シニア社員の処遇改善を退職金で行うことのメリット
掲載日:2018年4月3日
定年後に再雇用するシニア社員の処遇の改善を考えるとき、まず着目するのは賃金や賞与だと思いますが、税金や社会保険料の負担を考慮すると、退職金で報いるという方法もぜひ考えたいところです。 具体的にどの程度メリットがあるのか、試算してみました。
賃金上乗せと退職金の比較
処遇改善の原資(予算)を1人1月3万円としたとき、これをそのまま賃金に上乗せすると社会保険料も増加するため予算オーバーとなってしまいます。社会保険料の会社負担分を15%とすると、賃金に上乗せできるのは3万円÷115%=2.6万円となります(正確には標準報酬月額の増加幅によります)。
そして、社員の手取りはここから社会保険料の本人負担分と税金(所得税・住民税)を差し引いた金額となります。社会保険料を会社負担分と同じ15%、所得税・住民税の増加分を8%とすると、額面が2.6万円増えても手取りの増加は2万円程度です。
一方で退職金には社会保険料はかからないため、退職時にまとめて支給することで月に3万円を丸々退職金として積みあげることができます。税制上も退職所得控除を受けることで、全額を手取りとして受け取ることができます。
60歳からの5年間の手取りの総額で比較
60歳からの5年間の手取りの総額で比較すると、同じ月3万円のコストでも、賃金に上乗せした場合は約120万円、退職金として支給する場合は180万円となり、大きな違いが出ます。賃金に上乗せした場合は65歳以降の厚生年金が若干増えることになりますが、年額で1万円に満たない水準であり、上記の差を埋めるほどにはなりません。
賃金が増えると、条件によっては高年齢雇用継続給付や在職老齢年金が減額されることもありますが、退職金であればその心配もありません。
若手や中堅の社員には退職金を増やすといってもあまり実感がわかないと思いますが、シニア社員にとっては近い将来に受け取るものであり、身近に感じられるため、きちんと説明すればそのメリットは理解されやすいのではないかと思います。
なお、定年退職時に一旦退職金を支給する場合、退職所得控除を計算するうえでの勤続年数はそこでリセットされるため、再雇用後の退職金に対する退職所得控除は再雇用後の勤続年数に応じて計算されることとなります。したがって、退職金が勤続1年あたり40万円(5年で200万円)を超える水準になると、退職金にも税金がかかる点には注意が必要です。