DC実施企業に求められる商品選定についての再検討
更新日:2019年3月6日
確定拠出年金(DC)制度においては各加入者が自ら運用商品を選択し、その運用結果によって将来の給付額が大きく左右されることから、商品ラインナップの選定や提示方法が非常に重要となります。
これらについての考え方は、社会保障審議会企業年金部会の下に設置された「確定拠出年金の運用に関する専門委員会」において報告書に取りまとめられ、その後改正された政省令や法令解釈通知等の基礎となっています。 したがって、DC実施企業においては運用商品の選定や評価、見直しにあたって、本報告書の趣旨を理解しておくことが重要となります。
目次
1-1 報告書がとりまとめられた経緯
1-2 専門委員会における議論のテーマ
1-4 報告書の概要~2.指定運用方法の設定基準と設定プロセス
2-1 運営管理機関とDC実施企業の役割
2-2 商品ラインナップの検証
2-3 運用商品の除外
2-4 加入者への商品の提示と説明
3-1 指定運用方法の法的な位置づけ
3-2 指定運用方法を設定するか否か
DC運用専門委員会による報告書の概要
1-1 報告書がとりまとめられた経緯
2016年5月に成立した改正確定拠出年金法により、各企業において実施されているDCプランの商品提供数に上限が設けられることになりました。また、各プランにおいて「指定運用方法」を設定しておくことで、加入者が自ら運用商品を指定しない場合には、当該商品を指定したものとして扱われることが法律上明記されました。従来のデフォルト商品とは異なり、確定拠出年金における運用方法としてふさわしい商品が選定されるよう、一定の基準が設けらることとなりました。
しかし、具体的な上限数や指定運用方法の設定基準については下位法令で定めることとされたため、社会保障審議会企業年金部会の下に「確定拠出年金の運用に関する専門委員会」を設け、同委員会においてこれらのテーマについて議論を行うこととなりました。
同委員会は2017年2月から6月にかけて8回にわたって開催され、6月6日、議論の内容を取りまとめた報告書が公表されました。
1-2 専門委員会における議論のテーマ
上記のとおり、専門委員会では、政省令で定めるべき「運用商品数の上限」と「指定運用方法の設定基準」の2つを中心に議論が進められてきたわけですが、そもそも改正確定拠出年金法においてこれらの規定が設けられた趣旨は、加入者が運用商品を適切に選択できるようにすることにあります。
このことから、同委員会では、単に上限数をいくつにするとか、指定運用方法はこういう商品にするとかといったことだけでなく、報告書の副題にもあるとおり、運用商品の選択を支援するという観点から、商品選定にあたっての考え方や設定プロセス、加入者への提示方法なども含め、幅広い観点から議論が行われました。
本報告書を読み解くにあたっては、この点をしっかり押さえておく必要があります。
1-3 報告書の概要~1.商品ラインナップの選定と提示
専門委員会における議論のテーマの1つである運用商品数の上限に関しては、加入者による運用商品選択の支援の趣旨から、運用商品の選定や提示という観点も踏まえた議論が行われ、本報告書では次のように結論付けられています(抜粋、要約は筆者によるもの)。
(1)運用商品数の上限は35本とする
•必要最小限のもの、加入者にとって望ましいものという観点からは、30~40本は多すぎるとの意見があった。
•しかし、商品数が36本以上になると不指図率(商品の選択をしない加入者の割合)が急増するという調査結果や、今回定める上限数を既に超えている場合には5年以内に商品の除外を行わなければ法令違反となる点を踏まえると、35本とすることが適当である。
•運用商品の数え方については、現行通り、運用の指図を行う対象ごとに数えることが適当であるが、ターゲットイヤー型の商品に限っては、ターゲットイヤーだけが異なる商品(シリーズ)をまとめて1本と数えることが適当である。
(2)運用商品は加入者が真に必要なものに限って提供する
•運用商品数は上限一杯まで設定するということではなく、加入者が真に必要なものに限って提供されるよう、運営管理機関等と労使が主体的に提供商品を設定し、また定期的に見直していくことが求められる。
•運用商品を厳選するに当たっては、運用商品全体のラインナップがバランスのとれたものであることや、個々の運用商品の質(手数料を含む)を十分吟味し、その選定理由を説明することに留意しなければならない。
