シニア社員活用の“みらい”を見据えた人事制度を――みらいコンサルティング 富岡智之 氏 × 退職金専門家 向井洋平 前編
人生 100 年時代に向け、60 歳から 65 歳、さらには 70 歳へと定年延長することに関連した法改正が進められている。社会全体が高齢化するだけでなく、社内にも多くのシニア社員を抱えるようになる未来が待っているわけだ。シニア社員が増えてくれば、これまでの人事制度とは異なる対応が求められるだろう。企業はシニア社員とどのように向き合うべきだろうか。また、シニア社員が増えることによって生まれる課題は何か、どのように対応したら良いのか。シニアと人事制度について知見を持つみらいコンサルティング 富岡智之 氏と退職金専門家 向井洋平に話を聞いた。
—日本型の人事制度が転換点を迎えている
向井 | 御社は企業経営に関わる様々なコンサルティングサービスを提供されていますが、改めて御社の強みや特長を教えていただけますか。 |
富岡 | みらいコンサルティングには、人事労務関連だけでなく、会計士や税理士といった士業の資格を持つ法律家やコンサルタントが多数おり、M&Aや事業承継といった分野でのご相談も承れます。つまり、経営のなかで迎えるそのときどきの局面で必要なものを提供できる、というのが特長的なコンサル会社だといえます。 大切にしているのは「お客様との共創」。フレームだけ作って、「あとの運用はどうぞご自由に」というスタイルではなく、制度が運用に乗り、課題解決に至るまで伴走させていただくというポリシーでコンサルティングをしています。複雑で多面的な経営課題に対し、多様な分野の専門家がチームを組んで、ワンストップで課題解決できる「チームコンサルティング」がご好評いただけているのかな、と感じています。 |
向井 | それで、みらいコンサルティングの規模も広がってきたというところでしょうか。 |
富岡 | 社員数が 300 人ぐらいになりましたし、全国の主要都市や中国、ASEAN諸国にも拠点や協業先を広げられるようになってきているのは、そのおかげだと思っています。 |
向井 | 次に、みらいコンサルティングの中で、富岡さんがどのようなコンサルティングをされているか教えていただけますか。 |
富岡 | 上場企業から中堅中小企業まで、様々な業種の人事制度改革、退職金制度の見直し、管理職研修等を実施しています。かれこれ 15 年ほど人事制度や人事コンサルティングの分野に携わっていますが、日本型の人事制度が転換点を迎えている今が最もやりがいを感じますね。最近は人手不足の時代、働き方改革による生産性向上や高齢者雇用の問題、女性活躍や外国人雇用、人事評価システムの導入など、多種多様な課題に囲まれていらっしゃる経営者や人事部のご担当者様と一緒に熱い議論を交わしながら「未来」を共創していきたいと考えています。 |
—会社から期待されていると感じてもらうことがシニア社員活用の第一歩
向井 | 人事制度に関してはシニアの雇用が多くの企業にとっての関心事になっています。「法改正が行われたから雇用しなければ」から、「どのように 60 歳以降の社員を活用しようか」へと、シニア社員活用の観点が変化してきたような印象ですが、「こうしたい」と人事が考えていても、仕組みの変更やソフト面での施策というところで、理想と現実にギャップを抱えている企業は多いかと思います。 中堅中小企業の人事コンサルティング案件を多数抱えてる富岡さんとしてはどのように感じていますか。 |
富岡 | 「定年延長は、今すぐやらないといけないのか?」というお問い合わせを多く頂きますし、セミナーを開いたときでも同様の質問が多く出てきます。つまり、「これが義務化になったらどうすればいいのだろうか」というスタンスでいる企業がまだまだ多い、というのが正直なところですね。 ただ、そのような中でも、シニア社員に今まで以上に活躍してもらいたいという企業が徐々に増えてきている実感があります。そこで課題となるのが「モチベーション」の問題です。よく見かけるのが 60 歳定年を迎える前に、「全員一律の年齢で」役職定年がやってきて、更に定年後の再雇用に切り替わる段階で「給与が 3 割、4 割程度下がる」というケースです。ある年齢でいわゆる“報酬の崖”が訪れるんですね。そうすると、高度な専門性を持ち、経験豊富で貢献度の高いベテラン・シニア社員のモチベーションまで落ちてしまう。非常にもったいないことだと思います。 |
向井 | 報酬に加え、期待されている役割が明確ではない、ということもモチベーションダウンにつながっているようですね。 どのような貢献を期待しているのか明確であれば、適切な処遇の提示もできるようになり、シニア社員にとってはモチベーションのアップへ、企業側にとっては処遇の明確化というメリットにつながると思います。 |
富岡 | おっしゃるとおりですね。当のシニア社員からも「会社から期待されているんだろうか?」という声が聞こえてきます。実際には、「シニア社員は全ていてもいなくてもいい」と考えている会社は少なく、「経験値があり、即戦力になるシニア」には期待しているわけですから、それを明確に言葉で伝えること、そしてシニア社員も貢献度に応じて処遇する制度を整備することがシニア社員のモチベーションを向上させるだけでなく、若い社員からもフェアに映りますので、世代を越えて組織の一体感を高めるポイントだと思います。 |
向井 | 会社として、経営陣としてどのような期待をしているのかを伝え、同僚たちもどのようなことを期待しているのかを伝える。ただ、60 歳になってから「こういう役割を期待しているよ」と伝えるのでは遅いのではないか、60 歳で区切るのが正しいのか、という疑問も出てきますね。 |
