リタイア後の資金に不安を抱かないために――マネープラン研修を活用して成功する秘訣とは?|家計の総合相談センター 井澤江美 氏×退職金専門家 向井洋平 前編
老後の資金が 2,000 万円足りない――金融庁による金融審議会報告書が話題を呼んだのは記憶に新しい。その是非はともかく、「人生 100 年時代」を迎えている現在、マネープランを多くの人が見直すきっかけになったのは確かだろう。実は、それ以前からシニア社員だけでなく、中堅や若手社員にもマネープラン研修を行う企業が増加している。なぜ増えてきているのか、せっかくのその機会を企業や社員はどのように活用すべきか。年間で 1,000 回のセミナーと 1 万世帯の家計相談を担当する「行列のできる人気ファイナンシャル・プランナー」であり、株式会社家計の総合相談センター 代表取締役の井澤江美 氏と退職金専門家 向井洋平に話を聞いた。
—26 歳で独立した「行列のできる人気ファイナンシャル・プランナー」
向井 | 年間 1,000 回のセミナーと 1 万世帯の家計相談を担当されて、最近のご著書『行列のできる人気女性FPが教えるお金を貯める・守る・増やす超正解 30』の帯には 3,000 万円貯まった人続出という文言で井澤さんのことが紹介されていますが、改めて、御社でどのようなサービスを提供されているのか、また井澤さんご自身について教えていただけますか。 |
井澤 | 社会人デビューしたのが平成元年で、会計コンサルティング会社に入社しました。その後、トヨタ自動車を含む大企業へのサービス提供をしていた会計コンサルタント会社に転職。だから、ファイナンシャル・プランナー (FP) 業務デビューはトヨタ自動車さまだったのですよ(笑)。 |
向井 | それはちょっと驚きの経験ですね。時価総額20兆円を超える企業ですからね。 |
井澤 | そうなのです。私自身も名古屋出身で名古屋の会計コンサルティング会社に就職したおかげ、というのもあるのですけどね。 当時、企業側人事の悩みは、社員が退職金をもらう時に、企業年金と退職金をどのように貰えばよいかという問い合わせが殺到し、担当者の業務がパンクしそうになっていたというもの。それで、会計コンサルティング会社なのに FP 業務の依頼があった、というわけですね。 やがて、提供先がトヨタグループ各社、東京本社などへ広がる一方、一般社員ではなく銀行員や証券会社、保険会社のスタッフといったプロ向けのコンテンツも手掛けるようになり、26 歳の時に FP として独立しました。 |
向井 | ずいぶん若い時に独立されたのですね。会社を出て、一本立ちしていこうと思ったきっかけは何だったのでしょうか? |
井澤 | 逆に、まだ若かったので独立した、というのが正しいかもしれません。というのも、それまで所属していたのが、“会計コンサルティング”の会社。企業経営や企業会計を主に行っていたのですが、26 歳という若い女性が社長などの経営層に「この決算書だと、これこれこうかもしれない」と言ったところで、あまり説得力がない。でも、保険や年金、投資信託という分野であれば、“家計”と直結しているので、女性としてマッチしている。 また、その会社の代表の公認会計士の先生がアメリカでの会計コンサル事務所の経験を持っている人で、わたしも何度か視察や OJT (オン・ザ・ジョブ・トレーニング) で渡米させてもらいました。その際、401k 確定拠出年金が一般的であること、独立した FP がいることなども目にし、「女性としては FP のほうが仕事していきやすいかもしれない」と考える機会を得られたのです。 本当は、企業会計を極めようと考えていたのですが、そういう理由からパーソナルファイナンスへキャリアチェンジし、極めていくことになった、というわけですね。今となっては、キャリアチェンジしておいて良かったなぁと思うのですが。 |
向井 | たぶん、その当時でも、男性 FP がたくさんいたと思うのですが、そのような中で企業との関係を構築しているというところが、天職なのかなぁと思ってしまいますね。 |
井澤 | むしろ、一般のお客様だとあまり需要がない時代だったので、企業向けに提供していた、というのが良かったのかもしれませんね。 |
