確定拠出年金(DC)運用商品選択への支援
掲載日:2017年9月25日
DC制度では、老後の所得確保に資するべく加入者自ら運用商品を選択して運用を行っていく必要があります。しかし、今まで資産運用や投資になじみのない加入者にとっては、どのような運用商品を選んで良いかわからない、よくわからないから運用商品を自ら選ばず放置してしまい、老後の所得確保という目的を果たせなくなる可能性も生じかねません。
上記のような状況を作らないためには、加入者本人の自主的な努力により運用に関する知識向上を図る事が第一に重要ですが、運用商品をより選択しやすくしたり、運用商品を選択しない加入者をフォローするような仕組みづくりも重要です。
社会保障審議会企業年金部会の下に設置された「確定拠出年金の運用に関する専門委員会」では、2017年2月14日より8回にわたって上記の仕組みづくりについて議論が交わされ企業年金部会への報告書がまとめられました。本報告書の内容は、今後、政省令や法令解釈通知等に落とし込まれていくことになります。
加入者による運用商品選択への支援
(1)運用商品提供数の上限
今回の一連の議論により企業型DC、iDeCoともに法令上、運用商品提供数は35本が上限とされました。
選択できる商品数があまりにも多いと、加入者は何を選択すべきか迷って面倒に感じてしまい、商品選択を放棄してしまう可能性が考えられます。現状では、提供する商品数に上限がなく、実質何本でも提供できる状態ですが、今後は、法令上一定の上限を設けるべきとされ、議論の結果、企業型DC、iDeCoともに35本と結論付けられました。
(2)運用商品の数え方
運用商品の数え方に関しては、現行通り、運用の指図を行う対象ごとに提供数を数える事が基本となりますが、ターゲット・イヤー型の商品に限っては、ターゲット・イヤーだけが異なる商品(シリーズ)をまとめて1本とする事が適当とされました。
(3)運用商品選定の際の留意事項
(1)の上限は法令上の話であり、今まで商品提供数が35本未満だからといって上限まで増やせばよいというものでは決してありません。35本という枠の中で、あくまで加入者が真に必要なものに限って運用商品が提供される必要があります。
そのためには、運営管理機関だけでなく労使も主体的に商品ラインナップの選定に関わり、また定期的に提供商品を見直して行く事が求められます。また、運営管理機関は、加入者に対する忠実義務に則り、高齢期の所得確保の視点から商品全体のバランスが取れていることに留意し、また、個々の運用商品の質(手数料含む。)を十分吟味して、その選定理由を説明する事が求められます。
上記の他に、運営管理機関が運用商品を加入者に提示するに当たって工夫すべき点や、運用商品を除外するに当たり留意すべき点等が報告書にまとめられました。
運用商品を選択しない者への支援
(1)指定運用方法について
DC制度では、加入者自ら運用商品を選択して運用を行っていく事が基本ですが、商品の選択をしない加入者は常に一定数存在します。
このような加入者に対して、現行ではデフォルト商品を設定する事が可能ですが、法改正後は、特定期間や猶予期間といった一定の手続き期間を経て商品選択を促しつつ、それでも選択をしない場合は例外的に、選択したとみなす効果を有する「指定運用方法」を設定できる旨が法的に位置づけられました。
(2)指定運用方法の基準
指定運用方法で選択される商品は、自ら商品を選択しない加入者でも、高齢期の所得確保というDC制度の目的を果たせるよう、一定の基準に適合している必要があります。その基準について議論が交わされ、以下の点が報告書に盛り込まれました。
・ 長期的な観点から、物価、為替相場、金利その他経済事情の変動(価格変動、信用の変化等)により生ずる損失(名目・実質)の可能性(リスク)に関し、加入者集団にとって必要な考慮がなされているものであること。
・ 指定運用方法により見込まれる収益(名目・実質)が上記で規定する損失の可能性(リスク)との関係で合理的であることを説明できるものであって、加入者集団にとって必要な収益の確保が見込まれるものであること。
・ 指定運用方法に係る手数料、信託報酬その他これらに類する費用(販売手数料、信託財産留保額、保険商品の解約控除等)が、見込まれる収益に照らし、過大でないこと。
(3)指定運用方法の設定プロセスについて
上記の基準に則った指定運用方法を選定・提示するに当たり、加入者集団のリスク許容度や期待収益等を考慮・検討しながら、指定運用方法にふさわしい商品を決定することが適当と考えられ、その際の着眼点(イメージ)として、以下の点が報告書に盛り込まれました。
主に加入者集団に係るもの
加入者属性、金融商品への理解度、加入者ニーズ、想定利回りや掛金額等退職給付における位置づけ 等
主に商品に係るもの(リスク・リターン特性)
期待収益率、価格の変動の大きさ、累積投資額を上回る可能(確実)性、実質価値(購買力)の維持可能性、分散投資効果 等
商品ラインナップの選定と同様に、指定運用方法についても運営管理機関だけでなく労使も主体的に関わり設定していくことが求められます。
上記の他に、運営管理機関が加入者に対して、どのような考えで当該指定運用方法を選定したのか(選定理由)を十分説明すべき点や、指定運用方法による運用の責任は加入者に帰属する旨等について加入者へ情報提供すべき点等が報告書にまとめられました。