【対談】未来貯金 板山康男氏 × 退職金専門家 向井洋平|お金の自律を促し従業員のリタイア後の生活を守る 後編
金融庁は、5 月 22 日、「高齢社会における資産形成・管理」と題する報告書で、「公的年金だけでは望む生活水準に届かないリスク」について言及し、リタイア後の収入が足りないと思うのであれば、資産形成や運用などにより各々「自助」の充実を図っていくようにとのススメを行なった。つまり、お金の面で自律するよう促したわけだ。リタイア後のお金について、会社勤めをしているうちからどのようにリテラシーを上げていくことができるだろうか。特に、現役社員の金融リテラシー向上という面で効果を上げている『みらいナビ』サービスを提供する未来貯金株式会社 代表取締役社長 板山康男氏と退職金専門家 向井洋平 に、今求められる「お金の自律」について語ってもらった。
—「理解させる」より「納得してもらう」
向井 | リタイア後の生活水準を守るためには、確定拠出年金など自分でできる備えを活用する必要があります。しかし、お話の中で、漠然とその必要を感じていても、何をしたらいいかわからない、わからないから放置する、という具合に、将来のお金と今の生活の間に距離感が生じていることがわかってきました。板山さんが提供しているみらいナビは、どのようにその溝を埋め、いわゆる金融リテラシー向上に役立つのでしょうか。 |
板山 | そうですね、前回は、会社からの「やらされ感」、つまり自分で選んで行動したわけではないのに確定拠出年金に加入している人が多いということ、また、投資教育を行う際の前提が間違っているというお話もしました。 |
向井 | 「理解が足りないから投資行動をしない。ならば理解してもらうために勉強の機会を設けよう」ということでしたね。 |
板山 | そうです。 でも、例えば「ドルコスト平均法」という言葉をセミナー内で使って、投資について説明したところで、そんな専門用語を聞かされても意味がわからないから聞きたくなくなって、セミナー全体への聞く耳を持たなくなってしまいます。 金融商品について年中考えている専門家だからこそ理解できることを、わずか 1 時間から 2 時間で理解していただくことは困難であり、全体を理解してもらうことを目指すのではなく、積極的な投資行動のために納得していただくことを目指します。そのために必要なポイントはわずか 4 点であり、そこに絞ってお伝えする投資教育をわたしたちはオリジナルコンテンツとして開発しました。 |
向井 | 必要なポイントだけ理解できるから行動が取れる、というわけですね。確定拠出年金に加入する、というのは将来のお金と今の生活の距離を縮める第一歩になりますよね。 |
板山 | その後はみらいナビの出番です。 よく、「スマホで見るのなら、Web ブラウザで見られる金融機関が提供するサービスと何が違うのか」と訊かれます。ひとつは、その人に必要な商品を推奨するといったカスタマイズされたアドバイスができるかどうか、もうひとつは手順が簡便であるかどうかです。ブラウザを立ち上げて、該当ページを開いて、ID とパスワードを入力するのは面倒なものです。 でも、みらいナビはアプリですから、ホーム画面のアイコンをタップしてログインすれば、ほんの数タップで自分の資産情報にアクセスできます。また、プッシュ通知も送れるため、見てほしい情報を見ていただくことができます。 操作する時間が短ければ短いほど、情報にアクセスしやすくなり、目にすればするほど「自分の」残高だと感じていただける、というわけです。 実際、現在57社で導入していただいており、ユーザー数 5 万 3000 人になりましたが、今まで全くといっていいほど動きがなかった投資行動が見られるようになってきたという話を聞いています。簡単に見られるから何度もアクセスする。何度も見るから身近に感じる。少しでも増やそうという工夫をする。将来のお金との距離感を縮める第一歩を踏み出すお手伝いをみらいナビができている証かな、と感じています。 |
向井 | 金融リテラシーを向上させるには、経験していただくこと、いかに情報に触れていただくかが重要ですが、みらいナビアプリは至便性が高いので、そこをクリアしているということなんですね。 |
—お金の自律と定年後キャリアの切っても切れない関係
板山 | 向井さんはイグジットマネジメントの専門家でもいらっしゃいますが、退職後のキャリアとマネープランについてはどういうふうに考えていますか。 |
向井 | 人生 100 年時代といわれる中で、お金もキャリアも自律するのが大事になってきたと感じています。 もともとわたしは退職金のことを専門にやってきたわけですが、会社を辞めるときにもらうそのお金に人事施策として今後どのような意味づけができるのだろうかという疑問をもつようになりました。そういう制度を設けているからには、会社としては退職するときにどのように退職してもらいたいのか、従業員だった人の退職後の生活はどうあってほしいのか、という考えがあると思うんです。 雇用の「出口」はお金以外の部分、つまりキャリアとも関係しています。そうであれば、マネープランとキャリアをつなげる必要がある。雇用とキャリアの出口戦略を考えておくことで会社と社員の双方にとって有益な支援ができれば、ということでイグジットマネジメントに取り組んでいくことにしました。 「老後」ではない「定年後」を自分で過ごしたいように過ごせるかどうかは、生き方としてのキャリアと生活のためのマネーをいかにしっかりプランニングするかが重要で、自分の人生を歩むためにキャリアとお金の自律した考えが欠かせないわけですよね。 板山さんのように、早期退職制度をうまく活用して、第二の自分の人生を歩める人はほんの一握り。会社を退職した後のキャリアプランやライフプランを一人ひとりが考え、行動に移せるようになれば、良い世の中になっていくのではないかなぁと考えているんです。 |
