確定拠出年金の受け取り方の伝え方
企業型確定拠出年金の特徴の 1 つに、受け取り方を柔軟に選択できる点があります。いつから受け取りを開始するか、年金と一時金の受取割合をどうするか、年金の支給期間や受取回数をどうするかなど、ライフプランに合わせて細かく指定することができます。
しかし実際には全額を一時金で受け取るケースが圧倒的に多く、柔軟に選択できるという特徴は活かされていません。その理由はいくつかありますが、年金で受け取る場合の選択項目が非常に多く、それに対する十分な説明やフォローがないために、最も選びやすい一時金での受け取りを安易に選択しているケースも少なくないと考えられます。
今回は、社員がライフプランに合わせた確定拠出年金の受け取り方を選択できるようにするために何を伝えるべきかを考えていきます。
確定拠出年金の老齢給付金の受取方法
確定拠出年金の老齢給付金の受け取りについては、法令で以下のように要件が定められています。
項目 | 要件 |
受取開始時期 | 60 歳以上 70 歳未満 (注 1) |
年金・一時金の選択 | 原則として年金だが、一部または全部を一時金で受け取ることも可 |
年金受取の場合の支給期間 | 5 年以上 20 年以下 (注 2) |
年金受取の場合の各年の年金額 | 受取開始時の残高 (注 2) の 5 %以上 50 %以下 |
注 1:通算加入者等期間が 10 年未満である場合は当該期間に応じて 61 ~ 65 歳以上。また、60 歳以降も継続して加入できる規約においては加入者資格を喪失後に受け取り可能となる
注 2:終身年金の年金商品の購入に充てられた部分を除く
受取開始については、上記要件の範囲内で任意の時期を選択することができます。その他の項目についても、例えば支給期間は 5 年単位や 1 年単位で選択できるなど、ほぼすべての規約で柔軟な選択が可能となっています。また、年金で受け取る場合には、年間の受取回数や支給が終わるまでの資産の運用方法も選択することとなります。
老齢給付金の請求にあたっては、これらの選択内容を「年金計画」に記入 (もしくは Webサイトから入力) して提出することとなるため、特に年金で受け取る場合にはその内容はおのずと複雑なものとなります。
<参考>書類の書き方(2)|日本インベスター・ソリューション・アンド・テクノロジー株式会社
年金で受け取ることの意味
年金での受け取りが敬遠される理由として、選択肢が多すぎて手続きが面倒であることに加え、税金や社会保険料、受取期間中の手数料の負担を考えると、一時金で受け取った場合のほうが有利なケースが多い点があげられます。
では、年金での受け取りを選択することにはどのような意味があるのでしょうか。
引退後の生活設計を考えるにあたって、退職金や企業年金は公的年金に次ぐ大きな収入の柱となります。その中でも確定拠出年金は、以下のようにライフプランに合わせて受け取り方法を柔軟に選択することができます。
- ・一部は一時金で受け取ってローンの返済に充て、残りを年金で受け取って生活費に充てる。
- ・引退してから公的年金を受給するまでの間の生活費に充てる。
- ・公的年金の上乗せとして年 1 ~ 2 回、ボーナス感覚で受け取る。
全額を一時金で受け取ったとしても、しっかりと計画を立てて定期的に引き出すなど自分で管理することができれば問題ありませんが、「年金計画」の作成を面倒に感じてしまう人にとってそれは簡単なことではないでしょう。
受取開始時の手続きは多少面倒でも、その時点で将来の生活設計を考え、それに合わせた受け取り方を選択することで、生活費に回すべき資金を浪費してしまったり、逆に将来への不安から節約しすぎるといったことを回避できます。一時金で受けとる場合と比べて多少手取りの金額は少なくなったとしても、結果的にはより豊かな生活を送ることにつながるのではないでしょうか。
定年前の社員を対象とした継続投資教育やライフプランセミナーでは、税金や社会保険料の観点だけでなく、生活設計の観点から受け取り方を考えることの重要性についても伝えていくべきでしょう。
給与や退職金、公的年金等の収入と合わせて考える
定年後、引退後の生活設計を考える上で収支の把握は必須です。収入のうち、公的年金に関してはねんきん定期便などにより自分で確かめることができますし、確定拠出年金に関しても Web サイトにアクセスすればいつでも残高を確認することができます。
しかし、60 歳以降の賃金がどうなるのか、今の会社でいつまで働けるのか、確定拠出年金以外の退職金や企業年金はいくら支給されるのかといったことは、会社側が情報を提供する必要があります。退職金のポイント等については給与明細の中で定期的に通知している会社もあり、そうした対応が望ましいですが、社員がその内容を十分に理解していないこともありますので、改めて説明の機会を設けたほうがよいでしょう。
そして、定年前後の賃金、退職金・企業年金、公的年金等による収入推移をイメージしたうえで、確定拠出年金やそれ以外の年金の受け取り方についていくつかのパターンを例示することで、ライフプランにあった受け取り方を選択しやすくなると考えられます。また、実際に年金での受け取りを選択した 60 歳以上の社員から、どのような考え方で具体的にどんな選択をしたのかを話してもらうことも有効でしょう。
最終的に確定拠出年金の老齢給付金を年金で受け取るためには、上記のとおり面倒な「年金計画」の作成が必要となるため、ここで躓かないように、作成のポイントや記入例についても事前に説明しておくことが重要です。紙の書類への記入ではなく、Web サイトからの入力のほうが簡単だという声も聞かれますので、そうした点も事前に確認したうえで伝えておくとよいでしょう。
著者 : 向井洋平 (むかい ようへい)
株式会社IICパートナーズ 常務取締役
日本アクチュアリー会正会員・年金数理人。京都大学理学部卒。大手生命保険会社を経て、2004 年、IICパートナーズへ入社。アクチュアリーとして退職給付会計や退職金・年金制度コンサルティング、年金資産運用コンサルティングをおこなう。2012 年、常務取締役に就任。著書として『金融機関のための改正確定拠出年金Q&A(第2版)』 (経済法令研究会/ 2018 年 10 月刊) がある。2016 年から退職金・企業年金についてのブログ『社員に信頼される退職金・企業年金のつくり方』を運営。
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