【セミナーレポート】中小企業にこそ必要な退職金制度の見直しと、企業年金という選択肢――しっかり貯まる企業年金 木口愛友⽒ × 退職⾦専⾨家 向井洋平 後編
近年、退職金制度を見直したい、或いは新しく退職金を導入したいといったお問合せが多く寄せられます。
退職金を導入している中小企業では、「退職金の支払いに充てるための資金準備不足」、「人事制度とのミスマッチ」、そして「退職金が社員のモチベーションに寄与していない」といった課題を抱えています。
特に退職金を導入してから退職者があまり出ていなかったり、税務会計が中心となったりしている中小企業では、退職金を支払うための資金準備が進んでおらず、社員が定年退職を迎える時期になってようやく事の重大さに気付くというケースも少なくありません。
そこで今回のセミナーでは、これまでのコンサルティング実績から中小企業が抱える退職金についての課題や対応事例を解説し、中小企業だからこそ必要となる退職金制度の見直し向けて幅広く情報提供を行うこととしました。近年、中小企業の退職金としては確定拠出年金(DC)が注目されますが、本セミナーではしっかり貯まる企業年金®の木口氏をゲストに招き、総合型確定給付企業年金(DB)という新たな選択肢を紹介しました。前編はこちらから
Q5.掛金を止めたり基金を脱退することはできますか?
木口 | 今回この制度を作るにあたって、掛金を完全停止するのは可能かどうか厚生労働省に相談しましたが、それは脱退とみなされるのでダメ、とのことでした。どうしても経営が苦しく、今の掛金水準で払えないってことであれば、早めに言っていただくことで1口まで全員落とす、っていうことまでは一応可能にはしております。 従業員の雇用を守る方が優先なので、本当にダメでしたら脱退して、余裕ができたらまた加入してください、というのが筋なのかなと思います。 しかし、私どもの制度設計は各社のニーズに合わせて相談しながら決めていることもあるため、途中で脱退するケースはそうそうないです。 ただ、経営が苦しくなったケースのほか、資本関係が変わって親会社さんが大きい企業になりそちらの企業年金に移す、など前向きな脱退はちらほらあります。 加入検討の際に、脱退できない、あるいは脱退手続きが大変ということであると加入が及び腰になるため、うちは脱退がほぼフリーパスとなっています。 その他は、加入者範囲を自由に決められます。勤続3年あるいは5年以上とか、正社員だけとか、〇〇工場の人だけとか、事務職の人だけとか、掛金も役職別や年齢別など、いろんなパターンを認めております。 |
木口 | あとは、従業員の掛金と役員の掛金の最大の方との格差は15倍までに抑えるように運営をしております。一応確定給付企業年金法では掛金に上限はないんですけれども、格差については過去に厚生労働省のガイドラインにも15倍以内という数字が出てましたので、それを踏襲しています。また、役員が自分だけ入れてくれというのはお断りしております。 |
向井 | 中小企業退職金共済(中退共)や特定退職金共済(特退共)をやめたいというケースはときどきあるんですが、単純に解約すると退職してないけど解約金を従業員に支払うことになって、でもそれは退職金じゃないから一時所得になってしまう、という税金の問題になってしまうこともあります。DBの場合だといろんな持って行き先があるので、この辺も違いとしてあるかなと考えています。 |
木口 | おっしゃる通りですね。企業年金連合会に持っていく、iDeCoに持っていく、確かにそういうケースも多いですね。 |
Q6.手数料はどれくらいかかりますか?
木口 | 先ほど事務手数料は無料とお伝えしましたが、掛金が少額の場合は手数料をいただきます。ほとんどの事業所さんに平均月掛金5,000円というのをお願いしておりまして、5,000円を超える場合は事務手数料は無料、5,000円を下回る場合は別途事務手数料をいただいております。 |
向井 | 5,000円なので中退共の掛金下限ということですね。 |
Q7.既存の企業年金や退職金から移行することはできますか?