板山 | 定年が 60 歳から 65 歳、あるいは 70 歳に引き上げられたとしても、まだ引退後の時間は長いですよね。 |
向井 | 引退後の資金を普段から考えるという点で、みらいナビは、「確定拠出年金を自分ごととして捉える」役割を担っていますよね。 |
板山 | そうですね。アプリのログを見ていると、世代に関係なく、月 4 回弱、つまり週 1 の割合で資産情報にアクセスしています。全ユーザーの 10% は 2 日に 1 回以上、残高にアクセスしています。 一方、年 1 ~ 2 回届く封書のレポートを開封して見ていない人も多くいらっしゃいますね。 50 代になると、もっと関心が高まってきて、アクセスが頻繁になりますが、もっと前から気にして、投資行動を変えてほしいというのが我々の願いなのです。 |
向井 | 60 歳前後では、投資行動もそうですが受け取り方をどうするか、ということを考えないといけませんしね。一時金で受け取るのか、年金で受け取るのか、あるいはそれらを組み合わせるのか。 |
板山 | 金融に関心のある方でも、封書で届くレポートを開封して、「資産は、元本 200 万に対して 50 万プラスの 250 万になっています」あるいはその逆に「50 万マイナスの 150 万になっています」という内容の評価損益に一喜一憂しているケースがありますが、それは、その場で取り引きしなければ何の実損にもならない。受け取るのは 60 歳を過ぎてからの話ですからね。 そのような状態だから、一般の加入者も一喜一憂してしまう。そういう部分から変え、確定拠出年金の受け取り時にどのような方法が望ましいかを理解することで、納得度も深まるのではないか、と感じています。 |
向井 | 下がっている時点で、一時金として受け取ったら、実損が出て、リタイア後の人生に影響してしまいますからね。キャリアプランだけでなく、お金の点でもしっかりプランニングして、自律できるようにすることの大切さがわかる好例といえるかもしれませんね。 |
—みらいナビで自分の確定拠出年金を身近に
向井 | 確定拠出年金を年金で受け取る場合に記入する年金計画の書類をちらっと見たことがあるんですけど、あれは難しいですね。どのように受け取ればいいのか、判断つかないと思います。「これはみんな、一時金にしてしまうだろうなぁ」と(笑)。 |
板山 | そうなってしまいますね。しかし、加入者は、「どのような方法でに受け取ればいいのか?」というシンプルな答えを求めていますので、加入者個々人に適した受け取り方法をシミュレートしたり、またはガイダンスしたりというフォローができるように、将来的にはアプリに組み込みたいと考えています。 |
向井 | 手続きまでできるようになれば、確定拠出年金との距離感も、もっと変わってくるでしょうね。 |
板山 | ユーザーからのニーズも高いことですし、いずれはそのようにしていきたいと考えています。加入という入り口から受け取りという出口までを「みらいナビ」を通じて、将来の確定拠出年金資産を自分ごととして考えてもらう第一歩にしてもらい、リタイア後の生活を笑いに包まれるものにしてもらえたら最高ですね。 |
<「令和時代の人事に求められるキャリア自律への支援とは 前編」を読む
※取材日時 2019 年 4 月
※記載内容は、取材時点の情報に基づくものです。
出口 (イグジット) を見据えたシニア雇用体制の確立をしましょう
労働力人口の減少と高齢化が同時進行する中、雇用の入口にあたる採用、入社後の人材育成・開発に加え、出口 (イグジット) をどうマネジメントしていくかが、多くの企業にとっての課題となりつつあります。特に、バブル入社世代が続々と 60 歳を迎える 2020 年代後半に向けて、シニアの雇用をどう継続し、戦力として活用していくのか、あるいはいかに人材の代謝を促進するのか、速やかに自社における方針を策定し、施策を実行していくことが求められます。多くの日本企業における共通課題であるイグジットマネジメントの巧拙が、今後の企業の競争力を左右するといっても過言ではありません。
シニア社員を「遊休人員化」させることなく「出口」へと導くイグジットマネジメントを進めるために、まずは現状分析をおすすめします。
向井洋平 著『確定拠出年金の基本と金融機関の対応』好評発売中
2019 年 7 月より、従来実質的に対応が困難であった金融機関の窓口における確定拠出年金の運用商品の提示や説明が解禁され、金融機関行職員がその場で対応することができるようになります。そのため、確定拠出年金の業務に携わる金融機関行職員は制度の仕組みを正確に理解したうえで、個人および法人のお客様が制度を有効に活用できるようにするための対応力が求められます。
基本的な知識からお客様への対応までをわかりやすく説明し、確定拠出年金の業務に携わる方々の一助となる一冊です。
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