⼤和ハウス⼯業、定年後 65 歳以上でも輝ける場を――シニア社員の活⽤への積極的な取り組みから見えてきた出口戦略とは? ⼤和ハウス⼯業 菊岡⼤輔 ⽒ × 退職⾦専⾨家 向井洋平 後編
2020 年の通常国会には、希望する高齢者が 70 歳まで働けるようにするための「高年齢者雇用安定法改正案」が提出される見込みである。これは、シニア世代になっても仕事をしたいと考える人にとって朗報であるし、人手不足という課題を解決したい企業にとってもプラスになることと考えられる。そこから一歩を進め定年後も働き続けられるアクティブ・エイジング制度を導入した大和ハウス工業 菊岡大輔 氏とイグジットマネジメントに精通する退職金専門家 向井洋平に、アクティブ・エイジング制度の出口戦略としての有効性について話を聞いた。
—「アクティブ・エイジング制度」とイグジットマネジメント
向井 | 65 歳定年制をはじめとして、シニア社員が生き生きとモチベーション高く働ける施策を打ってきた大和ハウス工業ですが、なかでも 2015 年に導入した施策は画期的でした。 |
菊岡 | 「アクティブ・エイジング制度」ですね。 |
向井 | どのような内容なのかご紹介いただけますか。 |
菊岡 | 一言で言えば、65 歳定年後にも年齢の上限なく働き続けられますよ、という制度です。ただし、1 年ごとに契約する嘱託再雇用という形ですが。 |
向井 | 年齢の上限がない、というところが画期的ですよね。導入にはどのような背景があったのでしょうか。 |
菊岡 | 65 歳定年制が定着したのはいいんですが、シニア社員に 65 歳で卒業されるのは「惜しい!」という声が社内で出てきました。そのような「惜しい」人材に対して取れる対応がないのかな、と考えたことがひとつ。 また、2015 年は大和ハウス工業の 60 周年という節目となる年でもありました。そこで、経営管理のトップからも「目玉になるような人事上の方針や制度を打ち出せないか」ということで、65 歳の定年を迎えたあとでも、希望すれば働き続けられるアクティブ・エイジング制度を導入したのです。 |
向井 | 導入してみていかがでしたか。 |
菊岡 | 母数が少ないので統計を取るのは難しいのですが、初年度で 39%、今では半数以上がアクティブ・エイジングに移行するという意志を示しています。年次契約を 5 回更新した第一期生、つまり 2019 年度中に 70 歳を迎える人もいます。 |
向井 | 希望すれば、全員がアクティブ・エイジングを適用されるのでしょうか。 |
菊岡 | もちろん、会社側からいくつかの条件を出させてもらっています。利用しようという人は自分の健康にある程度自身のある人。本人が熱望しているのにお断りした、という例は今のところ出ていません。 引き続き働いてくれているシニア社員の中には、「若い人が離してくれなくて」と冗談交じりに言う人もいますが、必要とされているのは事実ですし、それがモチベーションに繋がっているんだろうなと想像しています。 |
向井 | シニア社員が活躍できる環境がこれだけ整っていると、他社からも「大和ハウスで働きたい」という人が出てきそうですね。 |
菊岡 | 実は最近、高度な技術を持った中高年がキャリア採用に応募してくるようになりました。弊社の取り組みが社外にも浸透し、60 歳以降を見据えて活躍の場を求めてきてくれているのだと思います。 |
向井 | 個人にとっても 60 歳以降の「キャリアの出口」をどうするかは非常に大事になってきますからね。そうした視点での転職やキャリアの選択は今後広がっていくのではないでしょうか。 ところで、アクティブ・エイジング制度では、それまでの「社員」だった頃と働き方が違うとお聞きしています。 |
菊岡 | そうですね。それまでは週 5 日勤務してもらっていたものが、週 4 日になります。65 歳から企業年金や国からの年金も出ている、ということで、給与も月額 20 万円の固定。ただし賞与は社員の 2 分の 1 程度の支給率ではありますが、業績や個人の評価により変動する、という形を取っています。 |
向井 | これは、言い換えてみれば週休 3 日。もちろん、体のことに配慮した結果、そのような勤務日数になったかと思いますが、家庭や地域とのつながりも持てるような配分になっていますよね。 |
菊岡 | そうなんです。仕事にやりがいを感じていただけるのはありがたいのですが、いつかは会社を卒業するでしょう。そのときに、仕事以外何も残っていない、虚無感を味わわないよう、生き方のウエイトを若干家庭や地域に置いてもらえれば、というメッセージを込めたものとなっています。週休 3 日になったことで、無理なく仕事を続けられるという声も聞かれます。 |
向井 | 会社としては働いてもらえてありがたいし、いざ“卒業”となったときのソフトランディングにもなる。“困った”シニア社員を生み出さないようにしていることといい、イグジットマネジメントの設計がしっかりなされているという印象を受けました。 |
—年功序列ではないが、先輩への礼は尽くす土壌がある
