定年前に退職した場合の確定給付企業年金
こんにちは、IICパートナーズの退職金専門家 向井洋平です。
2018 年 5 月から、確定拠出年金制度 (DC) が一部改正されたのに合わせて、確定給付企業年金制度 (DB) についても一部改正がありました。その 1 つが定年前に退職した ”中途脱退者” の範囲の拡大です。
確定給付企業年金制度はその名称にあるとおり退職した従業員に対して「年金」を給付することを本来の目的とした制度ですが、実際に確定給付企業年金制度から年金給付を受け取るためには次の 2 つの条件を満たす必要があります。
- 1. 勤続 (加入) 期間が規約に定めた一定の年数 (企業により異なるが長くて 20 年) 以上であること
- 2. 規約に定めた年齢 (通常は定年年齢) に到達していること
これらの条件を満たさずに 確定給付企業年金制度から脱退 (退職) した“中途脱退者”は、退職時点では一時金 (脱退一時金) の形でしか確定給付企業年金制度からの給付を受けとることができないため、この脱退一時金相当額を他の制度に移すことで将来年金として給付を受け取れる仕組みが用意されています。
定年前に退職した “中途脱退者” に増えた選択肢とは
今回の改正によって法律の条文 (確定給付企業年金法第 81 条の 2) に定められた中途脱退者の定義は次のように書き換わりました。
【改正前】
当該確定給付企業年金の加入者の資格を喪失した者 (当該加入者の資格を喪失した日において当該確定給付企業年金の事業主等が支給する老齢給付金の受給権を有する者を除く。) であって、政令で定めるところにより計算したその者の当該確定給付企業年金の加入者であった期間が政令で定める期間に満たないものをいう。
※「政令で定める期間」は 20 年。
【改正後】
当該確定給付企業年金の加入者の資格を喪失した者 (規約で定める脱退一時金を受けるための要件を満たす場合に限る。) をいう。
だいぶシンプルな定義になりましたね。
改正前の定義では、冒頭に示した年金給付を受け取るための2つの条件のうち、1. の条件のみを満たして定年前に退職した人、ざっくり言い換えると「60歳 まで待てば確定給付企業年金制度から年金が支給される人」は中途脱退者には含まれていませんでした。
しかし、2018 年 5 月以降はこうした人も中途脱退者に含まれることとなり、給付の受け取りに関して次の選択肢が加わることとなりました。
- ・企業年金連合会に脱退一時金相当額を移して 65 歳から終身年金で受け取る (通算企業年金)
- ・確定拠出年金制度 (企業型または個人型) に脱退一時金相当額を移して自分で運用し、60 歳以降に年金または一時金で受け取る
上記のほか、確定給付企業年金制度のある会社に転職し、かつその確定給付企業年金制度において受け入れを認めている場合は転職先の確定給付企業年金制度に脱退一時金相当額を移す選択肢もありますが、そのような確定給付企業年金制度はかなり限られているのでレアなケースと考えてよいでしょう。
ライフコースの多様化が影響している
もともと 1. の条件のみを満たして定年前に退職した人が中途脱退者に含まれていなかったのは、退職時には 2. の条件を満たしていなくても、脱退一時金を受け取らずに何年か待って 2. の年齢に到達すれば確定給付企業年金制度から年金給付を受け取ることができるので、他制度への移行の仕組みは必要ないという考え方があったからです。
しかし確定拠出年金法の改正にあわせ、ライフコースの多様化へ対応するため、iDeCo (個人型確定拠出年金制度) の加入対象拡大とともに、確定給付企業年金制度についても離転職時の選択肢が拡充されることになりました。確定給付企業年金制度からの年金給付はその多くが 60 歳からの確定年金ですが、連合会に移すことで終身年金が受け取れたり、確定拠出年金制度 (DC) に移すことで最長 70 歳まで運用を継続したりすることができます。
しかし他制度に資金を移せるのはあくまで中途脱退者だけです。定年を迎えて退職と同時に確定給付企業年金制度からの年金給付を受け取れる人はこの仕組みの対象外です。でも、定年直前に退職した場合は連合会やDCへ移す選択肢があるのに、60 歳までいると移せなくなるというのはなんだか変な感じですね。
注:企業によっては定年前でも一定年齢以上で退職した人には退職時点から確定給付企業年金制度の年金給付を受け取れるようにしているケースもある。
ほとんどの確定給付企業年金制度では、年金給付を受け取れる場合でもこれに代えて一時金での給付の受け取りを選択できるようにしています (選択一時金)。そして、実際には年金よりも一時金で給付を受け取る人の割合のほうが高くなっています。定年後についても働き続ける人が多くなり、ライフコースが多様化している現状を踏まえれば、定年退職者の選択一時金相当額も他制度に移せるようにして選択肢を拡充することが望ましいでしょう。
そうなると、各確定給付企業年金制度では必ずしも年金給付を用意しなくても、連合会の通算企業年金や iDeCo を利用することで年金給付の受け取りが可能になります。企業にとっては受給者に対する債務を負わなくて済むようになりますから、これも企業側と従業員側の ”リスク分担” のあり方の 1 つだと考えます。
著者 : 向井洋平 (むかい ようへい)
株式会社IICパートナーズ 常務取締役
日本アクチュアリー会正会員・年金数理人。京都大学理学部卒。大手生命保険会社を経て、2004 年、IICパートナーズへ入社。アクチュアリーとして退職給付会計や退職金・年金制度コンサルティング、年金資産運用コンサルティングをおこなう。2012 年、常務取締役に就任。著書として『金融機関のための改正確定拠出年金Q&A(第2版)』 (経済法令研究会/ 2018 年 11 月刊) がある。2016 年から退職金・企業年金についてのブログ『社員に信頼される退職金・企業年金のつくり方』を運営。
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