(3)加入者が選択しやすくなるような運用商品の提示を行う
•運用商品を選定・提示する運営管理機関等が、個々の運用商品の選定理由に加え、運用商品の全体構成に関する説明を行うことが適当である。
•運用商品の提示に当たっては、
‒ 投資対象資産の種類やパッシブ・アクティブの区分を示す。
‒ パッシブ運用商品を一括りにして「基本的な運用商品」等、アクティブ・オルタナティブを一括りにして「応用的な運用商品」等と示す。
‒ 運用商品の一覧表の中において、手数料を示す
といった工夫を促すことが適当である。
1-4 報告書の概要~2.指定運用方法の設定基準と設定プロセス
もう1つのテーマである指定運用方法の設定基準に関しては、運用の指図(商品の選択)は加入者自身が行うことが原則であることを念頭に置きつつ、その設定プロセスや加入者への情報提供の観点も踏まえた議論が行われ、本報告書では次のように結論付けられています(抜粋、要約は筆者によるもの)。
(1)指定運用方法の基準
指定運用方法の基準としては、次のようなものとすることが適当である。
•長期的な観点から、物価その他の経済事情の変動により生じる損失(名目・実質)の可能性に関し、加入者集団にとって必要な考慮がなされているものであること。
•指定運用方法により見込まれる収益(名目・実質)が、損失の可能性との関係で合理的であることを説明できるものであって、加入者集団にとって必要な収益の確保が見込まれるものであること。
•指定運用方法に係る手数料、信託報酬その他これらに類する費用が、見込まれる収益に照らし、過大でないこと。
(2)指定運用方法の設定プロセス
•加入者集団のリスク許容度や期待収益等を考慮・検討しつつ、元本確保型商品から分散投資効果に資する商品までの様々な選択肢の中から、労使や運営管理機関等で十分かつ真摯に協議し、指定運用方法にふさわしい商品を決定することが適当である。
•事業主から加入者属性等必要な情報提供を受けた運営管理機関等が、その専門的な知見を踏まえて、労使に対し、指定運用方法の選定に当たり有用なリスク・リターン等の特性等の情報提供を行うことが適当である。
•法改正前より「あらかじめ定められた運用方法」を設定していた場合であっても、当該運用方法を当然に法改正後の指定運用方法に選定すべきであるということではなく、指定運用方法の位置づけを改めて労使で十分に協議したうえで、提示された基準等に沿って決定すべき。
(3)加入者への情報提供
•まず、運営管理機関等は、加入者に対し、自ら運用商品を選択し運用を行うよう促した上で、指定運用方法の仕組みの周知とともに、指定運用方法の選定理由を十分に説明することが基本である。
•運営管理機関等は、元本確保型商品などが指定運用方法に選定されている場合にはより収益を上げる投資機会を逃す可能性があることや、インフレになれば実質価値を維持できない可能性があることについて、加入者に情報提供することが適当である。
•指定運用方法が適用された後においても、指定運用方法を変更して運用の指図を行うことができることなどについて、加入者に継続的な情報提供や働きかけを行っていくことが適当である。
商品ラインナップの再検討
2-1 運営管理機関とDC実施企業の役割
確定拠出年金法において、運用商品の選定や提示は「運営管理業務」の1つとされ、ほとんどのDC実施企業では、この運営管理業務を運営管理機関(金融機関)に委託しています。したがって、運用商品を選定し加入者に提示するのは、基本的には運営管理機関の役割となります。
しかし、企業は運営管理機関に任せておけばそれでよいというわけではありません。報告書にも「加入者が真に必要なものに限って運用商品が提供されるよう、運営管理機関等と労使が主体的に提供商品を設定し」とあるように、加入者自身が適切に商品を選択できるよう、企業側も主体的に関わっていくことが求められています。
2-2 商品ラインナップの検証
今回、商品数の上限については35本とある程度余裕を持った数字が示されたことから、直ちに商品数の絞り込みを検討しなければならない企業は少ないと考えられます(2016年企業年金連合会調査では、商品数が30本を超えるプランは全体の3.9%)。
しかし、上限以内であっても本数が多いほど選びにくくなることに変わりはありません。専門委員会の議論では、必要最小限の商品に絞れば10本程度になるとの声もありました。また、投資になじみのない加入者に対して十分な説明を行うには、できるだけ本数を絞っておくことが望ましいでしょう。報告書においても、「加入者に対する忠実義務(受託者責任)に則り、運用商品を厳選するに当たっては」という表現が用いられています。