向井 | 既に企業年金を実施していたり退職一時金制度がある場合にこちらの基金に移行することはできるでしょうか。 |
木口 | 企業年金自体の吸収合併あるいは権利義務移転っていう形を、細かいところも含めると既に3回行っており、さらにもう1件、自社グループでやってらっしゃる規約型の企業年金の権利義務移転を今まさに相談しながら進めていまして、既存の企業年金の移行はについては基本的に可能です。 退職金から移行というのは、過去分を追加掛金という形で徐々に移し替えることしかできないので、社内で積み立てた分をまるごと移すのはできないですね。退職金を外部に積み立てたものからの移換という形がとれれば、一応それはできることになります。DCから移すのは可能で、iDeCoからも今度可能になるという感じです。 あと、退職金全体をアウトソースするという形をとる会社も最近増えてきております。 これは何かと申しますと、私どもから支払う分が退職金ですよ、という規定にしてもらうと、会社側も掛金を払えば支給義務がなくなりますので、会社側で毎年の決算の退職給付の引当金計算が不要になります。要は「掛金払ったらおしまいです」ということです。これは私どものような総合型企業年金の一つのメリットではないかなというふうに思っております。退職金を私どもが担うという形をとることで、事業主さんは事務が楽になります。利息も有利です。 それから税金関係ですね。退職した時に、退職所得が高い方は源泉徴収しますが、事業主さんがこの人やめましたよと連絡をうちに出せば、その分の納付も全部うちでやります。退職金関係のところが煩わしいなって思ってる企業さんですと、こういう退職金のアウトソースに踏み切るケースも最近増えてきております。 |
向井 | 企業年金が中小企業になかなか普及しない一つの理由として、事務手続きが挙げられることもあるようなんですけれども、退職金そのものを全部企業年金でまかなってしまえば運営の事務負担っていうのはむしろ簡単になってメリットもでてくると言えそうですね。 |
木口 | 中退共さんと基本的にはそこは同じなんですけれども、決定的な違いは年金を選べるという点、あとは1.2%の利息の部分かなと思います。 |
向井 | 外部積立を入れるタイミングで退職金の設計そのものを検討して見直すのも一つの選択肢になるということですね。 |
Q8.基金への加入をおすすめできないのはどんな場合ですか?
木口 | 私どもからお断りするのは、反社会的であったり、過去に厚生年金保険料の滞納をしていたり、そういう財務的な問題があるケースです。 私どもの場合は、事務費掛金を事業主さんからいただいていない反面、すぐに辞める方、例えば入社して1年とかそういう方については貯まっているポイント×1,000円ではなくて、1ポイント700円だったり800円だったりと少しカットします。事務費を会社さんからもらっていないのですが、すぐやめる方が一番事務費がかかるのでそのご本人のカットをいれることで、事務費を補っているという要素があります。結果的に、会社に勤めている方の入れ替わりが激しい場合は、事業主さんが払っているわけじゃないけど、実質的に事務費を取られているという状態になると思います。 ただ多くの企業年金制度では、入社して3年たたないと1円も出ないとか、全没収になってるケースも多いので、取り立てて私どもが非常に厳しいカットをしているって感じはしないんですが、従業員の定着率が低い会社さんは、うちに入るとそういうデメリットがあるというのはご理解いただきたいです。 |
Q9.企業型DCやiDeCoと併用することはできますか?
向井 | この質問に関しては制度改正が絡んでいるので簡単に説明いたします。 DC(確定拠出年金)は会社員であれば全体の枠が月額5万5,000円となっていますが、DB(確定給付企業年金)に入ってる人はそちらで積み立てできてるでしょ、ってことでDCの全体枠が一律半分の2万7,500円になってしまいます。企業型のDCに入っている場合はこの枠の中で積立してくださいね、枠がまだ余っていれば個人型でも加入できますよ、そういう考えになってるということです。 ただこれが2024年の12月以降は少し考え方が変わりまして、入っているDBによってDCに積み立てられる金額が変わります。世の中にあるDBの実際の水準を見てみると、金額が小さい事業所も多く、一律半分しか積み立てられないとなると公平性に欠けるんじゃないかという指摘があり、例えばDBの水準が2万円と少なめのところであればDCの拠出できる枠は多めにして3万5,000円に、DBが手厚くて4万円の水準にあればDCの枠は1万5,000円になります。 注意点としてはDBの掛金相当額は制度単位で同じで、同じDBに加入してる人は一律同じ金額ということになります。基金の中でグループ分けされてる場合はグループ単位で計算するというルールもありますけど、基本的には制度単位で決まり、一方でDCの掛金は個人単位で適用される。このような制度改正があります。 |
木口 | 基本的に(DCとDB)合わせて半分半分くらいの掛金でお話し差し上げることが多く、理由は、しっかり貯まる企業年金の利回りが1.2%で、定期預金や国内債券よりも利息が高いからです。そのように考えると、DCは比較的リスクを中心に、安全めな方は私どもということで、全体としてDCの中で定期預金とかをされるよりは、利回りとしても向上するので、この組み合わせでどうですかね?と話をすることが多いですね。 |
向井 | 実際に企業型DCと併用されているケースも多いということですね。 ちなみに先ほどの話で、2024年12月以降にDCの拠出限度額が変わるわけですが、全国ビジネス企業年金基金の場合、どのくらい掛けられそうかある程度目処はついているのでしょうか。 |
木口 | 皆様方を平均すると、加入していている事業所さんは中小企業さんが多いので掛金が低いんです。今のところで見てもせいぜい7,000円くらいですから、安全めに見て1万円だと十分かな、DC枠ですと45,000円くらいは大丈夫なくらいの感じにはなりますね。 |
向井 | 会社単位では高く設定したとしても基金全体で見るとそれほど高くないので、DCの枠は結構使えるということですね。 |
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※記載内容は、ウェビナー開催時点(2022 年 7 月)の情報に基づくものです。
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