自分の退職金の額を知るには | 連載「退職金がない会社は今すぐ辞めるべきか」
退職金の有無や金額は会社によってバラバラであり、同じ会社の中でも人によって金額に大きな差がつくことがあります。自分のライフプランを考えるときに、世の中の平均値はあまり役に立ちません。自分の退職金は自分で確かめることが重要です。
では、自分の退職金の額を知るにはどうしたらいいでしょうか。
社内の規程や資料を確認する
退職金制度のある会社では、退職金の支給条件や金額の算定方法を「退職金規程」などの社内規程に定めています。規程の名称は「退職金支給規程」等、会社によって若干異なります。また、就業規則や給与(賃金)規程等の中の 1 項目として定めている場合もあります。
さらに、企業年金を実施している場合は「○○企業年金規約」「○○企業年金基金規約」(確定給付企業年金の場合)または「○〇企業型年金規約」(確定拠出年金の場合)という名称で規約が定められ、その中で給付や掛金の内容が規定されています。
これらの規程・規約は社員がいつでも閲覧できるようにしておく必要があり、多くの会社ではイントラネット等で確認することができるようになっています。会社が就業規則やその付属規程である退職金規程等の閲覧を拒否するのは違法であり、そうした会社は労働条件でトラブルになるリスクが高いといえます。
こうした規程・規約を確認することで、少なくとも退職金の有無や支給の条件など基本的なことは把握できるでしょうが、具体的な内容まで理解することはできないかもしれません。特に企業年金の規約は専門的な知識がないと読み解くことは困難です。
そこで、会社によっては人事、総務等の担当部署が、退職金を含む社内の人事制度について説明したガイドブックを用意したり、イントラネットに情報を掲載したりしています。会社に労働組合がある場合は組合が、年金基金がある場合は基金がそうした情報を提供していることも多いので、確認してみるとよいでしょう。
ただ、こうした資料を確認しても (モデル退職金等の記載はあるかもしれませんが) 、自分自身の退職金が今いくらで、将来どうなるのかまでわかるとは限りません。
定期的な通知を確認する
退職金の額が「基本給×勤続年数」のようなシンプルな算定式で定められている場合には、給与明細に記載されている基本給とこれまでの勤続年数を掛けることで、比較的簡単に現時点の退職金を計算することができます。定年まで勤めた場合の金額も、ある程度目安をつけることができるでしょう。
しかし、例えば、近年多くの会社で採用されている「ポイント制」の退職金制度の場合、勤続年数や社内の資格等級などによって定められたポイントの累積により退職金が計算されるため、その記録を確認しないことには具体的な金額を知ることはできません。
そのため、当期に付与されたポイントやこれまでに累積されたポイントを給与明細に記載するなどして、退職金の残高を定期的に通知している会社もあります。退職金に限らず、給与明細に記載されている項目についてはよく確認しておくことが重要です。
また、確定拠出年金に加入している場合は、少なくとも年に 1 回、資産の残高や運用状況についての通知が、確定拠出年金の記録管理を行っている専門業者(記録関連運営管理機関)から書面で届きます。普段なじみのない会社からの通知であることから、中身をよく確認せずに捨ててしまう人も多いようですが、自分の退職金がいくらになっているのか、しっかり確かめておきましょう。
なお、確定拠出年金に関しては書面での通知を待たずとも、加入者 Web サイトからいつでも残高を確認することができます。但し、運営管理機関からの通知書や Web サイトで確認できるのはあくまで確定拠出年金の残高であり、それ以外にも退職金がある場合は別途確認する必要があります。
人事や総務の担当者に確認する
確定拠出年金に関しては少なくとも年に 1 回、加入者に資産の残高や運用状況を通知することが法律で定められていますが、それ以外の退職金については、会社は社員に対して金額等を定期的に通知することを義務付けられているわけではありません。
では、社内の規程や説明資料から具体的な金額を計算することが難しく、会社からの通知等もない場合はどのようにして退職金の額を確認したらよいでしょうか。
その場合は人事や総務、年金基金の担当者にストレートに聞いてみましょう。むしろ、最初からそうするのが一番手っ取り早くて確実ともいえます。すでに定年を迎えて再雇用となっている先輩社員などに聞いてみるという方法もありますが、退職金の額は様々な条件によって異なるので、鵜呑みにするのは避けた方が無難です。
退職金の額を社内の担当者に直接問い合わせるのは、退職をほのめかすようで抵抗を感じるかもしれませんが、少なくとも年金基金の担当者は加入者である社員の質問や相談に応じるのが仕事です。決して少なくないコストをかけて退職金制度を実施しているのに、退職間近になるまで社員が退職金に関心を持たないことに、むしろ人事や総務の担当者も、課題を感じていることが少なくありません。
大きな騒動となっている金融審議会の報告書「高齢社会における資産形成・管理」でも、企業に求められる取り組みとして、「退職金がいくらになるかの見通しを出来る限り早い時期に雇用者から本人に通知すること」や「運用状況や給付額について、より職員が把握しやすくなるようにすること」が挙げられています。退職金がいくらになるのかは、高齢期に向けた資産形成を考える上で本人にとって極めて重要だからです。
参考コラム
「老後 2,000 万円」に惑わされないために~金融審議会の報告書に示された行動指針を確かめる ― 3 企業に求められる役割
退職金が充実しているかどうかはもちろん重要な労働条件の 1 つですが、自分で将来のライフプラン・マネープランを立てていくことが求められるこれからの時代には、各社員にとって退職金が「見える化」されていることも、同じくらい重要だと考えます。
著者 : 向井洋平 (むかい ようへい)
クミタテル株式会社 代表取締役社長
1978年生まれ。京都大学理学部卒業後、大手生命保険会社を経て2004 年にIICパートナーズ入社。2020年7月、クミタテル株式会社設立とともに代表取締役に就任。大企業から中小企業まで、業種を問わず退職金制度や高年齢者雇用に関する数多くのコンサルティングを手掛ける。日本アクチュアリー会正会員・年金数理人、日本証券アナリスト協会検定会員、1級DCプランナー、2級FP技能士。「人事実務」「人事マネジメント」「エルダー」「企業年金」「金融ジャーナル」「東洋経済」等で執筆。著書として『確定拠出年金の基本と金融機関の対応』(経済法令研究会)ほか。
出口 (イグジット) を見据えたシニア雇用体制の確立をしましょう
労働力人口の減少と高齢化が同時進行する中、雇用の入口にあたる採用、入社後の人材育成・開発に加え、出口 (イグジット) をどうマネジメントしていくかが、多くの企業にとっての課題となりつつあります。特に、バブル入社世代が続々と 60 歳を迎える 2020 年代後半に向けて、シニアの雇用をどう継続し、戦力として活用していくのか、あるいはいかに人材の代謝を促進するのか、速やかに自社における方針を策定し、施策を実行していくことが求められます。多くの日本企業における共通課題であるイグジットマネジメントの巧拙が、今後の企業の競争力を左右するといっても過言ではありません。
シニア社員を「遊休人員化」させることなく「出口」へと導くイグジットマネジメントを進めるために、まずは現状分析をおすすめします。