こうした点を踏まえると、現状10本程度の必要最小限の商品しかないプランは別として、15~20本以上あるプランにおいては、例えば以下のような分類で商品を整理しておくことが必要ではないでしょうか。
分類 | 該当する商品や本数 |
---|---|
(A)基本的な商品 | <元本確保型商品> ・定期預金及び保険商品、各2本程度まで <投資信託> ・伝統的4資産(国内株式・国内債券・外国株式・外国債券)の一般的な指数によるパッシブ運用商品(各1本) ・上記の組み合わせによるバランス型運用商品(1シリーズ程度) |
(B)応用的な商品 | <投資信託> ・アクティブ、オルタナティブ運用商品等 ・新興国への投資商品 |
(C)除外を検討する商品 | ・アクティブ運用等で手数料(信託報酬)が期待される収益に見合っていないと考えられる商品 ・類似の商品が複数ある中で、手数料等の面で明らかに劣っていると考えられる商品 |
なお、最初に述べたように、運用商品の選定は基本的に運営管理機関の役割ですから、上記のような整理はまず運営管理機関において行うべきであり、企業側は加入者の立場に立ってその説明を受け、納得がいかなければ見直しを求めるという立場になります。
上限までまだ余裕がありそうだからと、既存のラインナップを一切検証することなく商品の追加を推し進めるのは論外です。
2-3 運用商品の除外
上記のような商品の整理を行った結果、「除外を検討する」と分類された商品があっても、実際に除外するにはその運用商品を選択している者からの同意が必要となります。従来は対象者全員の同意がなければ除外できなかったために実施は非常に困難でしたが、法改正後は所在不明者を除く対象者2/3以上の同意により除外できるようになり、また通知から3週間以内に意思表示がなければ同意したものとみなすことができるようになったため、必要な手続きを踏むことにより実際に商品を除外することが可能となりました。
なお、2/3以上の同意(全員の同意ではない)により除外されることとなった商品については、改正法施行前の2018年4月までの掛金に対応する部分については運用が継続され、施行後の2018年5月以降の掛金に対応する部分については売却されることとなります。また、除外された商品はそれ以降新たに購入することはできず、35本の商品数の上限にもカウントされません。
2-4 加入者への商品の提示と説明
報告書では、加入者への運用商品の提示に当たって、「まず、運用商品を選定・提示する運営管理機関等が、個々の運用商品の選定理由に加え、運用商品の全体構成に関する説明を行うことが適当である」としています。上記のA~Cのような整理ができていれば、加入者への説明もしやすくなるでしょう。
逆に言えば、どのような理由やねらいで商品の全体構成を決めたのかということを、加入者に対して説明できるか(加入者が理解できるか)、という観点で商品ラインナップ検証することが有効であり、ラインナップの整理は加入者への提示方法や説明内容とセットで考えておくのがよいでしょう。
また、各加入者の運用商品の選択は、最終的には運営管理機関の専用Webサイトで行われるのが一般的ですが、商品数が多いと操作が難しくなる可能性があります。商品選択の最終段階で加入者が迷ったりあきらめたりすることのないよう、Web操作の分りやすさや操作方法についてのサポートを充実させることも重要といえます。
次に、指定運用方法の設定について考えます。
指定運用方法の設定
3-1 指定運用方法の法的な位置づけ
DCでは、加入者が自己の責任において運用の指図を行うことが法律上明記されており、あくまで加入者自身が商品を選択するのが原則です。しかし、現実には商品の選択を行わない加入者(不指図者)も一定数存在するため、従来から制度運営上の取り扱いとしてプランごとに「デフォルト商品」を設定し、加入者本人による商品の選択が行われないときには自動的にデフォルト商品を選択したものとする対応が行われてきました。
2016年の法改正によりこの取り扱いが「指定運用方法」として法律上明記され、最初の掛金納付日から、3か月以上の規約で定めた期間(特定期間)を経過しても商品の選択が行われない場合は、レコードキーパー(JIS&T、NRK等の記録関連運営管理機関)から加入者に対して運用指図を行うよう通知することとし、そこからさらに2週間以上の規約で定めた期間(猶予期間)を経過してもなお商品の選択が行われない場合には、指定運用方法として定めた商品を購入するという手続きが定められました。
