専業主婦 (夫) が確定拠出年金に加入する場合の注意点
こんにちは、IICパートナーズの退職金専門家 向井洋平です。
確定拠出年金法の改正により2017年から個人型確定拠出年金 (iDeCo) の加入対象が広がり、第3号被保険者である専業主婦(夫) 900万人程度が新たに加入できるようになりました。
iDeCoは自分で掛金を運用しながら老後資金を積み立てていき、原則として 60 歳以降に年金もしくは一時金として受け取ることができる仕組みです。掛金は全額所得控除となることから、所得税や住民税が軽減され、一般の金融商品と異なって運用益も非課税となる税制優遇があります。
これから専業主婦 (夫) が iDeCo に加入する場合
では、もともと所得のない第3号被保険者である専業主婦 (夫) が iDeCo に加入することについてはどう考えればよいでしょうか?
要点をまとめると、
- ・ 専業主婦(夫)には iDeCo の大きなメリットである所得控除の恩恵はないので、第 2 号被保険者である配偶者の iDeCo への加入 (または企業型確定拠出年金へのマッチング拠出) を優先したほうがよい
- ・ 専業主婦(夫)が加入する場合、税制上の優位性は運用益が非課税である点に限られるので、一定のリスクを取った運用を行うことを前提に考えたほうがいよい
- ・ 掛金の拠出額や積立金の大小にかかわらず一定の口座管理手数料が発生するため、掛金設定を低くしたり掛金の拠出を短期間で止めてしまうのは不利になる
の 3 つになります。
3点目に関しては、iDeCoは毎月一定の掛金を積み立てるのが原則ですが、「年単位拠出」により 12 月を含む特定の月にまとめて掛金を納付することで、手数料を節約するという方法もあります。
ある程度リスクを取った運用を行い、運用益を確保できた場合には、「運用益が非課税」という iDeCo のメリットが活きることになりますが、最大のメリットともいえる所得控除が活かせないため、多くの専業主婦 (夫) の方にとっては、 iDeCo と同様に運用益の非課税措置があり、かつ引き出し制限のないつみたて NISA のほうが使い勝手はよいといえるでしょう。
退職して専業主婦 (夫) になった場合
一方で、法改正によって、企業型確定拠出年金から iDeCo に移ってくる第 3 号被保険者が増えることが予想されます。企業型確定拠出年金に加入していた従業員が結婚、出産などにより退職して第 3 号被保険者である専業主婦 (夫) になった場合、法改正前は「加入期間3年未満または資産額 50 万円未満」という要件を満たしていれば、基本的に一時金を受け取って制度から脱退することができたのですが、法改正によって第 3 号被保険者もiDeCoに加入できるようになったことで、原則として脱退できなくなったからです (資産額が1.5万円以下の場合は例外的に引き続き脱退可)。
したがって、退職時に脱退一時金を受け取るという選択肢は基本的になくなり、iDeCoに移ることを前提に、「自分で掛金を拠出して積み立てを続けていくのか、在職中に積み立てた資産の運用だけを行っていくのか」を選択することになります。前者は iDeCo の「加入者」になるということであり、後者は iDeCo の「運用指図者」になるということです。
加入者となるかどうかについての考え方は先にあげた 3 つのポイントと基本的に同じですが、加入者とならない場合でも運用指図者として一定の手数料を負担する必要がある点を考慮に入れておくとよいでしょう。また、将来復職して再度企業型確定拠出年金に加入することになったときには、 iDeCo で積み立てた資産を再び企業型確定拠出年金に持ち込むことができます。
なお、退職後も掛金の積み立てを続けるかどうかにかかわらず、企業型確定拠出年金から iDeCo に資産を移す手続きは自分自身で行う必要があります。手続きを行わないまま半年間放置すると強制的に国民年金基金連合会に資産が移されて「塩漬け」状態となり、運用が停止され、手数料が引かれていくばかりとなります。運用指図者となる場合であっても iDeCo に資産を移す手続きは確実に行っておくことが重要です。
企業型確定拠出年金は会社の制度として実施しているため、掛金を積み立てて運用しているという実感のないまま退職される方もいらっしゃるかもしれません。 iDeCo に移るのをきっかけに、改めて老後資金の積み立てについて考えてみてはいかがでしょうか。
著者 : 向井洋平 (むかい ようへい)
株式会社IICパートナーズ 常務取締役
日本アクチュアリー会正会員・年金数理人。京都大学理学部卒。大手生命保険会社を経て、2004 年、IICパートナーズへ入社。アクチュアリーとして退職給付会計や退職金・年金制度コンサルティング、年金資産運用コンサルティングをおこなう。2012 年、常務取締役に就任。著書として『金融機関のための改正確定拠出年金Q&A(第2版)』 (経済法令研究会/ 2018 年 11 月刊) がある。2016 年から退職金・企業年金についてのブログ『社員に信頼される退職金・企業年金のつくり方』を運営。
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