向井 | 年齢に関係なく貴重な人材に残ってもらえるよう、受け皿を用意し、尊厳とモチベーションを保ちつつ働いてもらえるよう、環境を整えてきたということがよく分かるお話でしたが、実際問題として、年齢が自分より上の人を部下にする、という点で違和感を抱えている人はいないのでしょうか。それともすでに何かしらの研修を行っていらっしゃるのですか? |
菊岡 | 実を言うと、大和ハウス工業では、もともと年功序列の色が非常に薄い評価体制を取っています。シビア、ということですね。 そのこともあり、シニアまでいかないまでも、年上の部下を扱うことに慣れたマネージャーのほうが多数だというのが大和ハウス工業の特徴でもあるんです。 |
向井 | 定年延長を導入したとか、再雇用した、ということに関係なく、年上の部下がいるのが日常だった、ということなんですね。 |
菊岡 | とはいえ、年齢を重ねたことによる経験値というのはあります。昇進しなくても、勤続年数が長ければ、それだけ知識は増えるし、物の見方は広くなる。そのため、部下であっても先輩である人を立てることができるよう、目に見えるもの――弊社では「永年勤続表彰」を行なっており、勤続 20 年で銀、勤続 30 年で金、勤続 40 年でプラチナのバッジを進呈しており、そのバッジの色で「この人は先輩だ」と把握してもらえるようになっています。 部下だけど先輩。長年会社に貢献してくれた人を尊重することで、賃金と関係のある評価や処遇の面ではシビアでも、勤続年数の長い社員の名誉の部分は守られる。企業文化として、処遇と名誉をハイブリッド的に両立させているおかげで、65歳定年制もアクティブ・エイジング制度もうまくいったのではないかな、と考えています。 |
—シニア社員活用への鍵
向井 | シニア社員という貴重な人材にどのように活躍してもらうか、どう活用するか、ということについてお話をうかがってきましたが、他社でも取り入れられる「シニア社員活用の鍵」についてどのように考えていますか。 |
菊岡 | 「65 歳定年制が義務化された。どうしよう」と後ろ向きに考えるのではなく、「シニア社員が活躍してもらう場を作ろう」「シニア社員を戦力としてどのように活かそうか」と、前向きに考えることが鍵となってくると思います。 そのために、人事部にできることは、自社の事業戦略を理解した上でシニア社員活躍の可能性を提案して、受け皿となる部門を発掘・開拓していくこと。また、そのような部門に粘り強く折衝していくこと。 もちろん、折衝といっても、「ねじ込む」イメージではありません (笑)。どんなプラス効果があるかを説得するよう働きかける、という意味です。 シニア社員がどれほど貴重な存在なのか、ということを理解した上での能動的な動きが、これからの人事部門には求められるのではないか、と考えています。 |
向井 | いずれにせよ、60 歳以降の雇用が義務付けられているわけですから、その人たちにどう輝いてもらえるか、どう貢献してもらえるかというところを前向きに考えないといけない、ということですね。 |
菊岡 | 「大和ハウスは成長しているから、多くの事業を抱えているからそんなことができるのだ」というようなことを言われることもありますが、そういうことではないと私は考えています。大和ハウス工業のやり方がそのまま他の会社にも当てはまるとは思いません。大事なのは自社の状況に合った戦略をしっかり立てて行動に移していくことではないでしょうか。 |
向井 | 自社やグループ会社の中だけでは活躍の機会が限られてしまうのであれば、外に目を向けて活躍できるようにしていくのも1つの考えですよね。 現役時代から処遇の面では年功色を極力排除しているから、シニアになった途端に社内外で活躍の場を失うということがない。その一方で、社内で経験を重ねてきたことへの名誉は守られる。そういった環境が整っていたからこそ、大和ハウス工業ではシニア社員の活躍を推進する施策を効果的に打ち出すことができたのだと感じました。 本日はありがとうございました。 |
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※取材日時 2019 年 11 月
※記載内容は、取材時点の情報に基づくものです。
出口 (イグジット) を見据えたシニア雇用体制の確立をしましょう
労働力人口の減少と高齢化が同時進行する中、雇用の入口にあたる採用、入社後の人材育成・開発に加え、出口 (イグジット) をどうマネジメントしていくかが、多くの企業にとっての課題となりつつあります。特に、バブル入社世代が続々と 60 歳を迎える 2020 年代後半に向けて、シニアの雇用をどう継続し、戦力として活用していくのか、あるいはいかに人材の代謝を促進するのか、速やかに自社における方針を策定し、施策を実行していくことが求められます。多くの日本企業における共通課題であるイグジットマネジメントの巧拙が、今後の企業の競争力を左右するといっても過言ではありません。
シニア社員を「遊休人員化」させることなく「出口」へと導くイグジットマネジメントを進めるために、まずは現状分析をおすすめします。
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