【DC担当者向け】企業型確定拠出年金 運用商品一覧の活用方法
7 月 1 日、確定拠出年金法施行規則の一部を改正する省令が施行され、運営管理機関各社より確定拠出年金の運用商品の一覧がインターネット上に公表されました。これは企業型確定拠出年金 (DC) の運用商品をよりよいものとしていくための重要な情報となります。各企業の DC 担当者は商品一覧の情報をどう活用していけばよいのか、実際のデータを見ながら考えていきます。
企業型確定拠出年金 運用商品の一覧を公表することとなった背景
企業型確定拠出年金では、加入者が自ら運用商品を選択して資産の運用を行い、その結果によって受け取る給付の額が決まります。したがって、加入者が選択できる商品のラインナップを適切に選定し、商品構成や各商品の内容を加入者に対して分かりやすく提示することが非常に重要となります。
この役割を担っているのが事業主から運営管理業務を委託されている運営管理機関であり、事業主には運営管理機関を評価する努力義務が課せられています。具体的な評価項目については法令解釈通知に定められており、特に運用商品の選定や提示に関しては以下のような内容が掲げられています。
評価項目 | |
1 | 提示された商品群の全て又は多くが1金融グループに属する商品提供機関又は運用会社のものであった場合、それがもっぱら加入者等の利益のみを考慮したものであるといえるか。 |
2 | 下記 (ア) ~ (ウ) のとおり、他の同種の商品よりも劣っている場合に、それがもっぱら加入者等の利益のみを考慮したものであるといえるか。 (ア) 同種 (例えば同一投資対象・同一投資手法) の他の商品と比較し、明らかに運用成績が劣る投資信託である。 (イ) 他の金融機関が提供する元本確保型商品と比べ提示された利回りや安全性が明らかに低い元本確保型商品である。 (ウ) 同種 (例えば同一投資対象・同一投資手法) の他の商品と比較して、手数料や解約時の条件が良くない商品である。 |
3 | 商品ラインナップの商品の手数料について、詳細が開示されていない場合又は開示されているが加入者にとって一覧性が無い若しくは詳細な内容の閲覧が分かりにくくなっている場合に、なぜそのような内容になっているか。 |
4 | 確定拠出年金運営管理機関が事業主からの商品追加や除外の依頼を拒否する場合、それがもっぱら加入者等の利益のみを考慮したものであるか。 |
5 | 確定拠出年金運営管理機関による運用の方法のモニタリングの内容 (商品や運用会社の評価基準を含む。)、またその報告があったか。 |
6 | 加入者等への情報提供がわかりやすく行われているか (例えば、コールセンターや加入者ウェブの運営状況)。 |
このうち 2 に関しては、現在選定されている商品とそれ以外の商品との相対的な比較が必要となります。しかし多くの事業主にとって、自社で選定されていない商品の情報を入手することは簡単ではありません。そのため、各運営管理機関に商品一覧の公表を義務付けることで、事業主による評価の実効性を確保することとなりました。
委託先の商品一覧データを自社の商品と比較する
では、各企業の DC 担当者は今回公表された商品一覧の情報をどのように読み取り、評価していけばよいでしょうか。上記評価項目の 2 (ウ) 「 同種 (例えば同一投資対象・同一投資手法) の他の商品と比較して、手数料や解約時の条件が良くない商品である。」を例にとって考えてみましょう。
下記は、今回公表されたある運営管理機関の商品一覧から、外国 (先進国) の株式に投資するパッシブ運用の投資信託商品 (A~K) のデータを抜き出し、グラフにしたものです。
G ~ K の商品は A ~ F に比べて明らかに信託報酬 (運用の手数料) の水準が高く、3 年間の騰落率 (基準価額の上昇率) が見劣りしているのがわかります。パッシブ運用の商品はあらかじめ設定したインデックス (指数) に連動させることを目標として運用されるため、一般に信託報酬の水準が最終的な運用成果を左右する大きな要素となります。
委託先の運営管理機関の商品一覧から上記のようなデータが得られた場合、自社のDCプランで採用されている外国株式のパッシブ運用商品が G ~ K に該当しているのであれば、A ~ F の商品を追加したり入れ替えることが考えられます。商品の見直しに向けて、運営管理機関と協議の場を設けるべきでしょう。
また、商品一覧が公表されたことで、投資に詳しい一部の加入者は上記のような分析を自分で行い、商品の見直しを要求してくるかもしれません。事業主には、単に法令上の努力義務を果たすということだけでなく、加入者の不満や将来的な訴訟リスクを回避するためにも、商品ラインナップの検証を行うことが求められます。
改善の余地が大きい公表の仕方
実際にやってみると分かりますが、運用商品の一覧の多くは運営管理機関各社の Web サイトの目立たないところに掲載されています。掲載場所を再委託先のサイトとしているところもあり、商品一覧のページにたどり着くには苦労するかもしれません。
また、商品一覧自体についても、必ずしも情報を取りやすい形にはなっていないのが現状です。一部の運営管理機関では、投資対象となる資産の分類やパッシブ/アクティブの別、信託報酬等の項目で抽出または並べ替えができるようになっており、同種の商品が容易に比較できるようになっていますが、そうした配慮が見られないところがほとんどです。
評価される側の立場にある運営管理機関としては、法令に従って公表は行うものの、あえて分析しやすいような形で掲載することを避けているのかもしれません。しかしそれでは法令の趣旨に沿っているとはいえません。
事業主がより利用しやすいように、また異なる運営管理機関間の比較もしやすいように、法令解釈通知を改正するなどしてフォーマットを統一するといったことも考えられますが、重要なのはやはり事業主側から運営管理機関に対して改善を要求していくことでしょう。それによって運営管理機関側も対応せざるを得なくなります。
今回の運用商品一覧の公表は、企業型確定拠出年金が抱えている課題の解決に向けた大きな一歩であることは間違いありません。ただ、それが実際に運用商品の改善にどれだけ結びついていくのかは、事業主側の取り組み次第だと考えます。
著者 : 向井洋平 (むかい ようへい)
株式会社IICパートナーズ 常務取締役
日本アクチュアリー会正会員・年金数理人。京都大学理学部卒。大手生命保険会社を経て、2004 年、IICパートナーズへ入社。アクチュアリーとして退職給付会計や退職金・年金制度コンサルティング、年金資産運用コンサルティングをおこなう。2012 年、常務取締役に就任。著書として『金融機関のための改正確定拠出年金Q&A(第2版)』 (経済法令研究会/ 2018 年 10 月刊) がある。2016 年から退職金・企業年金についてのブログ『社員に信頼される退職金・企業年金のつくり方』を運営。
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