厚労省 毎月勤労統計の不適切調査で雇用保険の追加給付は誰にいくら払われるか?
こんにちは、IICパートナーズの退職金専門家 向井洋平です。
このところニュースで取り上げられている毎月勤労統計に関する「不適切調査」の問題。厚生労働省が過去の調査結果を見直し、追加給付を行う事態となりました。
毎月勤労統計調査に係る雇用保険、労災保険等の追加給付について |厚生労働省
本来は 500 人以上規模の事業所についてはすべてを調査対象とすべきところを、東京都の事業所については抽出調査としていたことが「不適切」であったわけですが、それによってなぜ追加給付を行うことが必要になったのか、どんな人 (会社) にいくら追加給付が支払われるのか、また、追加給付の対象となる人 (会社) はどう対応すればよいのか、厚生労働省の公表資料等からまとめてみました。
追加給付を行うこととなった理由
毎月勤労統計は、国が行う統計調査の中でも特に重要な統計として総務大臣が指定する「基幹統計」の 1 つであり、雇用保険や労災保険からの給付額を決定するためのデータとして利用されています。
これらの給付は、失業 (離職) や休業、労災により賃金収入が得られなくなってしまった人に対して支給されるものであることから、賃金の水準をベースとして給付額を算定する仕組みになっています。毎月勤労統計の平均定期給与額およびその年度ごとの変動率は、これらの給付額の範囲 (上限および下限) や給付額の改定率を決定するための指標として用いられています。
しかし 2004 年以降、本来調査対象とすべきであった 500 人以上規模の事業所について、東京都の事業所に対しては全体の約 1/3 だけを対象として集計していたことから、平均定期給与額が本来の額よりも低い結果となっており、これによって過去に支給された雇用保険等からの給付額についても、本来支給すべき額よりも少ない額しか支払われていなかったことが明らかなりました。
このため、厚生労働省では、正しい調査が行われていれば得られたであろう平均定期給与額を過去の調査結果をもとに再集計 (推計) し、過去にさかのぼって給付額の算定をやり直し、差額について追加給付を行うこととなりました。なお、平均定期給与額の再集計値は過去の公表値と比べて 0.6% 程度高くなっています。
追加給付は誰にいくら払われるのか
追加給付の有無やその金額の算定基準の詳細は現段階では不明ですが、今回厚生労働省から公表された概要によると、追加給付の対象となる可能性のある範囲、対象人数、および 1 人当たりの追加給付額は以下のとおりとなっています。
(1) 雇用保険関係
【対象範囲】2004 年 8 月以降に失業給付 (基本手当、再就職手当) 、高年齢雇用継続給付、育児休業給付等を受け取った人
【対象人数】延べ約 1,900 万人
【1人当たりの額】1つの受給期間を通じて約 1,400 円
※雇用保険と同様又は類似の計算により給付額を決めている政府職員失業者退職手当や就職促進手当を含む。
(2) 労災保険関係
【対象範囲】傷病 (補償) 年金、障害 (補償) 年金、遺族 (補償) 年金、休業 (補償) 給付等を 2004 年 7 月以降に受け取った人
【対象人数】年金給付は延べ約 27 万人、休業補償は延べ約 45 万人
【1 人当たりの額】年金給付は約 9 万円、休業補償はひと月当たり約 300 円
(3) 船員保険関係
【対象範囲】障害年金、遺族年金等を 2004 年 8 月以降に受け取った人
【対象人数】約 1 万人
【1 人当たりの額】約 15 万円
(4) 事業主向け助成金
【対象範囲】雇用調整助成金の支給決定の対象となった休業等期間の初日が 2004 年 8 月~ 2011 年 7 月の間または 2014 年 8 月以降であった事業主
【対象件数】延べ約 30 万件
【1件当たりの額】約 1 万円
例えば、高年齢雇用継続給付 (60 歳以降も定年後再雇用等により勤務を継続する人に対して、60 歳前からの賃金低下率に応じて支給される雇用保険の給付) については毎年 8 月に支給限度額が改定されていますが、この限度額が過去にさかのぼって引き上げられることにより、限度額に達していた人 (現在受給中で限度額に達している人を含む) に対して追加給付が発生する可能性があります。
なお、場合によっては再計算した結果、給付額が減少する (本来支給すべき金額よりも多い額を支給していた) という可能性もありますが、こうした場合には過払い分の返還は求めないこととしています。
追加給付の対象となる可能性のある人はどうすればよいのか
厚生労働省では、今後の対応について、住所データが残っている人にはシステム改修等の準備が整い次第、手紙にて連絡する予定としています。一方で、住所データがない受給者 (推計延べ 1,000 万人以上) および転居等で住所不明の受給者が多数いることから、Webサイト等を通じて協力を呼びかけ、本人からの申出に基づいて確認したうえで追加給付を行うことが想定されています。また、システム改修等の準備には「相当の期間が必要」としています。
自分が追加給付の対象であるかどうかの確認および追加給付を受けるための具体的な手続きについては厚生労働省からの今後の案内を待つ必要がありますが、給付を受け取った時期が古ければ古いほどデータが残っておらず、自ら申し出ないと給付を受け取れない可能性が高いと考えられます。
事業所向け助成金の追加給付についても同様であり、所在地が把握できた先には準備が整い次第手紙で連絡を行う一方で、それ以外の多くの事業所については事業主からの申出により確認、計算を行ったうえで追加給付を行うことが想定されています。
厚生労働省では今後の手続きに備えて以下の書類が残っている場合は捨てずに保管しておくよう呼びかけていますが、心当たりのある人はこれらに限らず受け取った給付の内容が分かるような資料等が残っていないか、調べておくとよいでしょう。
【雇用保険】受給資格者証、被保険者証
【労災保険】支給決定通知・支払振込通知 、年金証書、変更決定通知書
【船員保険】支給決定通知・振込通知、年金証書、改定通知書
【政府職員失業者退職手当】失業者退職手当受給資格証等
【就職促進手当】就職促進手当支給決定通知書など支給の事実が確認できる書類
【事業主向け助成金】支給申請書類一式、支給決定通知書
また、下記無料相談ダイヤルも設置されましたので、疑問がある場合は問い合わせてみるとよいでしょう。受付時間は平日 8:30 ~ 20:00 となっています。
【雇用保険追加給付問い合わせ専用ダイヤル】0120-952-807 (事業主向け助成金の問い合わせも含む)
【労災保険追加給付問い合わせ専用ダイヤル】0120-952-824
【船員保険追加給付問い合わせ専用ダイヤル】0120-843-547 または 0120-830-008
なお、この件に関して厚生労働省その他の公的機関から直接電話することはないということです。そうした連絡があった場合は詐欺の可能性もあり、注意が必要です。
著者 : 向井洋平 (むかい ようへい)
株式会社IICパートナーズ 常務取締役
日本アクチュアリー会正会員・年金数理人。京都大学理学部卒。大手生命保険会社を経て、2004 年、IICパートナーズへ入社。アクチュアリーとして退職給付会計や退職金・年金制度コンサルティング、年金資産運用コンサルティングをおこなう。2012 年、常務取締役に就任。著書として『金融機関のための改正確定拠出年金Q&A(第2版)』 (経済法令研究会/ 2018 年 11 月刊) がある。2016 年から退職金・企業年金についてのブログ『社員に信頼される退職金・企業年金のつくり方』を運営。
退職金や企業年金の最新情報が届きます
クミタテルのオリジナルコンテンツや退職給付会計・企業年金・退職金に関連したQ&Aなどの更新情報をメールマガジンにて配信しています。