設⽴20周年を前に退職⾦制度を⾒直した意図とは?――ゾーホージャパン ⼤⼭⽒ × 豊⽥⽒ × 退職⾦専⾨家 向井洋平 後編
企業にとって社員の増加は、成長の証である反面、課題を生み出すことがある。設立から20年を迎えようとしているゾーホージャパンにとって、それは退職金制度であった。退職金制度にはどのような課題があったのか?そして、見直しはどのように進められたのだろうか? 退職金制度の見直しに取り組んだゾーホージャパン 取締役副社長 大山一弘 氏、豊田陽子氏と退職金専門家 向井洋平に話を聞いた。
—新制度移行の説明会を開催――社員の受け止め方は?
向井 | 御社社員に向けて、新しい退職金制度への移行について説明会を開催したのが2020年8月でした。どのような内容で話されましたか。 |
豊田 | 基本的には、今回の見直しの背景と、それまでの退職金制度の課題について、そして新制度ではどのような改善されるのかといった点について説明しました。 |
向井 | 特に気を遣われたポイントはありましたか。 |
豊田 | そうですね。やはり、積み立ててきたお金のことでしょうか。それまで中退共や特退共に積み立ててきたこと、それをどこへどのように移行するのか、また特退共の解約やDB制度(注:確定給付企業年金)への移換などに関連して同意への協力などはやはり気を遣いました。 制度が変わることによって、受け取れる退職金がどのように変わるのか、ということも気になるポイントだと考えていましたので、モデルケースを元に説明しました。 |
向井 | 本来であれば、社員を集めて説明するところですが、コロナ禍ということもあり基本的にオンラインで行ったそうですね。顔が見えないぶん、反応も分かりづらかったのではないでしょうか。 |
大山 | それに加え、説明会が延期を重ねた、ということもあり、運営側としては不安でしたね。でも、向井さんのサポートをいただきながら説明会用の資料を作り、それを見てもらいながら行うことで、想定以上にスムーズに行うことができました。 |
向井 | 新しい退職金制度では、3年以上の勤続で積み立てた資金の100%を受け取れますが、ある一定の勤続年数を超えると受け取れる退職金の額が従来の制度よりも減る可能性がある。これに関しての反発はありませんでしたか。 |
大山 | 確かに、その点についての疑義はありました。「定年になるまで働きたい人にとっては改悪になるのでは?」と。確かに、支給退職金の数字だけではそう見えてしまうかもしれませんが、長年働いてもらって会社の成長に貢献することで、給与など毎月の賃金体系に反映されること、トータルでは新制度のほうにメリットがあること、選択すれば退職金の一部を前払いとして若いときにも受け取れることなどを説明しました。 特に若いメンバーでは、ライフプランやキャリアプランについて考えたり見直したりすることも考えられますから、納得してもらえたようですね。 そもそも、退職金をどれくらいもらえるのか、ということを把握しづらかったでしょうし、期待していなかったということもあったのですが退職金制度を見直した結果、メンバーは退職金そのものへの認識を新たにする良い機会になったのかなと感じました。 |
—退職金制度を刷新することによる社員への好影響
向井 | 退職金を自分ごととして捉えてもらう良い機会になったわけですね。新しい退職金制度では原資の積立は確定給付企業年金に一本化しつつ、一部前払いも選択できるようになりました。実際、前払いを選択した人はいらっしゃいましたか。 |
豊田 | 若干いましたね。 |
大山 | まだ様子見なんじゃないかと思います。昇給・昇格のタイミングで年に1度見直せることを説明していますので、そこでまた考えてもらえるのかなと。 |
向井 | 選択肢を設けたことで、どうような効果を期待していますか? |
大山 | 少なくとも、年に1度は自分のキャリアプランやライフプランについて見つめ直しやすくなるのではないかな、と期待しています。昇給・昇格時に給与が上がるという事実だけでなく、退職金を前払いでもらえるようにするのか自分で考えなければならない。人事に相談することもあるでしょう。それぞれが成長する良い機会になるのではないでしょうか。 |
向井 | 新たな退職金制度には、将来のキャリアやライフプランについて定期的に考える機会を設けたいという意図が込められているのですね。 |
大山 | 弊社では、iDeCoに加入すれば、掛金の補助が――しかも、非喫煙者など健康に気を使っているメンバーにはさらに追加で補助するという健康支援制度を以前から設けています。しかし、入社時に説明されていても、加入を検討しないメンバーが多かった。 でも、退職金制度を刷新するにあたり説明会を開いたことで、この良い制度を浸透させ、加入者を増やすことができました。 繰り返しになりますが、退職金制度の刷新は、今後の自分を見直すきっかけになっただけでなく、老後のことも含め人生設計のしやすさも社員にもたらしたのかなと感じています。 |
向井 | iDeCoの掛金を会社が補助する仕組みは法律上の制度としては2018年から始まったところですが、その前から支援に取り組んでおられたということで、先進的だと思っていました。それに加え、透明性が高く自分のキャリアやライフプランについて見つめ直しやすい新しい退職金制度を設けられた、ということで、採用面でも効果を発揮しそうですね。 |
—定年退職ありきではない退職金制度についてのゾーホージャパンの想いとは?