このように、指定運用方法はあくまで例外的な取り扱いという位置づけですが、DC制度の趣旨を踏まえ、高齢期の所得確保に資する運用を目指す観点から、改正法においては「指定運用方法は、長期的な観点から、物価その他の経済事情の変動により生ずる損失に備え、収益の確保を図るためのものとして厚生労働省令で定める基準に適合するものでなければならない」と定められています。
3-2 指定運用方法を設定するか否か
指定運用方法は法律上必ず設定しなければならないというものではなく、本報告書においても設定の是非については特段触れられていません。しかし指定運用方法についての手続きと基準が法令上定められたことで、改正法の施行後はこれ以外の方法で加入者が特定の商品を選択したとみなすことは認められず、指定運用方法を設定しない場合には、不指図者に対して継続的な働きかけが求められることになります。加入者自身が運用指図を行わない限り、拠出された掛金等は「未指図資産」として現金相当の扱いとなり、運用されることはありません。
指定運用方法など設定しなくとも、加入者への説明や投資教育により、全ての加入者が自ら適切に商品を選択するのが理想ではありますが、現実に一定の不指図者が発生することが避けられない場合には、指定運用方法を設定しないことのデメリットも踏まえたうえで、設定の有無を判断すべきでしょう。
なお、指定運用方法を設定したからといって、不指図者への働きかけは必要ないということではありません。報告書においても、「指定運用方法が適用された後においても、資産額通知や継続投資教育等あらゆる機会を利用して、指定運用方法を変更して運用の指図を行うことができることなどについて、加入者に継続的な情報提供や働きかけを行っていくことが適当である」とされています。
3-3 指定運用方法としてどの商品を設定すべきか
指定運用方法の設定基準をめぐる専門委員会での議論においては、DC制度の目的や購買力の維持の観点から元本確保型商品は指定運用方法として適当でなく、長期分散投資が基本ではないかといった意見も出されました。
しかし、指定運用方法を定めた条文は、特定の運用商品を指定あるいは除外するような基準を求めるものではないとの解釈(注)から、報告書においては「元本確保型商品から分散投資効果に資する商品までの様々な選択肢」を取り得るような設定基準が示されています。
(注)法案審議における政府の答弁が根拠となっている。詳細は第7回専門委員会の議事録等(厚生労働省Webサイト) を参照。
ただその一方で、運営管理機関は加入者に対して指定運用方法を法令の基準に基づきどのような考え方で選定したのかを十分に説明することとされており、もし元本確保型商品を指定運用方法とするならば、それを正当化する理由がなければなりません。
では、元本確保型商品を正当化できるケースとして、どんな条件が考えられるでしょうか?
例えば、
•40代、50代で加入する社員が多いケース(他の退職給付制度から移行する形で新たにDCを実施するケースを含む)
•退職金とは別に、自助努力による老後資金の積み立ての観点から、各従業員の選択により給与等の一部をDC事業主掛金に振り替えることとしているケース(選択制DC)
•投資教育を通じ、加入者が自ら設定した資産構成割合に基づいて商品を組み合わせられるようにするという考え方のもと、バランス型の投資信託を商品ラインナップにおいておらず、実際に分散投資が一定程度実現できているケース
といったような場合には、「残りの運用期間を考慮すると、インフレリスクよりも価格変動等によるリスクのほうが高い」「制度を設けた趣旨として、運用ではなく社員の選択による掛金の確実な積み立てを重視している」「分散投資効果のある投資信託の商品をおいていない」といった理由により、元本確保型商品を指定運用方法とすることも考えられるでしょう。
逆に、新規加入者のほとんどが20代で、主要な退職給付制度としてDCを位置付けており、分散投資が可能なバランス型の投資信託が商品ラインナップにある場合においては、元本確保型商品を、法律に規定した「長期的な観点から、物価その他の経済事情の変動により生ずる損失に備え、収益の確保を図るためのもの」とする理由づけは難しいのではないでしょうか。
いずれにしても、各企業における新規加入者の属性やDC制度の位置づけ等を踏まえて決定することが重要であり、こうした点を運営管理機関としっかりと共有したうえで検討を進めていくことが求められます。