【公務員必見】確定拠出年金に加入する公務員が気をつけることは「受け取り方法」
こんにちは、クミタテル株式会社の退職金専門家 向井洋平です。
2017 年から個人型確定拠出年金 (iDeCo) の加入対象が広がり、全国で 300 万人以上いる公務員も iDeCo に加入することができるようになりました。
公務員には民間の確定給付企業年金 (DB) に相当する「年金払い退職給付」があるため、DB に加入している会社員と同様に iDeCo の掛金の拠出限度額は年間 14.4 万円 (月 1.2 万円) と最も低い設定になっていますが、直近 (2018 年 11 月時点) の iDeCo 加入者のうち共済組合員 (公務員または私学共済に加入している者) は 22.1 万人を占めており、民間の会社員や第 1 号被保険者 (自営業者等) よりも高い加入率となっています。
iDeCo は自ら掛金を拠出し、運用しながら積み立てていく年金制度であり、拠出した掛金は全額所得控除となって所得税や住民税が軽減される税制優遇があります。安定収入のある公務員にとってメリットの大きい制度ですが、60 歳になって給付を受け取る段階では注意すべき点もあります。
公務員の退職給付はどうなっているのか
公務員の退職金は「退職手当」と呼ばれ、国家公務員は法律で、地方公務員は各自治体の定める条例により支給額の計算方法が規定されています。基本的な計算方法は共通しており、「基本額」と「調整額」の合計により算出されます。
基本額は、退職時の俸給月額に退職事由と勤続年数に応じた支給率を乗じて計算されます。国家公務員の場合、勤続 35 年以上の定年退職の支給率は 47.709 となっています (2018 年 1 月以降)。定年退職時の俸給月額が 40 万円だとすると、退職手当の基本額はその約 48 ヶ月 (4 年) 分の 1,908 万円ということになります。地方公務員についても基本的に同じですが、自治体により異なるケースもあるかもしれません。
一方調整額については、在籍期間のうち最も上位の「等級区分」に属していた 60 ヶ月(5 年間)の等級区分に応じて計算されます。例えば、都道府県本庁の課長クラスに相当する区分では在籍 1 月あたり 43,350 円と定められており、この区分まで昇格して5年以上在籍した場合の調整額は 260 万円となります (自治体により異なる可能性あり)。上の基本額の例と合算すると、定年退職時の退職手当の額は 2,168 万円ということになります。
なお、総務省の地方公務員給与実態調査によると、2016 年度中に退職手当を支給された一般職員のうち、勤続 25 年以上の 60 歳定年等退職者 1 人当たりの平均支給額は 2,227 万円となっています。人事院が行った官民比較調査に基づき、2018 年 1 月以降は退職手当のうち基本額の支給額が約 3.8% 引き下げられているため、現在の地方公務員の定年退職金の平均的な水準は 2,100 ~ 2,200 万円程度とみてよいでしょう。
また、冒頭で述べたように、公務員には退職手当とは別に民間の DB に相当する年金払い退職給付があり、こちらについては 65 歳時点 (年金支給開始時時点) のモデル金額 (一時金換算)が 約 421 万円とされています。ただ、年金払い退職給付については掛金の半分が本人負担 (給与から天引き) のため、国や自治体からの実質的な退職給付はその半分 (210 万円程度) ということになります。
ということで、定年退職時の退職給付の平均的な水準は合計で 2,500 ~ 2,600 万円程度 (本人負担分を除くと 2,300 ~ 2,400 万円程度) となります。ちなみにこれは、退職一時金制度と企業年金制度を併用している企業における勤続 35 年以上の大卒社員の定年退職時の給付水準と同程度となっていいます(厚生労働省の「平成 30 年就労条件総合調査」による)。
公務員が気をつけるべきは受け取り方法
公務員であった人が 60 歳に到達して iDeCo の給付を一時金で受け取る場合、iDeCo の給付額だけで見ればほぼ間違いなく非課税となるでしょう。退職所得控除が適用され、加入期間 1 年あたり 40 万円、20 年超の期間については 1 年あたり 70 万円までが非課税となるからです。
しかし実際には、iDeCo の一時金にかかる税金については退職給付の一時金と合算して考える必要があります。iDeCo の加入期間が公務員としての在籍期間と重複している場合、退職手当だけで退職所得控除の非課税枠をすべて使ってしまう可能性も十分にあるでしょう。例えば勤続 38 年で退職した場合の退職所得控額は 2,060 万円 (= 40 万円 × 20 年 + 70 万円 × 18 年) ですが、退職手当の支給額がこれを超える場合には、その超過分が課税対象となります。これに加えて iDeCo の給付を一時金で受け取ると、そのすべてが課税対象となり、受取額の 1/2 に所得税率及び住民税率を乗じた金額を税金として納める必要があります。
したがって、60 歳到達時に安易に一時金で受け取ることはせず、受け取り時期をずらしたり、年金での受け取りも選択肢に入れて考えたほうがよいでしょう (確定拠出年金の受け取りは 1 年ずらした方が節税になる を参照)。公務員に限らず、もともと退職金の水準が高い場合には、掛金を積み立てる段階では節税できても、給付を受け取る段階で課税されることによって税制メリットが薄れることがありますので、受け取り方法についてもよく考えておくことが大切です。
ただ、公務員に対する退職手当の額は、定期的な官民格差の是正などにより減少傾向が長らく続いています。これは、民間企業における退職金の水準が低下してきていることの表れともいえます。公務員や大企業に勤める人にとっても、勤務先の退職金だけに頼らず、自らリタイア後の資金を積み立てておくことの重要性は増しているといえるでしょう。
著者 : 向井洋平 (むかい ようへい)
クミタテル株式会社 代表取締役社長
1978年生まれ。京都大学理学部卒業後、大手生命保険会社を経て2004 年にIICパートナーズ入社。2020年7月、クミタテル株式会社設立とともに代表取締役に就任。大企業から中小企業まで、業種を問わず退職金制度や高年齢者雇用に関する数多くのコンサルティングを手掛ける。日本アクチュアリー会正会員・年金数理人、日本証券アナリスト協会検定会員、1級DCプランナー、2級FP技能士。「人事実務」「人事マネジメント」「エルダー」「企業年金」「金融ジャーナル」「東洋経済」等で執筆。著書として『確定拠出年金の基本と金融機関の対応』(経済法令研究会)ほか。
出口 (イグジット) を見据えたシニア雇用体制の確立をしましょう
労働力人口の減少と高齢化が同時進行する中、雇用の入口にあたる採用、入社後の人材育成・開発に加え、出口 (イグジット) をどうマネジメントしていくかが、多くの企業にとっての課題となりつつあります。特に、バブル入社世代が続々と 60 歳を迎える 2020 年代後半に向けて、シニアの雇用をどう継続し、戦力として活用していくのか、あるいはいかに人材の代謝を促進するのか、速やかに自社における方針を策定し、施策を実行していくことが求められます。多くの日本企業における共通課題であるイグジットマネジメントの巧拙が、今後の企業の競争力を左右するといっても過言ではありません。
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