役職定年制の必要性と役職任期制との比較~ChatGPTはどう答えた?
高齢者雇用制度のコンサルティングでよくある議論のテーマの1つに役職定年制があります。今回は、役職定年制の必要性や役職任期制との比較について、最近話題のChatGPTの回答も交えながら解説します。
役職定年制が設けられる理由
役職定年制は、雇用契約の終了を意味する定年制とは別に、部長や課長といった役職に対してその役職を解く年齢を設けておく仕組みです。例えば60歳の定年に対して、部長の役職定年を57歳、課長については55歳などと設定しておくことで、役職定年を迎えた管理職は役職を降りて定年まで一般社員として働き、その後は65歳まで嘱託社員として再雇用されるという流れになります。
なぜこのような仕組みを設けるかというと、役職者が定年までずっとその地位にとどまってしまうと次の世代が昇格する機会がなくなってしまい、世代交代や組織の新陳代謝が進まなかったり、若手・中堅社員の活躍の機会やモチベーションが失われてしまうからです。また、役職定年があることで期限が誰の目にも明らかになりますので、後継の育成や業務の引継ぎに対する意識付けもしやすくなります。
各種調査によると役職定年制の実施割合は3割程度で推移しており、人数規模の大きい企業ほど実施割合は高い傾向にあります。ただ役職定年制を実施していても、ルール通り厳格に運用している企業もあれば、後任が確保できないなどの理由で形骸化している企業もあって、制度の運用には幅があるというのが実態です。
そして、定年延長や継続雇用制度の見直しのタイミングで、この役職定年制が改めて議題にのぼってくることになります。例えば、シニア人材の積極活用のために定年を60歳から65歳に延長することとした一方で、管理職のまま65歳まで残ってしまうと世代交代が進まないので、新たに60歳での役職定年を設けるといったケースがあります。
この場合、定年は65歳に延びますが、管理職には60歳で役職を降りてもらい、その後は後継の育成・支援にあたったり現場の第一線に戻ったりと別の役割での貢献を期待することになります。
役職任期制との比較
これに対して、年齢で一律区切ってしまうやり方には否定的な意見もあります。そもそも定年延長や継続雇用制度の整備は、年齢にかかわらずその人が持っている知識や経験、能力を活かして、その人に合った働き方で長く活躍してもらうの本来の目的です。マネジメントの仕事についてもその人が適任であれば60歳になったからといって退く必要はありませんし、逆によりふさわしい人材がいるのならもっと早い時期にポジションを譲るべきです。
ただ現実には、何か問題を起こしていたりパフォーマンスが落ちているわけではないのに役職を解くという判断を行うことが難しかったり、管理職本人としても期限が明確でないと後継の育成に積極的に取り組む意識を持ちにくいことはあるでしょう。
その場合は、役職定年制の代わりに役職任期制を設けるという方法もあります。例えば任期を5年に設定して、少なくとも5年たったところで評価を行い、昇格か降格か、あるいは異動するのか、再任するのかを判断するという仕組みです。
この役職任期制について、役職定年制との比較の観点も入れて、最近何かと話題のChatGPTに質問してみました。最初は少し的外れな感じもありましたが、何度か質問を重ねるうちに次のような回答が得られました。
「役職任期制はあくまで業績や能力に基づいた人事なので年功序列が排除されます。一方で、従来の上下関係や年功序列に基づく考え方が残存し、運用上の問題が生じる可能性あります。この問題に対処するためには、組織全体での意識改革が必要です。」
「年功序列や上下関係に基づく考え方を払拭し、業績や能力に基づく評価と役職人事が行われるよう、組織文化を整備することが重要です。役職者や部下に対して、上下関係や年功序列を超えた意見交換や意見の尊重を促す教育・研修を行うことも必要です。」
まさにそのとおりと感じる一方で、実際にはなかなか実行できないからこそ役職定年という仕組みが存在するとも言えそうです。ただ年齢や経験年数にかかわらず、多様な人材が実力を磨いて発揮できるようにしていかなければ、これからの人口減少社会で事業を継続・発展させることは望めません。役職定年制の見直しや役職任期制の導入とともに、公平・公正性を確保するための評価プロセスを整備するなどして、制度の浸透・定着させていくことが重要となるでしょう。
著者 : 向井洋平 (むかい ようへい)
クミタテル株式会社 代表取締役社長
1978年生まれ。京都大学理学部卒業後、大手生命保険会社を経て2004 年にIICパートナーズ入社。2020年7月、クミタテル株式会社設立とともに代表取締役に就任。大企業から中小企業まで、業種を問わず退職金制度や高年齢者雇用に関する数多くのコンサルティングを手掛ける。日本アクチュアリー会正会員・年金数理人、日本証券アナリスト協会検定会員、1級DCプランナー、2級FP技能士。「人事実務」「人事マネジメント」「エルダー」「企業年金」「金融ジャーナル」「東洋経済」等で執筆。著書として『確定拠出年金の基本と金融機関の対応』(経済法令研究会)ほか。