企業再編に伴う退職給付(企業年金・退職金)制度設計 -1- 統合の際のポイント
掲載日:2014年9月12日
企業再編のパターン
パターン | 定義 | 旧会社・新会社の関係 |
---|---|---|
吸収合併 | 合併の当事者となる会社のうちの一つの会社を存続会社として残し、その他の会社の権利義務を存続会社に承諾させて消滅させるものをいう | 旧A社→新会社として存続 旧B社→消滅 |
新設合併 | 合併の当事者となる各会社を解散して、新たに設立する会社に全て承諾させる方式 | 旧A社→消滅 旧B社→消滅 新C社発足 |
吸収分割 | 分割した事業を既存の別会社に承諾させる | 承継元旧A社→存続 継承先旧B社→存続 |
新設分割 | 分割した事業を新設の会社に承諾させる | 承継元旧A社→存続 継承先旧B社→新設 |
株式交換 | 株式会社がその発行済株式の全部を他の株式会社または合同会社に取得させること。結果として、その株式会社は他の株式会社または合同会社の完全子会社(100%子会社)となる。2つの既存の会社を一度に完全親子会社の関係にする組織再編 | 旧A社→B社の親会社に 旧B社→A社の子会社に |
事業譲渡 | 会社がその事業を譲渡することをいう | 譲渡元A社から譲渡先B社に社員が転籍 |
デューディリジェンス
企業統合の存続会社が統合を最終判断するにあたり、会社の実態を把握するために行う企業の精密検査が、買収監査(デューディリジェンス)です。デューディリジェンスは、財務・法務・ビジネス・人事など多岐にわたりますが、退職金・年金制度に関する事実の把握は、その中の人事と財務に関する事項であり、具体的には次の点が必要になります。
現在どのような制度があるか
退職金・年金制度に限らず、統合の対象となる企業の人事制度全般の内容を把握することが重要です。統合後における新制度の構築において問題となる点をあらかじめ把握し、統合作業において問題となりうる点についてあらかじめ関係者で共有することが、人事以外の課題と相まって、統合の成否を左右するからです。
退職金・年金制度においては以下に挙げるような内容について把握することが必要となります。
制度の種類
退職一時金制度・厚生年金基金制度・確定給付企業年金制度・確定拠出年金制度・中退共・役員制度など
制度の対象者
契約社員・パート・役員などが含まれるか
制度の詳細
・受給資格
・給付算定式は、給与比例か、ポイント制か、キャッシュバランスプランか
・年金制度の場合、年金の型
・その他の詳細事項
給付水準
新卒者ベース(高卒・大卒)で給付額カーブを引いた場合、定年時の給付額は、マーケット水準と比べてどうか
制度に関する、財務状況はどうか
財務の開示資料となっている退職金・年金制度に関する純債務は、企業価値の算定を行う場合の負債項目として、適切な算定がなされているかどうか、が極めて重要なテーマになります。
なぜなら、債務の算定の条件(計算方法や割引率などの計算基礎)について、開示データとしてオーソライズされたものであっても、統合する企業としても必ずしも全く見解が一致するとは限らないからです。
詳しく精査することによって、間違いや、適切でない前提条件などが見つかる場合があります。極端な場合には、ある制度についての評価そのものがされていない場合などもあります。開示された財務情報を必要に応じて修正した後、先の制度内容・給付水準などの事実把握と組み合わせて、リスク・課題を提示することになります。
退職金・年金制度の統合
デューディリジェンスの結果、企業統合の意思決定がなされた場合、人事制度が統合されますが、その一環として退職金・年金制度が統合されることになります。企業再編に伴って、新規に出来上がる会社組織においては、その経営目標に沿った人材マネジメントシステムが構築され、そのもとで新しい退職金・年金制度の構築がなされるわけです。
さて、制度の統合にあたって留意すべき点は次の通りです。
【 制度の統合にあたって留意すべき点 】
・ 新会社の方針に沿った設計であること
・ 社員へのメッセージを意識しつつ設計する必要があること
・ 給付水準・給付算定式の基礎・給付算定式・積立方法その他の検討項目があること
・ 「企業再編前は旧制度、再編後期間は新制度」が基本であること
・ 「移行措置なし」が理想的であるが、既存社員の分析の上、判断することが必要であること
次回以降は、上記に挙げた制度統合にあたっての留意すべき点について具体的に見ていくことにします。