【中小企業向け】総合型企業年金の特徴と加入検討のポイント
2023年7月1日、当社クミタテル株式会社は全国ビジネス企業年金基金との業務提携を発表しました(プレスリリースはこちらに掲載)。全国ビジネス企業年金基金は「しっかり貯まる企業年金®」という愛称を持つ年金基金で、総合型の確定給付企業年金(総合型DB)と呼ばれる企業年金の1つです。
全国ビジネス企業年金基金とは1年前にも「中小企業にこそ必要な退職金制度の見直しと、企業年金という選択肢」というテーマでセミナーを共同開催しましたが、この度の紹介業務提携によりさらに連携を深めていくことになりました。セミナー動画や資料、レポートについてはこちらで公開していますので、是非ご覧ください。
今回は、この「総合型DB」と呼ばれる企業年金について、3つの特徴と加入検討のポイントを解説します。最近では確定拠出年金(DC)の陰に隠れがちなDBですが、特に中小企業において退職金制度の新設や見直しを行う際には、選択肢として考えたい制度の1つです。
DBの一般的な特徴と中小企業にとってのハードル
確定給付企業年金(DB)は、社員が退職したときにいくらの給付を支払うか(支給額の算定式と支給方法)をあらかじめ規約に定めておき、そのために必要な資金を企業が前もって積み立てておくタイプの企業年金です。
一般的な退職金制度であれば、その設計内容を反映してDBに移行することができます。そうすることで、将来の退職金の支払いに必要な資金を社員の在職中から計画的にDBに積み立て、社員が退職したときにはDBから支払いを行い、退職者の多寡によらず会社からの毎年の支出を一定の水準に保つことができます。
しかしDBの運営には様々な負担も伴います。例えば、DBでは事前に積み立てた資金を企業の責任で運用します。実際の運用は金融機関に委託しますが、積立不足が発生した場合には企業が追加の掛金を負担する必要があるため、企業側にも財政状況の理解とリスクマネジメントが求められます。
また、DBを所管する厚生労働省に対しても、規約の申請を行ったり、毎年の積立状況を確認して報告したりといった対応が必要となります。こうした事務についても委託先の金融機関で対応していますが、金融機関側では人数規模などで一定の引受基準を設けていますので、規模の小さな企業が単独でDBを実施するのは現実的ではありません。
総合型DBの3つの特徴
①共同運営により中小企業でもDBを実施できる
そこで、1社ごとではなく多数の企業が集まって共同で実施することで中小企業でも利用できるようにしたのが「総合型」という仕組みです。元々はかつて普及していた厚生年金基金の設立形態の1つとして定められていたものですが、その名称を引き継いで多数の企業で共同運営するタイプのDBを「総合型DB」と呼ぶようになりました。
(ちなみに、DCについても1つの企業型年金規約に多数の企業が参加する運営形態を「総合型DC」と呼び、100人程度までの規模の企業で実施されているDCはほぼ「総合型DC」となっています。)
総合型DBでは、その成り立ちの経緯から、以前は同じ業種や同じ地域の企業だけが集まって1つの年金基金を構成していました。しかし最近では業種や地域の枠を超え、日本全国どの企業にも門戸を開いて加入を募る総合型DBも増えてきました。全国ビジネス企業年金基金もその1つです。
②積み立てた掛金に利息を付けて支給
総合型DBは1つの年金基金に多数の企業が加入する仕組みですから、1社単独で実施するDBのように、個別の会社のニーズに応じて支給額の算定方法を別々に定めることはできません。また、加入企業間で不公平が生じないように、会社単位・個人単位で見たときに、掛金額と支給額の関係が明らかな仕組みが望ましいといえます。
そのため、広く加入企業を募集している総合型DBでは、掛金額に一定の利息を付けた額が支給額となるような仕組みを採用しています。そうすると一見、DCのように思われるかもしれませんが、利息は年金基金であらかじめ定めたルール(例えば国債利回りに応じた率)に従って計算され、運用結果がそのまま支給額に反映されるわけではありません。
資産の運用は年金基金全体で行われるため、個人が運用の責任を負うことはなく、したがってDCのように従業員に対する投資教育を行う必要もありません。また、途中で退職しても60歳までは原則受け取りできないDCと異なり、総合型DBでは通常の退職金と同様に退職時に一時金として受け取ることが可能です(iDeCoなどに資産を移して積立を継続することも選択できます)。
③中退共よりも柔軟性のある制度運営
