転職や就職、退職の際にすべき iDeCo (イデコ) の手続き
こんにちは、IICパートナーズの退職金専門家 向井洋平です。
個人型確定拠出年金 (以下、iDeCo) の加入者が増えていますが、iDeCo に関する手続きは加入するときだけでなく、転職や就職、退職の時にも必要となります。加入者本人や企業はどのような対応が必要となるのか、まとめてみました。
iDeCo (イデコ) に関する加入者本人の手続き
1. 60 歳前に就職・転職して企業型確定拠出年金の加入者となる場合
iDeCo に加入していた人が企業型確定拠出年金 (以下、企業型DC) を実施している企業に就職・転職し、企業型DCの加入者となる場合には、引き続き iDeCo に加入することはできません (就職・転職先の企業型DCで iDeCo への同時加入が認められている場合を除く)。そのため、国民年金基金連合会 (以下、連合会) に対して資格喪失届を提出する必要があります。資格喪失届を提出しないままその後も掛金が引き落とされると、あとでその分の掛金は還付されることとなり、その際に手数料 1,461 円 (消費税8%込み) を徴収されます。
また、企業型DCへの加入に伴い、それまで iDeCo で積み立てた資産を就職・転職先の企業型DCに移換することができます (iDeCo への同時加入が認められている企業型DCに加入する場合でも資産の移換は可能)。掛金の積み立て、運用を企業型DCに一本化することで、iDeCo の手数料負担がなくなるメリットがありますので、基本的には勤務先で移換の手続きを行っておくのがよいでしょう。ただ、企業型DCに魅力的な運用商品がなく、引き続き iDeCo の商品で運用を継続したい場合には資産を移換しないでおくという選択肢も考えられます。
2. 60歳前に就職・転職して会社員や公務員となる場合
就職・転職先で企業型DCの加入者となる場合は上記 1. のとおり iDeCo には加入できなくなりますが、企業型DCの加入者とならない場合 (および企業型DCの加入者となる場合でも iDeCo への同時加入が認められている場合) には、引き続き iDeCo に加入することができます。ただし加入資格を証明するため、新しい勤務先で「事業主の証明書」を記入してもらい、これを添付して登録事業所の変更届 (自営業者、専業主婦等から会社員や公務員になる場合は被保険者種別の変更届) を連合会に提出することが必要となります。この届出がされていないと連合会で加入資格の確認ができなくなるため、掛金の積み立てが停止される場合があります。
また、就職・転職に伴って被保険者種別や企業年金の加入状況等が変わると掛金の限度額も変わることがあります。たとえば、企業年金のない会社から転職して公務員になったときには掛金の限度額が 月 12,000 円 に引き下がることから、これ以上の掛金を拠出していた場合は掛金額の変更も必要となります。
なお、引き続き iDeCo に加入できる場合であっても、資格喪失届を提出することで掛金の積み立てを停止し、資産の運用だけを続ける運用指図者となることもできます。
3. 60歳前に企業を退職して自営業者や専業主婦 (夫) になる場合
「国民年金保険料の免除や猶予を受けることになった」「海外移住することになった」等の非常に限られたケースを除き、引き続き iDeCo に加入することができます。ただし、国民年金の第2号被保険者から第1号または第3号被保険者になることから被保険者種別の変更届を提出する必要があります。この届出がされていないと、連合会で加入資格の確認ができなくなるため、掛金の積み立てが停止される場合があります。
なお、資格喪失届を提出して運用指図者となることもできる点は上記2.と同じです。
4. 自営業者から専業主婦 (夫) になる場合、またはその逆の場合
上記 3.と同様に引き続き iDeCo に加入することができますが、被保険者種別の変更届を提出する必要があります。また、自営業者から専業主婦 (夫) となったときには掛金の限度額が 月 23,000 円 に引き下がることから、これ以上の掛金を拠出していた場合は掛金額の変更も必要となります。資格喪失届を提出して運用指図者となることもできる点も上記 3. と同じです。
そのほか、勤務先の会社で企業年金制度が導入または廃止され、企業年金の加入状況が変わったときなどにも届出が必要となります。連合会から送付される「加入者・運用指図者の手引き」を確認したり、運営管理機関や連合会に問い合わせるなどして対応漏れのないようにしておきましょう。なお「加入者・運用指図者の手引き」については、連合会のイデコ公式サイトに最新版が掲載されています。
iDeCo (イデコ) に関する企業の手続き
1. 給与天引きで iDeCo の掛金を納付している社員が60歳前に退職したとき
iDeCo 加入者である社員が 60 歳前に退職した場合は、本人が運営管理機関に届け出る必要がありますが、届出がない場合は引き続き掛金の口座振替処理が行われてしまいます。このため、事業主は「退職者に係る掛金引落停止依頼書」に退職者の氏名や基礎年金番号等を記入し、連合会に提出することで、退職者に対する掛金の口座振替処理を停止することができるようになっています。依頼書の帳票や記入要領は、連合会のイデコ公式サイトに掲載されています。
また、事業主払込 (給与天引き) による iDeCo の掛金納付を行っている企業には、連合会から毎月引落予定の明細が送られてきますので、退職者への引落が紛れ込んでいないか確認しておきましょう。なお、退職日が月末の場合は掛金の引落は翌月まで、退職日が月末以外の場合は掛金の引落は退職の当月までとなります。
2. 入社する社員が iDeCo に加入していたとき
自社で企業型確定拠出年金 (以下、企業型DC) を実施しており、入社する社員がその加入者となる場合には、iDeCo の資産を企業型DCに移すことができます。入社前に別の会社で企業型DCに加入していた場合も、その資産を自社の企業型DCに移すことになります。したがって、採用時には個人型または企業型の確定拠出年金に入っていたかどうか、iDeCo の資産がある場合には資産の移換を希望するかどうかを確認し、移換すべき資産がある場合には企業型DCの運営管理機関に対して必要な手続きを行います。
一方、企業型DCを実施していない場合や、企業型DCを実施していても iDeCo への同時加入を認めている場合で、入社する社員が引き続き iDeCo への加入を希望する場合は、既存の社員が新たにiDeCo に加入するときと同様に、社員からの求めに応じて「事業主の証明書」への記入・押印を行うこととなります。
そのほか、企業側で対応が必要となるケースとして、事業主払込により iDeCo の掛金を納付している社員が掛金を変更 (停止) した場合や休職した場合、企業年金制度の導入や廃止によりiDeCo に加入している社員の企業年金の加入状況等に変更が生じた場合などがあります。連合会から送付される「事業主の手引き」を参照し、不明な点が生じたときには連合会に直接問い合わせるなどしても対応漏れのないようにしておきましょう。なお「事業主の手引き」については連合会のイデコ公式サイトに最新版が掲載されています。
著者 : 向井洋平 (むかい ようへい)
株式会社IICパートナーズ 常務取締役
日本アクチュアリー会正会員・年金数理人。京都大学理学部卒。大手生命保険会社を経て、2004 年、IICパートナーズへ入社。アクチュアリーとして退職給付会計や退職金・年金制度コンサルティング、年金資産運用コンサルティングをおこなう。2012 年、常務取締役に就任。著書として『金融機関のための改正確定拠出年金Q&A(第2版)』 (経済法令研究会/ 2018 年 11 月刊) がある。2016 年から退職金・企業年金についてのブログ『社員に信頼される退職金・企業年金のつくり方』を運営。
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