向井 | FP 業務を個人としてやられている方はよくお見かけするのですが、組織としてというのは珍しいですよね。 |
井澤 | そうですね。この書籍の「 1 万世帯」「 1,000 回」というのはもちろんわたし 1 人ではできないので、メンバーと一緒に行っている実績。セミナーや相談会を各地で行っています。もちろんわたしも実業務に当たっていて、今日も午前中にマネープラン研修を行ってきたのですよ。 |
向井 | お忙しいところ、ありがとうございます(笑)。 |
井澤 | いえいえ(笑) なので、本当に相談業務を担当していて、本も書いている、というのが売りなのですが、それもメンバーに支えられているからこそですね。 1 人ではないことのメリットにはいろいろあるのですが、企業に研修のスケジュールを組んでもらっているのに、自分が倒れてしまったとき、個人ではどうしようもありませんが、会社組織でやっていれば、何人もの講師の中から代わりに派遣できる。相談業務も、もともとの担当者に何かあっても次の担当者に引き継げる。お客様を不安にさせない、という点で組織は強いなと感じますね。 メンバーは、FP、社会保険労務士、税理士、男性・女性講師・相談員の年齢層や家族構成も様々ですので、ニーズと合わせて対応できます。 また、弊社名には「総合」という二文字が入っていますが、これはマネープランの 6 分野、すなわち貯蓄・保険・年金・相続・税金・住宅資金すべてを網羅して、部分最適ではなく全体最適になるようなマネープランをご提案できる、という意味を込めています。 |
向井 | 相談についても特徴があるとのことですが。 |
井澤 | いきなり相談から入ると、何から何までわからない状態ですので、内容のクオリティが下がってしまいます。そこで、弊社ではまず 2 時間ぐらいのセミナーを受けていただいてから個別相談に応じる、という流れをとっています。 逆に言えば、マネープラン研修が終わったら、それで“おしまい”ではなく、じゃあ自分の場合ではどうすればいいのか、という個別具体的なことを相談していただける、ということでもありますね。 さらに、手続きという実践の分野でもわからない箇所があればサポートさせていただく。「学ぶ」「相談する」「実践する」の 3 ステップにおいてサービスを提供しているのも弊社の特徴の1つですね。 |
向井 | メンバーが多いから、途切れないし、マネーに関する 3 ステップに対応しているから、一貫したサービスを提供できるというわけですね。 |
—イグジットマネジメントとパーソナルファイナンスの関係とは
向井 | 企業向けにも同様のサービスを提供されているのですよね。弊社でも、そのような FP 業務を提供してもらえないか、という問い合わせを受けているので、ぜひご協力いただければと思います。 |
井澤 | 弊社のクライアントからも、企業年金を見直したい、というご要望があった時に御社にお願いできればと思っていまして。 実は、確定給付年金についてどうしたらいいのかわからなかった 3 年か 4 年ほど前に、御社のことをネットで知り、相談させていただいた、というのが最初なのですよ。 |
向井 | 退職後のマネープランへの関心が高まっていますから、御社でも「退職金制度をどうにかしたい」というお話を受けることが増えてくるでしょうね。 これまで、日常ではほとんど意識されておらず、退職が近づいて急に心配になってくる、ということが多かった。でも、あの報告書のおかげで退職金制度があることの意義や退職後のマネープランをどうしていくか、ということへの意識が高まり、知識も取り入れてもらえるようになった、となればいいいですね。会社が用意している退職金制度の価値への認識を、御社とも協力しつつ高められるようにしていければと考えています。 |
—世代別・テーマ別研修の需要が高まり他社へも拡大
向井 | 今回の 2,000 万円問題が話題になる前からマネープラン研修の開催数が増加傾向にあるとお聞きしています。これにはどういう背景があるんですか。 |
