退職金は給料やボーナスと同じ「報酬」の 1 つ | 連載「退職金がない会社は今すぐ辞めるべきか」
就職や転職を考えるとき、年収がいくらになるのかは誰もが知りたいところです。一般に「年収」といえば月々の給料と年 2 回程度支給されるボーナスの合計額のことですが、会社が社員に対して支払う重要な報酬がもう 1 つあります。退職金です。
退職金は「後払い賃金」
一口に退職金といってもその種類や目的は様々ですが、勤務年数を重ねるごとに金額が積み上がっていき、退職したときにまとめて支払うというのが基本的な仕組みです。つまり、報酬のうち、在職中には支給せずにプールしておいて後で支払う賃金が退職金だということができます。
後払いというと受け取る側にとっては不利なようにも思えますが、退職金には次のようなメリットもあります。
- ✔️ 退職後の生活資金が確保されることで長い期間、安心して働くことができる
- ✔️ 何らかの理由で途中で辞めることになった場合にも一定の資金を確保できる
- ✔️ 給料やボーナスよりも退職金で受け取ったほうが税金や社会保険料の負担が小さい
その一方で実際に受け取るのが退職後になることから、退職の時期が間近にならないと関心が向きにくいというのも事実です。しかし終身雇用が崩れ、中途入社や転職が一般的になるにつれ、キャリアプランやライフプランを自分で立てていくことが必要になってきています。たとえ同じ会社に長く勤めて定年を迎えたとしても、形を変えて働き続ける人がほとんどです。職業人生が一本道ではなくなった今の時代、退職金について無関心ではいられません。
給料やボーナスだけでなく退職金も報酬の 1 つであること、特にキャリアプランやライフプランを考える上では重要な報酬であることを認識しておきましょう。ちなみに、大企業では従業員 1 人 1 か月あたり平均で 4.6 万円程度を退職金にかかる費用として負担しています。「年収」とは別に、年間 50 万円を超える額が報酬として積み上げられているということです。
年収に換算しやすい種類の退職金
様々な種類がある退職金の中で「後払い賃金」として考えやすいのが確定拠出年金 (DC) です。給料が毎月銀行口座に振り込まれるのと同じように、掛金が DC の専用口座に毎月入金されます。年収に換算しやすい退職金ということもできます。DC 口座に積み立てた資金は基本的に 60 歳以降でないと引き出せないため、老後資金を確実に積み立てられる反面、それ以前に退職したときには自由に使うことができません。
このような性質から、DC については「前払い」との選択制としている会社も多くあります。確定拠出年金の掛金を DC 口座に積み立てるのか、そうではなくて給料やボーナスに上乗せして支給するのかを各社員が選択できる仕組みです。なかには、もともと給料であった金額の一部を本人の選択により DC の掛金として積み立てられるようにしている会社もあります。いわば給料を退職金に変換するための仕組みです。
年収に換算しやすい種類の退職金には、確定拠出年金のほかにも、例えばポイント制の退職金があります。ポイント制の退職金では、社内の資格等級などに応じて 1 年 (または 1 月) あたりのポイントが定められており、入社から退職までの期間に積み上がったポイントの合計にポイント単価 (例えば 1 万円) を掛けた金額が退職金として支給されます。
ポイント制で、かつ自己都合による退職であっても減額されない仕組みであれば、「1 年あたりのポイント×ポイント単価」がそのまま退職金として積み上がっていきますので、後払い賃金という考え方にぴったり合います。
掛金やポイントの設定方法などにもよりますが、転職を繰り返す人にはこうした種類の退職金が向いているといえるでしょう。今いる会社と転職先の会社を条件面で比較する際にも、給料・ボーナスと退職金を合わせたトータルの報酬での比較がやりやすくなります。
年収に換算しにくい種類の退職金
確定拠出年金やポイント制のような比較的新しいタイプの退職金に対して、最終給与比例のような古いタイプの退職金は年収に換算しにくい種類の退職金といえます。最終給与比例の退職金では、あらかじめ退職時の勤続年数や退職事由 (自己都合退職か定年退職かなど) に応じた係数が定められており、退職したときの給与 (基本給など) に係数を掛けた金額が退職金として支給されます。
確定拠出年金やポイント制の退職金は入社から毎月 (あるいは毎年) 残高が積み上がっていくのに対して、最終給与比例の退職金は退職した時点の条件 (給与と係数) だけで金額が決まるのが特徴です。
そのため、定年まで今の会社で働くつもりでいる場合など、退職の時期をあらかじめ想定できる人にとっては金額を把握しやすい仕組みです。その一方で、毎年の退職金の積み上げ額がはっきりしないため、年収に換算して比較するのは困難です。
最終給与比例の退職金では、勤続年数が長期になるまで係数が低く抑えられていたり、自己都合退職の係数が定年退職に対して低く設定されていることが多くあります。こうした退職金は、中途入社や転職する人にとっては不利だといえます。
著者 : 向井洋平 (むかい ようへい)
クミタテル株式会社 代表取締役社長
1978年生まれ。京都大学理学部卒業後、大手生命保険会社を経て2004 年にIICパートナーズ入社。2020年7月、クミタテル株式会社設立とともに代表取締役に就任。大企業から中小企業まで、業種を問わず退職金制度や高年齢者雇用に関する数多くのコンサルティングを手掛ける。日本アクチュアリー会正会員・年金数理人、日本証券アナリスト協会検定会員、1級DCプランナー、2級FP技能士。「人事実務」「人事マネジメント」「エルダー」「企業年金」「金融ジャーナル」「東洋経済」等で執筆。著書として『確定拠出年金の基本と金融機関の対応』(経済法令研究会)ほか。
出口 (イグジット) を見据えたシニア雇用体制の確立をしましょう
労働力人口の減少と高齢化が同時進行する中、雇用の入口にあたる採用、入社後の人材育成・開発に加え、出口 (イグジット) をどうマネジメントしていくかが、多くの企業にとっての課題となりつつあります。特に、バブル入社世代が続々と 60 歳を迎える 2020 年代後半に向けて、シニアの雇用をどう継続し、戦力として活用していくのか、あるいはいかに人材の代謝を促進するのか、速やかに自社における方針を策定し、施策を実行していくことが求められます。多くの日本企業における共通課題であるイグジットマネジメントの巧拙が、今後の企業の競争力を左右するといっても過言ではありません。
シニア社員を「遊休人員化」させることなく「出口」へと導くイグジットマネジメントを進めるために、まずは現状分析をおすすめします。