年末調整で控除申請できるものと計算方法を知っておこう
こんにちは、IICパートナーズの退職金専門家 向井洋平です。
毎年 10 月になると保険会社などから年末調整で使う各種証明書が届き始めます。人事や経理担当者にとっては、従業員からの年末調整についての質問に追われ、税務署や市区町村への提出書類にも追われる忙しい時期です。今回は、会社員が年末調整で所得や税額を控除できるものと計算方法についてまとめてみました。
年末調整で控除申請ができるもの
年末調整による控除には、大きく分けて、扶養している家族 (親族) に対する人的な控除と各種保険料に対する控除、それに住宅ローン残高に応じた控除の 3 種類があります。 このうち、保険料控除と住宅ローン控除については、細かく分けると 5 種類あり、節税額 (上限) の大きいものから順に並べると以下の通りです。
- 1. 住宅ローン控除
- 2. 社会保険料控除
- 3. 個人型確定拠出年金の掛金控除
- 4. 生命保険料控除
- 5. 地震保険料控除
各々の控除について、詳しく解説させていただきます。
1. 住宅ローン控除
正確には「住宅借入金等特別控除」といって、年末の住宅ローン残高の 1 % (上限は 40 万円、「認定長期優良住宅」等の場合は 50 万円) が所得税から控除される仕組みです。所得税から控除しきれない場合は翌年の住民税から控除されます。
他の保険料等の控除は「所得」からの控除なので、税金の減少額はこれに税率を掛けた額 (たとえば課税所得 500 万円なら所得税・住民税合わせて約 30 %) になりますが、住宅ローン控除は税額そのものから差し引くことができるので、節税効果が大きいです。
金融機関から年末時点の住宅ローン残高 (予定額) が届くので、これをもとに申告書を記入して提出します。なお、年末調整で対応できるのは 2 年目以降であり、住宅を購入した年の税額控除については翌年に確定申告を行う必要があります。
2. 社会保険料控除
会社員の場合、社会保険料 (厚生年金保険料や健康保険料など) は給与天引きでの支払いとなり、源泉徴収に反映されるため、年末調整での申告の必要はありません。しかし、20 歳以上の子ども (学生等) の国民年金保険料を払っている場合など、扶養している家族 (親族) の社会保険料を負担している場合には、年末調整により、所得税・住民税のいずれに対してもその全額を所得から控除することができます。
また、年の途中で就職し、就職前に払っていた国民年金保険料や国民健康保険料がある場合も年末調整により社会保険料控除を受けることができます。
3. 個人型確定拠出年金の掛金控除
正確には「小規模企業共済等掛金控除」といい、個人型の確定拠出年金 (iDeCo) に加入している場合の掛金がこの対象になります。所得税・住民税のいずれに対しても、掛金の全額 (会社員の場合、年間最大 27.6 万円) が所得から控除されます。
国民年金基金連合会から年間払込掛金 (予定額) が記載された証明書が届くので、これをもとに申告書を記入して提出します。なお、給与天引きで掛金を払っている場合は源泉徴収に反映されるため、年末調整での申告の必要はありません。
また、企業型確定拠出年金の「マッチング拠出」で自分の給与から掛金を積み立てている場合も小規模企業共済等掛金控除の対象となりますが、通常は給与天引きでの支払いとなり、年末調整での申告の必要はありません。
4. 生命保険料控除
もっとも対象者が多いのがこの生命保険料控除だと思います。生命保険料控除にはさらに以下の 3 種類があります。
- (1) 一般生命保険料控除
- (2) 介護医療保険料控除
- (3) 個人年金保険料控除
(1) 一般生命保険料控除
次の (2) 介護医療保険料 (3) 個人年金保険料控除 以外の一般の生命保険契約が対象になります。具体的には、以下の保険が対象となります。
- ・定期保険 (逓減定期、逓増定期、生存給付金付定期を含む)
- ・収入保障保険
- ・終身保険 (定期付終身、利率変動型積立終身を含む)
- ・養老保険 (定期付養老を含む)
- ・貯蓄保険 (ただし保険期間 5 年以上のもの)
- ・学資保険
- ・変額保険 (変額個人年金を含む)
- ・個人年金保険 (下記 (3) の個人年金保険料控除の対象とならないもの)