井澤 | マネープラン研修を提供し始めた 30 年前は、退職と同時に年金給付が始まり、人によっては年金をもらいながら失業手当ももらえるというような、いわゆる“いい時代”でした。そのため、受講側には課題意識がそれほどありませんでしたが、その先を見ている人事や労働組合では「このあとの世代が大変になるのでは?」という危機感を抱いていました。 そこで、定年退職直前セミナーだけでなく、50 代セミナーをやってみようということになったんです。 ところが、開催してみると、研修後アンケートに「もっと早く知りたかった」と書かれるかたがとても多く、40 歳セミナーをやってみよう、ということになりました。その結果、「もっと早く」「もっと早く」というアンケート結果を受け、一人の人が新卒から定年退職直前まで何度も研修を受講するようになり、このような年代別研修が生まれたため、マネープラン研修の回数が増加した、というのが、一点目です。 次に、確定拠出年金、NISA、投資信託の選びかたなどテーマが増えました。これはイベントに組み込んでいただいたり、任意参加型ではあるんですが、一社あたりの回数が増えることに。これが二点目ですね。 最後は、研修を取り入れてくださっている企業からの口コミというのでしょうか。人事担当者も組合員さんも横のつながりがあるので、「すごく良かった」となれば、グループ会社の人が見学にやってきて「うちでもお願いしたい」というお話になります。 また、福利厚生システムを提供している会社から「マネープラン研修を受け持ってもらえないか」とご依頼いただき、今までつながりがなかったような企業への提供もはじまる。こういう他社への展開が広がっていることも、弊社でマネープラン研修を提供する機会が増えている理由の1つとなっています。 |
向井 | 1 つの会社内で、年代別、テーマ別に広がり、やがて他社展開も生まれて拡大していく。需要がそれだけ増えているということなんですね。 |
井澤 | そうですね。あともう一点、景気が回復してきたため増えてきたキャリア研修の中に組み込んでいるから、というのもあるかもしれません。マネープランについて、キャリア研修の講師でもある程度は“ついでに”できるかもしれませんが、そこを専門家であるわたしたちに依頼していただける。餅は餅屋ですからね。おかげさまで、アンケートでの評判も良く、キャリア研修と健康セミナーの2軸で考えていた人事担当の人が驚くくらいです。 |
向井 | やっぱり、お金の話は一番知りたいところですからね。聞きたいという気持ちと井澤さんが提供している内容がマッチしているということなんでしょうね。 |
後編ではマネープラン研修について語ります。
※取材日時 2019 年 6 月
※記載内容は、取材時点の情報に基づくものです。
出口 (イグジット) を見据えたシニア雇用体制の確立をしましょう
労働力人口の減少と高齢化が同時進行する中、雇用の入口にあたる採用、入社後の人材育成・開発に加え、出口 (イグジット) をどうマネジメントしていくかが、多くの企業にとっての課題となりつつあります。特に、バブル入社世代が続々と 60 歳を迎える 2020 年代後半に向けて、シニアの雇用をどう継続し、戦力として活用していくのか、あるいはいかに人材の代謝を促進するのか、速やかに自社における方針を策定し、施策を実行していくことが求められます。多くの日本企業における共通課題であるイグジットマネジメントの巧拙が、今後の企業の競争力を左右するといっても過言ではありません。
シニア社員を「遊休人員化」させることなく「出口」へと導くイグジットマネジメントを進めるために、まずは現状分析をおすすめします。
向井洋平 著『確定拠出年金の基本と金融機関の対応』好評発売中
2019 年 7 月より、従来実質的に対応が困難であった金融機関の窓口における確定拠出年金の運用商品の提示や説明が解禁され、金融機関行職員がその場で対応することができるようになります。そのため、確定拠出年金の業務に携わる金融機関行職員は制度の仕組みを正確に理解したうえで、個人および法人のお客様が制度を有効に活用できるようにするための対応力が求められます。
基本的な知識からお客様への対応までをわかりやすく説明し、確定拠出年金の業務に携わる方々の一助となる一冊です。
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