【人事必見】65歳以上の雇用の現状から見た70歳就業確保に向けての検討ポイント
2020 年 3 月 31 日、改正高年齢者雇用安定法が成立し、2021 年 4 月 1 日から 70 歳までの就業確保措置が事業主の努力義務とされます。65 歳まではすでに希望者全員の雇用確保措置が義務付けられており、事業主には 65 歳以降の対応が新たに求められることとなります。
では、65 歳以上の雇用の現状はどうなっているのでしょうか。ちょうど同じ 2020 年 3 月 31 日に独立行政法人労働政策研究・研修機構 (JILPT) から高年齢者の雇用に関する調査 (企業調査) が公表されています。この調査結果をもとに、70 歳までの就業確保に向けた現状と今後の検討ポイントをまとめました。
<高年齢者の雇用に関する調査 (企業調査) >
https://www.jil.go.jp/institute/research/2020/198.html
なお、法律に定められた事業主の努力義務の内容については以下のコラムを参照ください。
<継続雇用制度はこう変わる~労働政策審議会で示された改正案>
https://kumitateru.jp/media/topic/retirement-extention/keizoku_kaisei
65 歳以降の高年齢者の雇用
JILPT の調査によると、65 歳以降も働くことを希望する従業員への対応状況は以下のとおりとなっています。
【業種別】
【従業員規模別】
業種別では、建設業、医療・福祉、運輸業、飲食業・宿泊業の 4 業種については 65 歳以降「働くことができない」は10% 未満であり、少なくとも基準を満たせば働ける企業が約9割を占めています。一方で、金融・保険業や情報通信業では「働くことができない」が半数以上を占めています。
また、従業員規模別では人数が多いほど「働くことができない」企業の割合が高い傾向にあり、 1,000 人以上の企業では 3 割弱を占めています。
今回の改正法案の提出に先立って取りまとめられた労働政策審議会の報告書では、事業主が講ずる 65 歳以降の就業確保措置について対象者の限定を可能とする (ただしその基準について労使合意が図られることが望ましい) こととしています。改正法では、就業確保措置の実施及び運用に関する指針を定めることとしており、当該指針においてその旨が規定されるものと見込まれます。
現時点で 65 歳以降は「働くことができない」企業においては、最初のステップとして何らかの基準を定めたうえで継続雇用の制度を設けることが検討課題になるでしょう。
65歳以降も働く際の基準
では、65 歳以降も働く際の基準として具体的にどのようなものがあるでしょうか。「希望者のうち基準に該当した者のみ働くことができる」と回答した企業に対して、基準の内容を複数回答で尋ねた結果は以下のとおりとなっています。
半数以上の企業で定められている基準は、健康上支障がないことや働く意思・意欲があること、労働条件や職務内容についての合意であり、それほど高いハードルを設けているわけではありません。実際、継続勤務を希望する 65 歳到達者の中で基準に該当する者の割合は、以下のとおり 80% 以上と回答している企業の割合が高くなっています。
一方で、熟練や経験による技能・技術や専門的な資格、一定の業績評価による基準も 2 ~ 4 割程度の企業で設けられており、こうした企業では基準に該当しない従業員が一定割合存在する可能性があります。
今後、対象者を限定した形で 65 歳以降の継続雇用制度を新たに設ける際には、今後定められる指針の内容も踏まえたうえで、実際にどの程度の範囲を対象とするのかを勘案しつつ基準の内容を検討していく必要があるでしょう。
雇用以外の選択肢
今回の改正法では、65 歳以降の就業確保措置として、雇用以外に業務委託契約や社会貢献活動 (ボランティア活動) への従事といった選択肢を設けています。現行の 65 歳までの雇用確保措置とはこの点が異なります。しかし以下のとおり、60 代後半層の雇用・就業のあり方に対する考え方として雇用以外の就業の選択肢を挙げる企業は少数にとどまっています。
ただ、企業によっては専門的な業務や教育・研修に関する業務など、業務委託での対応が可能な仕事があるかもしれません。また、社会貢献活動を積極的に行っている企業では、そうした活動にボランティアとして従事してもらうことも考えられます。今回の法改正は、社員が意欲をもって 70 歳まで働けるようにするために、継続雇用以外にどのような方法があるのかを考える機会となるでしょう。
65 歳以降の就業確保の中心的な受け皿としてこうした雇用以外の選択肢を位置づけることは難しいかもしれませんが、人生 100 年時代の到来に向けて、今後はより若い年齢層も含めて雇用の出口に幅広い選択肢を用意しておくことが重要ではないでしょうか。
著者 : 向井洋平 (むかい ようへい)
株式会社IICパートナーズ 常務取締役
日本アクチュアリー会正会員・年金数理人。京都大学理学部卒。大手生命保険会社を経て、2004 年、IICパートナーズへ入社。アクチュアリーとして退職給付会計や退職金・年金制度コンサルティング、年金資産運用コンサルティングをおこなう。2012 年、常務取締役に就任。著書として『金融機関のための改正確定拠出年金Q&A(第2版)』 (経済法令研究会/ 2018 年 11 月刊) がある。2016 年から退職金・企業年金についてのブログ『社員に信頼される退職金・企業年金のつくり方』を運営。
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