退職金専門家 向井洋平 が語る 「人生100年時代」の人事制度と退職金
最近、「人生100年時代」という言葉を耳にする機会も増えています。長寿化する社会において老後を支える「退職金」や「企業年金」は益々重要なキーワードとなってくると言われており、従業員も人生設計や資産運用に強い関心を抱き始めています。
時代が変わっていく中で、いかに従業員に長く働いてもらうのか、いかに従業員を採用していくのか。これから来る時代の人事制度のありかたについて、弊社 常務取締役 退職金専門家 向井洋平 のインタビュー記事をお届けします。
—向井洋平 プロフィール
株式会社IICパートナーズ 常務取締役
日本アクチュアリー会正会員・年金数理人。京都大学理学部卒。大手生命保険会社を経て、2004年、IICパートナーズへ入社。アクチュアリーとして退職給付会計や退職金・年金制度コンサルティング、年金資産運用コンサルティングをおこなう。2012年、常務取締役に就任。著書として『金融機関のための改正確定拠出年金Q&A(第2版)』 (経済法令研究会/ 2018年10月刊) がある。2016年から退職金・企業年金についてのブログ『社員に信頼される退職金・企業年金のつくり方』を運営。
—退職金専門家として「人事制度」も考えている
クミタテル (以下、クミ)
退職金専門家として向井さんは、退職金についてのブログを2016年からほぼ毎日更新されていますが、なぜこのような取り組みをされているのですか?
向井
コンサルティングを行うなかで、退職金や企業年金が有効に活用されていないと感じることが多く、企業の従業員の方々に正しい情報が伝われば、それらの価値がわかるようになると思い、ブログでの情報発信を始めることにしました。
また、情報発信をすることによって、自分としても色々と調べたり、考え方をまとめていったりするようになるので、自分の引き出しを増やしていくことにもつながっています。自分のためでもあり、世の中のためにもなればいいかなというところです。
クミ
退職金・企業年金制度の課題を解決するコンサルティング会社 IICパートナーズ (以下、IICP) の常務取締役としてもご活躍されていますが、IICPではどのようなことをされていますか?
向井
退職金・企業年金制度を、これからの時代、今の社会情勢、企業のニーズに合わせてどういう形で構築していくのがいいのかを考えて、企業に提案し、実施に向けて支援するということをしています。あとは、退職金制度に留まらずに人事制度全体に視点を広げ、そもそも退職金制度は何のためにあるのか、人事制度全体のなかで最終的にどういったことが求められているのかという観点で、退職金制度だけではなく人事制度の領域も含めて支援に取り組んでいます。
クミ | IICPは退職金・企業年金のコンサルティングをおこなう会社だと思っていたのですが、退職金・企業年金制度だけではなく、人事制度も支援されているのですか? |
向井 | 日本全体として高齢化していくという中で、会社の中でも当然社員の構成も変化していく。寿命も長くなってきて「人生100年時代」と言われますが、今より長い期間、働いていく必要がある。そうなった時、従業員にどのように活躍してもらうか、あるいはどのような人生を送ってもらうか、ということが大きな課題になってくると思っています。これからの「人生100年時代」にどうやって対応していくのかということをしっかりやっていきたいです。そうなると、やはり人事としては、退職金・企業年金も考えるべき大きなテーマになると思いますね。 そもそも、退職金・企業年金制度を単体で見直すことはあまり多くありません。人事制度を変えないといけないとタイミングで、退職金も人事制度に合わせて変えないといけないということで見直すことが多いかと思います。 |
—「人生100年時代」にあるべき人事制度
クミ | これからの「人生100年時代」にあるべき人事制度という視点から見た時に、退職金・企業年金制度がより重要なテーマになっていくということでしょうか? |
向井 | そうですね、まだ問題が顕在化していない企業もあると思いますが、2020年代後半には60歳定年を前提とした従来型の人事制度上の問題が顕在化していくでしょう。いわゆるバブル入社世代が定年を迎えるようになり、どのように処遇していくべきかが大きな課題となっていくと思います。もちろん会社によって、従業員の年代構成は変わりますので、すでに先進的に取り組まれている会社もあります。 たとえば、シニア人材の活用ということで考えると、今は一定の年齢で報酬が下がるといったケースが多いですが、その段差をいかになくすかということを考えることが必要になってきます。やはり、報酬が下がることがモチベーションに与える影響は大きいと思います。もちろん、報酬以外にも、会社内での立場や身分といった周囲からの見られ方という点も大切です。そうしたなかで、例えば定年の引上げを行うと退職金・企業年金の金額や受け取り時期にも影響しますから、退職金制度を含めた人事制度の見直しを考える必要があります。 一方で、人材の確保や定着の観点から退職金制度を見直す動きもあります。以前、とある退職金制度を見直すプロジェクトで「できるだけ長く働いてもらえるような制度にしたい」というオーダーがあったのですが、退職金だけでこのようなご要望を実現させるのは難しい。たとえば、退職時ではなくて、在職中に勤続10年、20年といった節目で何かしらの報奨を設けるなどの、退職金からは少し外れるのですが、退職時以外も含めた制度設計を考えることが求められます。 |
クミ | これからの人事制度において、退職金・企業年金制度を活用していくためには何をすべきでしょうか? |
向井 | まずは求人募集や応募していただいた方に退職金制度の有無や内容を提示することや、入社後も退職金や企業年金がちゃんと積まれていますよと伝えていくべきです。これらを行うことで社員の採用や定着の問題が改善される余地はまだまだあると思います。 私がブログをほぼ毎日更新している話にもつながるのですが、やはりもったいない。せっかく退職金・企業年金制度があるのに、従業員はそのことを知らない。報酬として認識されていないというケースが本当に多くて、会社としてはコストかけてやっているのに従業員には伝わっていないということがよくあります。 退職金制度を見直す際には人事の方から従業員に説明する機会を設けますが、説明をした時に「ああ、こういう制度だったのか」となることがよくあります。ですから、まずは従業員へしっかり伝えていくということ。制度の見直しなどのイベントがあったときだけではなく、継続的に従業員の方とのコミュニケーションといいますか、私たちの会社はこういう目的で、こういう狙いで、この制度にしているのです、としっかり伝えていくべきだと思います。ただ制度を作る、見直すだけでなくて、その後の従業員とのコミュニケーション部分も、本当に大事だと思っています。 |
クミタテル編集部 まとめ
人事制度といえば、評価や報酬、組織、人材開発などが注目されがちです。しかし、これから必ずやってくる「人生100年時代」を見据えると、「退職金・企業年金」は従業員からも注目されるポイントになるでしょう。
すべての人事課題を退職金や企業年金だけで解決できるわけではありませんが、すでにある退職金・企業年金制度を従業員の方にしっかりと伝えていったり、求人時に発信をしていくことが、人材獲得や従業員の退職率低下につながっていくかもしれません。ぜひ、実践されてみてはいかがでしょうか?
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