確定拠出年金の受け取りは1年ずらした方が節税になる
こんにちは、クミタテル株式会社の退職金専門家 向井洋平です。
とある年金コンサルタントの方と話していたときに、「確定拠出年金の受け取りは1年ずらした方が有利」という話題が出ました。税制の仕組み上、受け取りをずらした方が税金を安くできることがあるということです。
これは本当でしょうか?
確定拠出年金の税金
たとえば、定年退職時の退職一時金が 2000 万円、確定拠出年金 (一時金での受取額) が250万円、退職所得控除が 1500 万円であるケースを取り上げてみましょう (確定拠出年金の加入期間はすべて退職一時金の勤続期間と重複しているものとします) 。このケースでは、退職一時金で退職所得控除の非課税枠をすべて使い切ってしまうので、税金を安くするためには、確定拠出年金の給付は一時金では受け取らず年金として受け取ることが考えられます。年金で受け取る場合は公的年金等控除の対象となり、年間 70 万円までは非課税となります ( 65 歳未満の場合。2020 年分の所得税からは控除額が10万円引き下げられる) 。確定拠出年金の残高が 250 万円なので、5 年分割で受け取れば非課税の枠に収まります (年金で受け取る場合の最短期間は 5 年)。
ただ、今後 2021 年 3 月までに 60 歳になる男性は 63 〜 64 歳から、2026 年 3 月までに 60 歳になる女性は 61 〜 64 歳から厚生年金の報酬比例部分の支給が始まり、確定拠出年金の年金額と合算して税金が計算されます。確定拠出年金の年金 (分割取崩) としての受け取り方法には、プランによっては均等払いのほかに年度ごとに配分を指定する方法もありますので、厚生年金支給開始前の配分を厚めにすることで、厚生年金支給開始後の課税額を抑えることが考えられます。
節税という観点からは、確定拠出年金の給付はできるだけ前倒しで受け取ることを基本としつつ、退職所得控除や公的年金等控除による非課税枠を超える分については受け取りを先延ばしにするという考え方で受取方法を選択するのがよいでしょう。
確定拠出年金の受け取りを 1 年ずらす効果
ただ、住宅ローンが残っている場合など、多少税金がかかってもできるだけ一時金で受け取っておきたいというケースもあるでしょう。その場合、確定拠出年金の一時金の受け取りを 1 年だけずらすことで、税金を安くできる場合があります (確定拠出年金は最大 70 歳まで給付を受け取らずに運用を継続することができる)。
確定拠出年金の給付を一時金で受け取る時期を考える場合、税制上のポイントは次の 3 つです。
- 1. 他の給与所得等とは別に税額が計算されるため (分離課税)、給与等の多寡は税額に影響しないが、同じ年に退職金の収入がある場合には同じ退職所得として合算して税額が計算されるため、これを考慮する必要がある。
- 2. 確定拠出年金の一時金はそれを受け取った年の収入として税額を計算する。
- 3. 所得税は所得が多いほど段階的に税率が上がる累進課税の方式を採用している。
このうち、2 が 確定拠出年金 (DC) と確定給付企業年金 (DB) で取り扱いが異なる点です。確定給付企業年金 (DB) からの一時金については、会社から直接支給される退職金の翌年の支給となった場合でも、給付の支払事由である「退職」の時点が同じである限りは、前年の退職金収入に合算して税額が計算されます。つまり受け取り時期をずらしても税額の計算には影響しません。
一方、確定拠出年金 (DC) の場合には翌年に受け取った場合には翌年の収入として計算されるため、「時期をずらした方が有利」というようなことが出てくるというわけです。具体例で見てみましょう。
以下は勤続 30 年の人が退職金 2000 万円と確定拠出年金 (DC) 250 万円を受け取る場合に、同じ年に受け取った場合と、確定拠出年金の受取を翌年にずらした場合との比較です (所得税と住民税の合計、復興特別税は省略)。
まず、どちらの場合も 1500 万円までは退職所得控除により非課税となるため、税率を 0% と表記しています。そして 1500 万円を超える部分について所得税・住民税が課税されることとなりますが、超えた部分の半額を退職所得として税額を計算することとなっているため、上の図ではこれを反映して金額区分と実質税率を表記しています。
受け取り時期で違ってくるのはDC部分に対応する税率です。「翌年に受け取り」の場合は累進課税が一旦リセットされるため、一番低い税率が適用され、結果として「同じ年に受け取り」よりも税額が小さくなるというわけです。
DCだけこのような扱いになっているのは、実際に受け取りの時期がくるまで金額が確定しないからということのようですが、知らないと損をしかねない、何ともわかりにくい取り扱いですね。
著者 : 向井洋平 (むかい ようへい)
クミタテル株式会社 代表取締役社長
1978年生まれ。京都大学理学部卒業後、大手生命保険会社を経て2004 年にIICパートナーズ入社。2020年7月、クミタテル株式会社設立とともに代表取締役に就任。大企業から中小企業まで、業種を問わず退職金制度や高年齢者雇用に関する数多くのコンサルティングを手掛ける。日本アクチュアリー会正会員・年金数理人、日本証券アナリスト協会検定会員、1級DCプランナー、2級FP技能士。「人事実務」「人事マネジメント」「エルダー」「企業年金」「金融ジャーナル」「東洋経済」等で執筆。著書として『確定拠出年金の基本と金融機関の対応』(経済法令研究会)ほか。
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