就業構造基本調査をもとに算出した産業・職種・年齢別の正社員離職率

離職率に関する公的な統計調査としてよく引用されるのが、厚生労働省の雇用動向調査です。この調査は毎年行われており、就業形態別や産業別の離職率が公表されています。しかしながら、「自社の離職率は平均的な水準と比べてどうなのか」を判断する基準としては、精度が不足している面があります。
そこで今回は、総務省の就業構造基本調査をもとに離職率を算出し、両者の比較を行うことにしました。
離職率とは
一般に離職率とは、ある時点で在籍している従業員に対して、1年間に離職する人数の割合を示したものです。例えば、年度始めに100人いた従業員のうち10人が年度末までに退職した場合、離職率は10%となります。厚生労働省の雇用動向調査では、以下の算式により離職率を算出しています。
年間の離職者数/1月1日現在の常用労働者数×100(%)
離職率は人的資本に関する重要な指標の1つであり、高すぎる離職率は人材の不足や採用・育成コストの増大を招きます。一方で、離職率は業種、職種、雇用形態、年齢などによっても大きく異なるため、どの層に着目し、どの程度の離職率が適正なのかという目標設定が重要になります。
雇用動向調査と就業構造基本調査の違い
国内における平均的な離職率を把握するための統計調査としては雇用動向調査がありますが、就業構造基本調査でも就業者数及び離職者数が集計されており、これをもとに離職率を算出することもできます。これらの調査の違いは次のとおりです。
| 雇用動向調査 | 就業構造基本調査 | |
| 調査主体 | 厚生労働省 |
総務省 |
| 調査目的 | 雇用労働力の産業、規模、職業及び地域間の移動の実態を明らかにすること |
全国及び地域別の就業構造に関する基礎資料を得ること |
| 調査対象 | 事業所(全国の約1.5万事業所)、及び対象事業所から抽出された入・離職者 |
個人(全国の約54万世帯) |
| 調査頻度 | 毎年(上半期・下半期) |
5年に1回(直近は2022年) |
| 主な調査項目 | 事業所の属性及び常用労働者数、入・離職者の属性等 |
15歳以上人口の就業状態、従業上の地位・雇用形態、転職就業者数及び離職非就業者数等 |
雇用動向調査は事業所単位で毎年行われており、離職率の動向をより早くかつ経年的に把握することができます。
これに対して就業構造基本調査は個人単位で5年に1回行われるもので、必ずしも最新の動向を反映したものとはなりません。しかしながら個人の属性がより詳細に区分されているため、間接的にではありますが、より詳細な離職状況の分析が可能となっています。
雇用動向調査による離職率の結果
以下のグラフは2025年8月に公表された「令和6年雇用動向調査結果の概況」から抜粋したものです。就業形態(一般労働者とパートタイム労働者の別)、年齢、性別、産業別に集計した離職率が掲載されています。



これらの結果から、一般労働者(パート以外)に関しては、「宿泊業、飲食サービス業」「生活関連サービス業、娯楽業」などで離職率が高く、「複合サービス事業(郵便局、農業協同組合等)」「金融業・保険業」などで離職率が低いことが分かります。また、年齢別では年齢が高くなるほど離職率は低下し、概ね50代で底を打っていることが分かります。
ただ雇用動向調査からは、例えば、「建設業における20代正社員の離職率」や「営業職と技術職の離職率の違い」を把握することはできません。労働人口全体の動きを把握するのには有効ですが、自社の離職率の比較対象としては使いづらいと言えるでしょう。
就業構造基本調査をもとに算出した離職率の結果
基本的に事業所を対象としている雇用動向調査に対して、就業構造基本調査は個人を対象としており、次のように雇用形態や職種などの属性がより詳細に区分されています(産業区分については雇用動向調査と同様)。
【従業上の地位・雇用形態の区分】
総数
自営業主
雇人がいる業主
雇人がいない業主
内職者
家族従業者
雇用者
会社などの役員
会社などの役員を除く雇用者
正規の職員・従業員
非正規の職員・従業員
パート
アルバイト
労働者派遣事業所の派遣社員
契約社員
嘱託
その他
【産業区分】
総数
農業,林業
漁業
鉱業,採石業,砂利採取業
建設業
製造業
電気・ガス・熱供給・水道業
情報通信業
運輸業,郵便業
卸売業,小売業
金融業,保険業
不動産業,物品賃貸業
学術研究,専門・技術サービス業
宿泊業,飲食サービス業
生活関連サービス業,娯楽業
教育,学習支援業
医療,福祉
複合サービス事業
サービス業(他に分類されないもの)
公務(他に分類されるものを除く)
【職業区分】
総数
管理的職業従事者
専門的・技術的職業従事者
事務従事者
販売従事者
サービス職業従事者
保安職業従事者
農林漁業従事者
生産工程従事者
輸送・機械運転従事者
建設・採掘従事者
運搬・清掃・包装等従事者
就業構造基本調査では離職率の算出は行われていませんが、調査時点における区分ごとの就業者数と、過去1年の離職者数が集計されているため、ここから以下の算式により簡便的に離職率を算出することが可能です。
過去1年の離職者数/調査時点の就業者数×100(%)
実際に、直近(2022年)の調査結果をもとに、「正規の職員・従業員」の産業別の離職率を算出すると次のような結果が得られます。

これを先ほどの雇用動向調査の結果と比較すると、産業間で比較した高低の傾向は同様であるものの、離職率の水準そのものは就業構造基本調査から算出した率のほうが大幅に低くなっています。
そもそも調査時点が異なるため、結果も異なるのは当然のことではありますが、ここまでの違いが出るのは調査方法や集計区分の違いが大きく影響しているものと思われます。そして、こちらの結果のほうが、企業人事の立場からはより実感に近いのではないでしょうか。
また、就業構造基本調査からは、「正規の職員・従業員」の「産業・年齢別」や「職種・年齢別」の離職率も算出することができます。

このようなデータがあると、例えば若年層の離職率の高さに課題を感じている場合に、具体的な離職率の目標設定の参考とすることができるのではないでしょうか。
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労働人口の減少が進む日本では、従業員の定着が企業経営にとっての大きな課題であり、離職状況の把握や目標設定はその解決に向けた第一歩となります。
クミタテルでは、離職防止に役立つ情報やソリューションの提供を行っています。人材の定着に悩まれている企業様にぜひ活用いただければと思います。
著者 : 向井洋平 (むかい ようへい)

クミタテル株式会社 代表取締役社長
1978年生まれ。京都大学理学部卒業後、大手生命保険会社を経て2004 年にIICパートナーズ入社。2020年7月、クミタテル株式会社設立とともに代表取締役に就任。大企業から中小企業まで、業種を問わず退職金制度や高年齢者雇用に関する数多くのコンサルティングを手掛ける。日本アクチュアリー会正会員・年金数理人、日本証券アナリスト協会検定会員、1級DCプランナー、2級FP技能士。「人事実務」「人事マネジメント」「エルダー」「企業年金」「金融ジャーナル」「東洋経済」等で執筆。著書として『確定拠出年金の基本と金融機関の対応』(経済法令研究会)ほか。








