早期退職者に支払う退職金はいくらにすべきか?
こんにちは、IICパートナーズの退職金専門家 向井洋平です。
退職金は一般に勤続年数が長くなるほど増えていきますが、会社によっては人材の新陳代謝を図ることなどを目的として早期退職優遇制度 (選択定年制と呼ばれることもある) を設け、一定の年齢で退職を申し出た社員に対して退職金を加算するケースがあります。また、経営状況が悪化した時などに臨時的に希望退職者を募り、退職金の加算を行うケースもあります。
こうした早期退職優遇制度を利用して退職する社員はどの程度いるのか、また退職金の加算はいくらくらいなのか、直近の統計データから読み解いていきます。
企業規模や業種により異なる早期退職者の割合
厚生労働省の就労条件総合調査 (2018 年) によると、勤続 25 年以上かつ 40 歳以上で退職した人の退職事由別の割合は以下のとおりとなっており、「早期優遇」は 7.5% となっています。
これを企業規模別に見ると、規模が大きいほど早期優遇の割合が高くなっていることがわかります。
また、産業別に見たときには以下のとおりとなっており、業種によっても早期優遇の割合は大きくことなることがわかります。
なお、最も割合が高くなっている「複合サービス事業」は 2015 年調査より調査対象に含まれるようになった業種であり、具体的には郵便局や農協などが該当します。
ちなみに、これらの結果を 2016 年調査で調査項目とされた定年年齢の結果と照らし合わせると、企業規模別の比較では早期優遇の割合と定年年齢を 60 歳超としている割合は相反する傾向となっており、シニアの雇用に対するスタンスの違いが見て取れます。
一方で産業別の比較では同様の傾向はみられるものの、早期優遇の割合、定年年齢を 60 歳超としている割合ともに全体より低い業種もいくつか見られます。
例えば、「電気・ガス・熱供給・水道業」は他の産業と比較して 50 歳代の賃金水準が高く、仮に早期退職優遇制度を設けていたとしてもそれを利用する人が少ないといったことが理由として考えられるかもしれません。
早期退職により加算される退職金の水準
早期退職者に対する退職金の加算額そのものは調査項目にはなっていないため、他の退職事由による平均退職給付額との違いから、加算額の水準を推計していくことにします。
勤続 25 年以上かつ 40 歳以上で退職した人 (大卒・大学院卒) の退職事由別の平均退職給付額は以下のとおりとなっています。
早期優遇の退職金は、自己都合の場合と比べると 800 万円以上、定年と比べても340万円程度多くなっています。定年前の退職であっても定年扱いとしたうえで、さらに別途上乗せがあるというイメージです。
さらに勤続年数別に早期優遇と定年の比較を行ったのが次のグラフです。
同程度の勤続年数で比較すると、25 ~ 29 年のところで約 600 万円、30 ~ 35 年のところで約 730 万円の上乗せがされていることがわかります。勤続年数が 35 年以上になると (すなわち定年にかなり近くなると) 上乗せ幅は縮小して約 360 万円となっています。早期退職による退職金の加算額は 50 歳過ぎをピークに設計されていることが多いことがうかがえます。
また、退職給付額を月収換算したもので比較すると以下のようになります。
勤続25~29年のところでの上乗せ幅は 11.3 月分、30 ~ 35 年のところでの上乗せ幅は 10.6 月分となっており、月収換算ではおよそ 1 年分が加算されていることになります。
なお、前回の退職給付に関する調査 (2013 年) と比較すると、今回 (2018 年) は早期優遇の退職者の割合や退職金の加算額の水準は半分程度にまで低下しており、雇用環境が大きく変化していることがうかがえます (2013 年調査の結果については「早期退職による退職金の上乗せは月収の何ヶ月分?」を参照) 。
早期退職優遇制度を機能させるには
早期退職優遇制度 (選択定年制) を設けていても、実際には利用する社員はほとんどいないという企業は少なくありません。これには、制度を設けた時とは社員の年齢構成や経営環境が変わり、会社として積極的に利用を推進する必要がなくなったというケースもある一方で、会社としては利用してほしいと思っていても実際にはあまり応募がないというケースもあります。
従業員側からすると、60 歳以降も希望すれば年金支給が始まる年齢までは今の会社での雇用が確保されていますから、月収の 1 年や 2 年程度の退職金の上乗せがあったとしてもそれだけで早期退職に踏み切ることはできません。
人材の新陳代謝を図って社員の年齢構成を若く保つためには、社員が自ら社外に活躍の場を見つけられるような機会を早い段階から提供し、活用を後押ししていくことがまず重要であり、早期退職優遇制度はその最後のひと押しに過ぎないと考えるべきでしょう。
著者 : 向井洋平 (むかい ようへい)
株式会社IICパートナーズ 常務取締役
日本アクチュアリー会正会員・年金数理人。京都大学理学部卒。大手生命保険会社を経て、2004 年、IICパートナーズへ入社。アクチュアリーとして退職給付会計や退職金・年金制度コンサルティング、年金資産運用コンサルティングをおこなう。2012 年、常務取締役に就任。著書として『金融機関のための改正確定拠出年金Q&A(第2版)』 (経済法令研究会/ 2018 年 10 月刊) がある。2016 年から退職金・企業年金についてのブログ『社員に信頼される退職金・企業年金のつくり方』を運営。
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