【徹底解説】退職金と確定拠出年金の違い-掛金から運用、税金の違い
退職金制度の見直しなどがきっかけで、近年、急速に普及している確定拠出年金。
厚生労働省の発表資料によると、企業型の確定拠出年金の加入者はここ 10 年で約 2 倍、制度を導入している事業主はここ 10 年で約 3 倍に増加しています。
※出典 : https://www.mhlw.go.jp/content/000520816.pdf
今後も採用する企業の増加が見込まれる確定拠出年金。この記事では、従来の退職金と比較しながら企業型確定拠出年金の特徴を整理します。
退職金と確定拠出年金-掛金の違い
退職金の外部積立を行う場合、企業はあらかじめ定められた給付を支払うために必要な掛金を拠出します。約束した給付に対して積立が不足した場合、企業には掛金の追加負担等が生じます。
企業型の確定拠出年金の場合も、企業が掛金を負担するという点は同様です。ただし確定拠出年金においては掛金の算出方法がはじめから固定され、なおかつ拠出限度額が月額 55,000 円 ( 年額 660,000 円 ) に定められています。また確定給付型など他の企業年金制度を導入している場合には、拠出限度額は月額 27,500 円 ( 年額 330,000 円 ) となります。
さらに、確定拠出年金では、規約で定めることにより掛金に関して「マッチング拠出」や「選択制 DC 」を導入することが可能です。
「マッチング拠出」が導入されている場合、「拠出限度額と会社が負担する掛金との差額」かつ「会社の掛金額を超えない金額」の範囲で、掛金を従業員が上乗せすることができます。
「選択制 DC 」が導入されている場合、定められた退職金などの積立相当額を給与として受け取るか、企業型 DC に拠出するか、従業員が選択することができます。 このように確定拠出年金の場合は規約の内容によっては、掛金に関して従業員側がなんらかの選択を行うことができる点が、退職金とは異なっています。
退職金と確定拠出年金-運用の違い
退職金の運用は、社内で準備する場合、社外に積み立てる場合などがありますが、いずれの場合も企業が運用責任を負う形となります。
一方、確定拠出年金の場合、従業員の自己責任において運用を行うことになり、運用に関して直接的に企業側の責任が問われることはありません。つまり従業員は自分自身でどの運用商品を選ぶのか、それぞれの商品をどのくらい購入するのか決めなければならないというわけです。
ただし、「確定拠出年金の運用は従業員の自己責任だから企業側は何もしなくてもいい」というわけではありません。確定拠出年金を導入した企業には、「適切な運用商品の選択肢を提供すること」と「従業員が適切な運用を行えるよう、投資教育を行うこと」が求められます。
退職金と確定拠出年金-給付の違い
給付においては、まず受け取り方の違いがあります。
会社から直接支給される退職金の場合、退職時に一括支給されますが、確定拠出年金の場合は、一時金として一括で受け取るか、年金として分割して受け取るか、一時金と年金を組み合わせて受け取るかを選択できます。
さらに、給付額の算定方法も異なります。
退職金の場合、退職金規程等によって定められたところにしたがって給付額が決定され、退職金として支給されることになります。他方、確定拠出年金では、拠出額と運用実績の元利合計が給付額となるため、各自の状況や運用によって給付額は異なってきます。
もうひとつ考えておきたいのが、給付のタイミングです。
退職金の場合、定年退職以外の転職などによる退職の場合でも、退職金規程等によって定められたところにしたがって給付額が決定され、退職金が支給されます。
確定拠出年金が退職金と大きく異なる点の1つは、一部の例外を除き、通常は60歳以降でなければ引き出しができない (=給付されない) という点です。
このため、60歳以前で転職などを行った場合、確定拠出年金からなんらかの支給が行われることはなく、転職先にそれまで運用してきた資産を移管することになります。なお、転職先に確定拠出年金制度がない場合には個人型確定拠出年金 ( iDeCo ) に資産を移換することができます。
退職金と確定拠出年金-税金の違い
退職金を受給した場合、退職所得として扱われ、退職所得控除の対象となります。
一方、確定拠出年金は、受け取り方によって税制上の扱いが変わるため注意が必要です。
一時金で受け取る場合には退職金と同様に退職所得となり、退職所得控除の対象となりますが、年金で受け取る場合には、受け取る年ごとにその年の雑所得となり公的年金等控除の対象となります。
現在の税制においては、退職所得が優遇されており税負担が軽い傾向にありますが、実際どれくらいの税金を支払うことになるかは、退職時に他に受け取る一時金があるかどうか、また退職後の公的年金や他の所得がどれくらいあるかなど、各自の状況によって変わってきます。
状況によっては支払わなければならない税金の額が大きく変わる場合もありますので、受給する前にしっかり計算したうえで受け取り方を選択することが必要です。
なお、確定拠出年金においては掛金が全額所得控除の対象となる他、利息・配当・運用益は非課税となります。マッチング拠出や選択制DCが導入されているケースにおいては、これらの点も考慮すると良いでしょう。
退職金と確定拠出年金の違いを正しく理解して、将来の備えを
ここまで見てきたように、退職金の場合は会社側が準備し、退職時に支給するもので、従業員側でなんらかの対応や選択が必要ということはあまりありません。
一方、確定拠出年金の場合はマッチング拠出や選択制DCのように掛金の拠出に選択肢があったり、運用を自己責任で行う必要があったり、受け取り方によって税金が変わったり…と、従業員側になんらかの対応が求められるシーンも多く、正しい理解や知識を持っておくことが重要となります。
近年、多くの企業が確定拠出年金を導入しており、退職金と併用されるケースだけでなく、退職給付制度を確定拠出年金に一本化するケースも多くなってきています。
この機会にぜひ退職金と確定拠出年金の違いを正しく理解するとともに、自社に確定拠出年金が導入されている場合には、規約の内容やご自身の資産運用状況を確認してみてはいかがでしょうか。
クミタテル編集部
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