また、下記 (2) 介護医療保険料 に該当する保険種類のうち、2011 年までに契約したものについても一般生命保険料控除の対象となります。
所得から控除される保険料の額は、所得税に関しては最大 4 万円 (年間保険料が 8 万円以上の場合) 、住民税については最大 2.8 万円 (年間保険料が 5.6 万円以上の場合) となっています。ただし、2011 年までに契約したものについては、所得税に関しては最大 5 万円 (年間保険料が 10 万円以上の場合)、住民税については最大 3.5 万円 (年間保険料が 7 万円以上の場合) です。
(2) 介護医療保険料控除
以下の保険種類のうち、2012 年以降に契約したものが対象となります。
- ・医療保険 (特約を含む、以下同じ)
- ・がん保険
- ・介護保障保険
- ・所得補償 (就業不能) 保険
なお、名称が紛らわしいのですが、「所得補償保険」は病気やけがで働けなくなった時に給付金が支払われる保険であり、(1) 一般生命保険料控除 にあった「収入保障保険」は死亡 (または高度障害) のときに保険金が支払われる保険です。
所得から控除される保険料の額は (1) 一般生命保険料控除 の2012年以降の契約と同じです。
(3) 個人年金保険料控除
個人年金保険のうち、以下の要件を満たし、「税制適格特約」がついたものが対象となります。
- ・年金の受取人が契約者またはその配偶者であること
- ・年金の受取人と被保険者が同一であること
- ・保険料の払込期間が 10 年以上であること
- ・年金の種類が「60 歳以降に開始される受取期間 10 年以上の年金」もしくは終身年金であること
なお、「保険料の払込期間」は過去の払込期間の実績ではなく、契約上の払込期間です。 所得から控除される保険料の額は (1) 一般生命保険料控除 と同じです。
年末調整の対応
生命保険会社から、上記の (1) ~ (3) の区分、旧制度 (~2011 年の契約) と新制度 (2012 年~の契約) の区分、年間払込保険料 (予定額) が記載された証明書が届くので、これをもとに申告書を記入して提出します。
上記 (1) から (3) を合計した額が生命保険料全体の所得控除額になりますが、所得税に関しては 12 万円、住民税に関しては 7 万円が上限となります。
5. 地震保険料控除
地震保険は火災保険とセットで加入する保険であり、対象となるのは建物と家財です。地震保険に相当する保険料に対して、所得税に関してはその全額 (最高 5 万円)、住民税に関してはその半額 (最高 2.5 万円) が所得から控除されます。
なお、複数年分の地震保険料を一括で支払った場合には、1 年当たりの保険料が各年の所得控除の対象となります。
生命保険控除の計算方法
会社員が年末調整で控除申請ができる5種類をまとめましたが、中でも生命保険料控除は計算がややこしいですね。控除額の計算式が異なる 「新」 と 「旧」 の契約が混在していると、ますますわけがわかりません。
そこで自動計算ができる Excel のシートを作りました。
年末調整書類の作成・検算のほか、生命保険への加入や見直しの際に「控除額がいくらになるのか」を試算するのにも使えます (ただし自己責任でご使用ください)。 たくさん保険に入っていて枠が足りない場合はどうすればいいか? それは保険に入りすぎかもしれませんね。保険契約の見直しを考えてみてはいかがでしょうか。
※本記事の内容は2018年現在の税制に基づいています。
著者 : 向井洋平 (むかい ようへい)
株式会社IICパートナーズ 常務取締役
日本アクチュアリー会正会員・年金数理人。京都大学理学部卒。大手生命保険会社を経て、2004年、IICパートナーズへ入社。アクチュアリーとして退職給付会計や退職金・年金制度コンサルティング、年金資産運用コンサルティングをおこなう。2012年、常務取締役に就任。著書として『金融機関のための改正確定拠出年金Q&A(第2版)』 (経済法令研究会/ 2018年11月刊) がある。2016年から退職金・企業年金についてのブログ『社員に信頼される退職金・企業年金のつくり方』を運営。
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