これと似た仕組みが総合型DBのほかにもあります。それは中小企業退職金共済(中退共)です。中退共では、納付した掛金の合計額に、納付月数に応じた一定の利息に相当する金額を加えて退職金が支給されます。
中退共は国(正確には独立行政法人勤労者退職金共済機構)が運営する退職金の共済制度で、30万社を超える中小企業と300万人を超える従業員の方々が加入しており、高い信頼性があります。
しかしその一方で、パート社員等を除いて全員加入が原則であることや、掛金の設定範囲が限られていること、ほかの制度との行き来が非常に制限されていること(一度加入するとやめるのが難しい)、中小企業でなくなると逆に加入の継続ができないなど、何かと制約が多い制度でもあります。
その点、総合型DBでは、法令の範囲内であれば各年金基金の創意工夫により柔軟な制度設計が可能であり、DC(iDeCoを含む)や企業年金連合会との間で積み立てた資金の持ち運びもできるようになっています。企業規模の制限もありません。総合型DBは、企業の成長や経営環境の変化、個人のキャリアの多様化にも対応できる制度となっています。
総合型DBへの加入を検討する際の3つのポイント
①年金基金の制度設計が自社のニーズに合っているか
こうした特徴を持つ総合型DBへの加入を考える場合、どのような点に着目して、加入の是非を判断したらよいでしょうか?新規加入の募集の範囲や制度設計などは各年金基金によって様々ですので、まずは自社が加入可能で、制度設計が自社のニーズに合う年金基金を見つけ出すことが必要となります。
広く加入企業を募集している総合型DBでは、毎月の掛金額を企業ごとに設定できるようにするなど、できるだけ各社のニーズに合わせられるような柔軟な制度設計を用意しています。言い換えると、各社ごとにカスタマイズできる余地が大きいことから、自社のニーズに合った適切な提案を受けられるかどうかもポイントとなります。
②効率的で安定的な制度運営を行っているか
総合型DBでは、一般に制度運営のための手数料にあたる「事務費掛金」を、退職金の積み立てのための掛金とは別に徴収しています。事務費掛金は年金基金の資産規模や人数規模が大きいほど割安な傾向にあり、効率的で安定的な制度運営が行えているかがポイントになります。
ほとんどの総合型DBは厚生年金基金からの移行により設立された年金基金であり、移行の際に厚生年金の代行部分を国に返還して資産額を大きく減らしました。しかしその後は基金同士の合併や新たな加入企業の募集などにより、規模の回復に努めている年金基金もあります。年金資産額や加入者数がどのように推移しているかも確認するとよいでしょう。
③将来にわたる財政の健全性
財政の健全性は最も重要なポイントです。かつては日本には600以上の総合型厚生年金基金が存在していましたが、財政状況の悪化が引き金となって、その多くは姿を消してしまいました。現存する総合型DBは、その厳しい状況を乗り越えてきた年金基金や新たに設立された年金基金であり、財政状況も全般的に改善してきています。
ただ財政状況は各年金基金で異なるため、どれくらいの余力があるのか、将来にわたっても健全性を確保できるのか、リスクの見極めが重要です。年金基金の財政悪化は加入企業の追加掛金負担につながるからです。
これは加入時だけでなく、加入したあとも継続的に見ていく必要があります。もちろん年金基金の側にも財政の透明性を確保し、加入企業に対して説明する責任があります。
以上、今回は総合型DBの特徴と加入検討にあたってのポイントを解説しました。冒頭ご紹介したように、クミタテルは全国ビジネス企業年金基金と業務提携を行いましたが、当該基金に限らず、総合型DBやその他退職金全般に関して幅広くご相談を承っております。お困りごとがありましたらお問い合わせフォームよりお気軽にお問い合わせください。
著者 : 向井洋平 (むかい ようへい)
クミタテル株式会社 代表取締役社長
1978年生まれ。京都大学理学部卒業後、大手生命保険会社を経て2004 年にIICパートナーズ入社。2020年7月、クミタテル株式会社設立とともに代表取締役に就任。大企業から中小企業まで、業種を問わず退職金制度や高年齢者雇用に関する数多くのコンサルティングを手掛ける。日本アクチュアリー会正会員・年金数理人、日本証券アナリスト協会検定会員、1級DCプランナー、2級FP技能士。「人事実務」「人事マネジメント」「エルダー」「企業年金」「金融ジャーナル」「東洋経済」等で執筆。著書として『確定拠出年金の基本と金融機関の対応』(経済法令研究会)ほか。