富岡 | 本人も、会社も、ですね。本人は 社会人生活の折り返しとなる 40 代半ば頃から「これから 20 年、30 年、どのようにパフォーマンスを維持・向上させていこうか」考えることがとても大切になってきます。というのも、デジタル化が進み、技術が進歩してくると、あるときまで最先端のエキスパートだったとしても、そのスキルが陳腐化してしまう時期がくることが考えられるわけですから。また、会社としてもシニア社員が今まで培ってきた経験や能力を活かし、年齢に関係なく、はりあいを持って働いてもらうために、人事制度についてもう一度考え直していただきたいという思いがあります。 |
向井 | これまでの人事制度では、若手社員を育成することに力を注いできましたが、シニア社員に活躍してもらうには年齢にかかわらずスキルを開発していかなければならない。それまでの経験や身に付けた知識、能力を他の分野で活かせるようにしていくことで、60 歳になったからといって報酬の崖に直面しなくても済むのではないでしょうか。 そもそも、60 歳になったらとたんにパフォーマンスが下がるわけではないですから、60 歳で区切ることに意味はなくなっていると思います。 |
富岡 | そうですね。個人差がありますから、一律に 60 歳で下げるというのは無理がありますね。これからは年齢によって処遇していくのではなく、世代をこえて社員の意欲を引き出し、生産性を向上させる人事制度が求められているなぁと感じています。 |
—人事制度を組み立てる前に、まず現状把握
向井 | 年功的な処遇ではなくパフォーマンスに応じて、ということとなると、以前はよく“成果主義”という言葉が聞かれていましたね。 |
富岡 | 確かに、リーマンショック前後から、役割等級制度や役割給を導入する企業が増えた実感があります。ただ、そのような箱をつくっても、開けてみると結局運用面で年功主義のままというケースも多々あって、「仕事ぶりを正しく評価することができないと成果主義は難しいんだ」と感じました。 これは、他社の先行事例をそのまま自社に持ち込み、自社のビジネスモデル、実態にフィットせず、運用が追い付かないような場合に多く発生しているようです。自社の実態を正しく把握することが人事制度改革の第一歩、ということを改めて認識させられますね。 |
向井 | 評価制度は、処遇を決めるだけでなく、評価のフィードバックを通じて本人の成長を後押しするものともなる。社員が成長すれば、最終的には会社の業績につながる。評価が正しく行われていないと、時間をかけて人事評価をしてもそれが業績向上につながる実感が持てないという残念なことになってしまうんですよね。 これは、シニア社員のモチベーションとも関連のある話で、人事評価のプロセスは長期的な成長やキャリア形成に影響を及ぼします。モチベーションを維持・向上し続けられるようなシニア社員に育てられるかどうかは、人事制度の設計や運営にかかっていると思います。 |
富岡 | そうですね。「シニアよりも若手を育てることに注力すべきではないか」という声もよく聞きますが、人手不足の時代では、今後増加するシニア社員になってもモチベーション高く活躍してもらえるような社員に育てる人事制度が必要ですよね。「将来の幹部候補育成」を目的として若手を育成しながら活用する部分、「今、活躍してもらう」ことを目的としてシニアの経験や能力を活かす部分、両面をあわせ持った人事制度が今求められています。 もちろん本人の努力、学び続ける姿勢がそれにも増して必要なことは言うまでもありませんが、社員からは「専門技能を高めても、陳腐化するのが早いこれからの時代は、いつまでも学び直すのは大変だ」という声も聞こえてきそうです。 これからの時代は、必要なスキルを都度学び直すというよりも、必要なスキルを持つ人と組んで一緒に仕事をする柔軟さが必要なのかも知れませんね。 弊社は専門家が多く、つい自分の専門分野に偏りやすくなるので、1 つ自分の強みとなる専門分野を持ちながらも、他者と共創できるような柔らかさを持ちなさい、と普段から代表に言われているので、そのように思うのかも知れませんが(笑)。 |
向井 | 富岡さんがおっしゃるように、共創、共に創り出すようなネットワークを持って、専門知識・専門スキル以外の土俵でも自分の役割を見つけることが必要かもしれませんね。 さまざまな方向にアンテナを張り巡らし、学びたいものを学べるようにする。そうすることで“自律”を身につける。社外にも目を向けないとそのように育てるのは難しいかもしれません。 |
後編では「シニア社員の処遇や評価」について語ります。
※取材日時 2020 年 1 月
※記載内容は、取材時点の情報に基づくものです。
出口 (イグジット) を見据えたシニア雇用体制の確立をしましょう
労働力人口の減少と高齢化が同時進行する中、雇用の入口にあたる採用、入社後の人材育成・開発に加え、出口 (イグジット) をどうマネジメントしていくかが、多くの企業にとっての課題となりつつあります。特に、バブル入社世代が続々と 60 歳を迎える 2020 年代後半に向けて、シニアの雇用をどう継続し、戦力として活用していくのか、あるいはいかに人材の代謝を促進するのか、速やかに自社における方針を策定し、施策を実行していくことが求められます。多くの日本企業における共通課題であるイグジットマネジメントの巧拙が、今後の企業の競争力を左右するといっても過言ではありません。
シニア社員を「遊休人員化」させることなく「出口」へと導くイグジットマネジメントを進めるために、まずは現状分析をおすすめします。
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