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「人生100年時代」人事が見据えておくべきこと 後編

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「人生100年時代」人事が見据えておくべきこと  後編

これまでの 60 歳で定年を迎えて引退する時代から生涯現役の時代へと変化していく中で、従業員の教育から退職、さらにその先に至るまでの流れが変わろうとしている。まもなく到来すると言われる「人生 100 年時代」を見据えて、これからの人材育成や人事制度はどうあるべきか? 人事制度設計や教育支援をおこなうセレクションアンドバリエーション 代表取締役社長 平康慶浩 氏と 退職金専門家である IICパートナーズ 常務取締役 向井 に語ってもらった。

—人生 100 年時代での企業と個人のあり方とは?

向井  まずは個人としては人生 100 年時代に対して、どうあるべきだと思われますか?
平康  人生 100 年時代というのは引退というのがなく、生涯現役なんですね。生涯現役のためには、かつて学習していた部分の学びなおしが絶対に必要になってくる。これを「リカレント教育」と言ったりしますね。要は、常に学びなおしながら生涯現役を保っていく。これが人生 100 年時代に生きる私たちの基本スタンスということになると思います。
向井  企業としてはいかがでしょうか?
平康  企業としては、人材の早期育成が重要になると思います。つまり、学びなおして生涯現役になるということは「一生うちにいてもらうわけじゃない」という会社が増えてくる。その従業員の人生のためというよりは、その従業員に早く仕事を身につけて活躍してもらうための教育をしていこうという方向性になるのではないかと考えています。つまり、新卒で入ってきて 3 年から 5 年かけて一人前になってくれればいいというものは過去の産物で、半年から一年で一人前になって、できる人はどんどん上がっていく、そのための育成をしましょうと。
向井  なるほど。
平康  人生 100 年時代の人材育成の基本は、さっさと戦力になる教育をしていくとともに、自分で何とかしなさいと、従業員に自律的な学習をするように意識づけをしていくということになると思います。個人としてのリカレントも必要なんですけど、会社としては会社に甘えない発想をつくるための意識改革と早期に活躍して稼げる従業員に育てるための育成が大きな流れになるだろうと予想します。
向井  難しいところではありますが、「採用」「育成」「活躍」という流れがありますが、その後に「自律」「卒業」というのがセットでないと成り立たないですよね。退職金制度も人生 100 年時代を迎えて変えるべきかもしれません。学びなおしというものが必要になってくると、そのために必要になるお金を退職金から賄ったりする可能性もありますね。
平康  企業に育成してもらうという観点だけじゃなくて、自分でお金をかけて自分を育てる感覚は絶対に必要だと思いますね。さっき向井さんがおっしゃったのは非常に示唆に富んでいて、退職金を次に転職する際のステップアップの費用とするなら、これはあるとずいぶん楽ですよね。
向井  途中段階で使う資金と、生涯現役とは言っても引退の時期はどこかで来るので引退後の資金の両方が必要になるんだろうなと思いますね。
平康慶浩 氏

—人生 100 年時代 雇用契約は日本型と欧米型に二極化する

平康  人生 100 年時代を迎えて転職は増えると思うんですけど、統計的には頭打ちが来ています。 (下図「はじめて就職してからの離職回数と現在の在職有無」を参照)転職をする方は 50% 前後で、それは全年齢を通じて変わっていないんです。つまり最初に入った会社を辞めて転職する人とそうでない人がはっきりわかれている。
平康  たとえば先日、旧財閥系企業の課長研修をやっていたんですけど、ほぼ全員が新卒採用でそのまま課長になった人たちだったんです。辞めた方もいるけど、中途採用された人はいない。そして多くの人は定年退職するまで会社にいる。そういう会社の人たちからすると転職なんかあり得ないんですよ。辞めたら絶対に損する会社というのはまだありますからね。
向井  人生100年時代への対応も、企業がどうありたいのかによって変えていくべきですね。

平康 

二つに一つだと思いますね。要は、従来の日本型の会社として一度入った社員を家族的に扱うメンバーシップ型の雇用を維持しながら、従業員たちと一丸になって自社のビジネスモデルを守っていく、自社の成長を目指していくっていう企業タイプ。一方で、欧米型の会社のように会社と従業員はあくまで契約関係にあるんだと、だから人生の中の 10 年、20 年だけうちで活躍してくれて、あとは別の会社に行ってくれていいよと、契約的にやっていくジョブ型の企業ですね。これらの二極にわかれていくかなと思います。

向井 

日本型の会社と欧米型の会社の割合はどれくらいでしょうか?

転職事情の現状
平康  今は日本型:欧米型とで大体 8 : 2くらいかと。全体的な割合よりもそもそも自分がいる会社がどちらなのか、ということを従業員は見極めないといけないでしょう。また、会社側の視点も想像してみて、会社は従業員とどう付き合いたいのか、ということをはっきり考えていかなきゃいけないということですね。
向井  会社として新しい方向に移っていく、転換していくとしたら、どこがきっかけになるんでしょうか?
平康  私がご支援していたケースだと、海外企業と戦うようになったときなどがそうですね。その企業の競争相手は、昔はぜんぶ日本企業だったんですが、今はもう欧米企業が中心になってしまった。そうしてライバル企業の経営陣を見た時に、自社よりもぜんぜん若いと。アパレル系の会社だったのですが、あわてて組織の在り方を変更していかれましたね。そのためにメンバーシップ型ではなく、必要な人材を必要なタイミングで雇ってくる、若くても優秀な人材であればさっさと抜擢しちゃうような仕組みにする変革を実施しました。
向井  競争関係が変わってしまい、そうせざるを得ないっていう状況ってことですよね。
平康  そうですね。過去にそういった変化があった業界というと、製薬業が代表的ではないでしょうか。90 年代に一気に規制緩和がやってきて、外資系が一気に日本に進出するようになってきた。だからたとえば武田薬品は 1990年代に人事の仕組みにジョブ型を採用しました。これからはメンバーシップ型ではない、変えるんだということで。それで武田薬品は日本でまだ一位だし、世界でも頑張れてる。だから、向井さんのおっしゃるように競争環境が変わると変わらざるを得なくなる。

—人生 100 年時代に人事とって大切なこととは?

平康  人生 100 年時代では「タレントマネジメント」がキーワードになってくると思うんですね。タレントマネジメントっていうのは、どこに優秀な人がいて、その優秀な人に何をやってもらうか配置を可視化して育成していくというもの。
向井  タレントマネジメントは大切ですね。
平康  ただ、それだけだと人生 100 年時代には優秀な人はどんどん転職する時代になっちゃうので、せっかく育てて、せっかく活躍できるようになったのに、成果と育成の結果を持って辞められちゃう。辞めた後も従業員が会社を好きでいてくれる、会社が従業員のことを好きでい続ける。お互いが好きでい続けるためにエンゲージメントが極めて重要。言い換えると、優秀な人を見つけて活躍させてうまく働かそうという発想だけだと見透かされたり、愛想を尽かされて逃げられちゃう。だから従業員に対する敬意の念も常に必要じゃないかなと思います。

※取材日時 2018年12月
※記載内容は、取材時点の情報に基づくものです。

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