向井 | 全体を通して感じたのは、退職金制度を通じて、社員それぞれが自分を見つめ、在籍中も、また退職後もより良い人生を歩んでほしいというメッセージを発信しているのかなということでしたが、実際のところいかがでしょうか。 |
大山 | 今は、新卒入社してから定年退職するまでずっと同じところで働くということより、人生の途中途中で自分のこれからを見つめ直していくらでも進路変更が可能な時代です。 となると、入社するとき、定年退職するときのことだけでなく、キャリアプランを変更したいときに、これまで一緒にやってきた仲間として何ができるか、どのようにその人のこれからを支援するか、ということを企業側が考えてあげる必要があるのではないでしょうか。 次のステップに進みたいと思うメンバーを、この新しい退職金制度なら支援できる。「辞めやすい」と言ってしまうと語弊がありますが、辞めたいときに辞められる、もしまた戻りたいと思ったら戻ってきてもらえる、そんな場所でありたいと思うのです。 |
向井 | それもひとつのイグジットマネジメントですね。これまでの日本企業は、いったん会社に入ったらずっとそこにいる“メンバーシップ型”の考え方が主流で、途中で辞めていくのを良しとしなかった。しかし、御社では辞めていく人へもエールを送る。 |
大山 | もちろん、貢献してくれたメンバーに対しては、できるだけ長くとどまってもらいたいと思います。しかし、考え方は多種多様。認めないといけません。 わたしたちにできることは、エールを送りつつ、戻りたいときに戻れるような制度や文化的な土壌を整えることではないでしょうか。出ていくにしても働き続けるにしても、さらには戻るにしても制度に柔軟性をもたせることにより、ゾーホージャパンで働くことにメリットを感じてもらえればと思うのです。 |
向井 | 今回の退職金制度にもまさにそうした想いが反映されているわけですね。本日はどうもありがとうございました。 |
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※取材日時 2020 年 10 月
※記載内容は、取材時点の情報に基づくものです。本取材は感染症対策の上で実施いたしました。
出口 (イグジット) を見据えたシニア雇用体制の確立をしましょう
労働力人口の減少と高齢化が同時進行する中、雇用の入口にあたる採用、入社後の人材育成・開発に加え、出口 (イグジット) をどうマネジメントしていくかが、多くの企業にとっての課題となりつつあります。特に、バブル入社世代が続々と 60 歳を迎える 2020 年代後半に向けて、シニアの雇用をどう継続し、戦力として活用していくのか、あるいはいかに人材の代謝を促進するのか、速やかに自社における方針を策定し、施策を実行していくことが求められます。多くの日本企業における共通課題であるイグジットマネジメントの巧拙が、今後の企業の競争力を左右するといっても過言ではありません。
シニア社員を「遊休人員化」させることなく「出口」へと導くイグジットマネジメントを進めるために、まずは現状分析をおすすめします。