記の手続きが行われていないと国民年金基金連合会で加入資格を確認することができないため、最終的には掛金の引き落としが停止され、掛金の積み立てができなくなります。 社員からクレームが出ないよう、事業主の証明書には速やかに対応しましょう。 |
退職時の対応
iDeCoに加入し、掛金を給与天引きで納めていた社員が退職する場合、本人が運営管理機関に対して手続きを行う必要がありますが、会社側からも国民年金基金連合会に対して掛金の引落し停止の手続きを行ったほうがよいでしょう。本人の手続きが漏れていたり遅くなった場合には、掛金の口座振替処理が継続されてしまうからです。
具体的には、「退職者に係る掛金引落停止依頼書」( 国民年金基金連合会Webサイトの「事業主の方へ」 からダウンロード可能)に必要事項を記入して、帳票下部に記載されている送付先に送付します。
退職日が月末の場合、依頼書は翌月中に提出し、翌々月から掛金の引き落としが停止されます。退職日が月末以外の場合、依頼書は当月中に提出し、翌月から掛金の引き落としが停止されます。
退職日と、天引きによる掛金の引き落としとの関係については、以下をご覧ください。
退職日と掛金の引き落としとの関係
退職日 | 加入資格 | 掛金の引き落とし |
---|---|---|
月末 | 退職の月までその会社での加入資格が認められる | 退職月の翌月が最終の掛金引き落とし |
月末以外 | 退職の月の前月までその会社での加入資格が認められる | 退職の月が最終の掛金引き落とし |
(注)iDeCoの加入資格は月単位で管理され、加入期間中の各月の掛金はその翌月に納付されることとなる。
【退職後も掛金が引き落とされてしまった場合】 国民年金基金連合会への手続きが遅れ、本来停止されるべき掛金の引き落としが行われてしまった場合は、本人から直接掛金相当額を返金してもらう必要があります。 給与天引きによりiDeCoの掛金を納付している社員が退職する場合は、本人に対して掛金納付方法の変更等の手続きを促すとともに、会社としても速やかに掛金引き落とし停止の手続きをとっておくのがよいでしょう。 |