【セミナーレポート】中小企業にこそ必要な退職金制度の見直しと、企業年金という選択肢――しっかり貯まる企業年金 木口愛友⽒ × 退職⾦専⾨家 向井洋平 前編
近年、退職金制度を見直したい、或いは新しく退職金を導入したいといったお問合せが多く寄せられます。
退職金を導入している中小企業では、「退職金の支払いに充てるための資金準備不足」、「人事制度とのミスマッチ」、そして「退職金が社員のモチベーションに寄与していない」といった課題を抱えています。
特に退職金を導入してから退職者があまり出ていなかったり、税務会計が中心となったりしている中小企業では、退職金を支払うための資金準備が進んでおらず、社員が定年退職を迎える時期になってようやく事の重大さに気付くというケースも少なくありません。
そこで今回のセミナーでは、これまでのコンサルティング実績から中小企業が抱える退職金についての課題や対応事例を解説し、中小企業だからこそ必要となる退職金制度の見直し向けて幅広く情報提供を行うこととしました。近年、中小企業の退職金としては確定拠出年金(DC)が注目されますが、本セミナーではしっかり貯まる企業年金®の木口氏をゲストに招き、総合型確定給付企業年金(DB)という新たな選択肢を紹介しました。後編はこちらから
Q1.「しっかり貯まる企業年金」とはどんな企業年金ですか?
向井 | 全国ビジネス企業年金基金は「しっかり貯まる企業年金」という愛称でDB基金を運営されていますが、その概要について教えていただけますか。 |
木口 | 企業年金とは、厚生年金の上に入る3階建ての3階部分というのが企業年金です。最近は確定拠出年金(DC)という自分で運用して増やす年金制度が発達してきていますが、日本全体で見ると利回りが保証されている確定給付のニーズのほうがまだまだ高いのが実態です。ただ、残念ながらこういった保証利回りがある企業年金を実施している事業者のほとんどが大企業なんです。 そして中小企業の方々が入ることができる企業年金はそもそも数が少なく、入れたとしても特定の地域や業界しか加入を認められないことが多いため、様々なタイプの業種や地域、人数といったものまで含めて幅広に加入できる企業年金はまだまだ数は多くありません。私どもはそのうちの一つの企業年金ということで拡大を図りたいと思っております。 |
木口 | 私どもはしっかり貯まる企業年金®という覚えてもらいやすいキャッチフレーズを商標登録して活動をしていますが、元々は機械金属系の厚生年金基金が岡山、尼崎、京都の各地にございました。 それから西日本地区の企業年金で集まって広域化を図ること、そして法律で厚生年金基金自体が実質廃止の方向になることが打ち出されたこともあり、今の事業所、あるいは加入者や受給者の権利を守りながら発展的に進んでいく道を探し、厚生年金基金ではない新しい法律に基づいた形の運営をすることで、健全性を保ちつつ加入事業所も増やし安定性を高める方向性を模索してきました。 そして今から3年前ぐらいに、当初の京都、尼崎、岡山の基金が広域化に踏み出し、西日本機械金属企業年金基金が完成しました。 さらにその後も次の拡大を模索し、農業系の企業年金さんが財政を安定させるために加入人数の拡大を図っていたため、今年の3月末に吸収合併し、業界を絞らない企業年金という意味合いを込めて正式名称も「全国ビジネス企業年金」へ切り替えました。 私どもは様々な企業が加入していることもあり、組織の運営方針を非常に大切にしております。 業務指針の中で一番重視しているのが「財政の健全性」です。やはり財政が健全じゃないと安心して加入はできない、掛金は払えない、預けられないですから。財政の健全性を確保した上で事業者数の拡大に取り組む。プラスして、経費の効率についても注意しながら経費投入をする、そういう運営を心がけております。 |
向井 | ちなみに木口さんはいつどのような経緯で基金の運営に関わるようになったのでしょうか? |
木口 | 私は元々企業年金の、特に資産運用面のコンサルタントをしていた関係で、岡山県の機械金属の年金基金と20年以上前から付き合いがありました。その経緯で私自身もコンサルタントから独立することや、ちょうどその時リーマンショックが重なり岡山県の機械金属単独で基金を運営するのが難しいこと、私自身が岡山出身で理事の方々も存じ上げていることなどが重なり、2009年1月に運用執行理事に就任し、資産運用の立て直し、その後広域化を目指すにあたって、制度関係も担当するようになりました。 |
Q2.基金にはどのような企業が加入していますか?
木口 | 機械金属系だと西日本地区の製造業のほか千葉、埼玉の事業所さんが、農業系では北は北海道から南は九州まで事業所さんが加入しております。中には建設業や工務店、コンサルティング業、そしてホテル業などの企業さんも加入しています。上場企業ですと尼崎や岡山の企業さんが入ってくれております。 従業員数が30〜60人の事業者さんが多く加入しており、現在は400社ほどに膨らんでおります。加入者、年金受給者を合わせると2万4,000人くらいの規模で、我々のような総合型の年金基金としては比較的大規模になってきたと思っております。 |
向井 | 業種も問わず色んな地域から加入いただいてるということで、今のところ30〜60人がメインというお話しがありましたけれども、特に企業規模に関しては制限が無いという理解でよろしいですか。 |
木口 | そうですね、そういった意味だと適用事業所で、一人の事業所さんも複数あります。人数は◯人だからダメ、っていうのはうちはございません。 |
向井 | 逆に中小企業退職金共済(中退共)のように従業員数が300人超えてるから入れませんよといったことも無いと。 |
木口 | そうですね、今大きい事業所さんで1000人くらいです。 |
Q3.基金の財政状況はどうなっていますか?
向井 | 財政の健全性を一番重視してるというお話しがありましたが、現状はどうなっていますでしょうか。 |
木口 | まず私どもは、企業年金の世界では一般的な「積立比率」という言葉を事業主さんへ伝わりやすくするために「自己資本比率」という言葉に直して、説明しております。 私どもは直近の3月末で自己資本比率が37.3%で、一般的な金融機関ですと大体8〜10%、中小企業退職金共済(中退共)さんの積立水準を自己資本比率で表すとちょうど10%くらいであるため、どのくらい余裕があるのか分かりやすくご理解いただけると思います。 私どもは幸いにして今までの貯蓄もあり、154%(1.54)というかなりの積立比率となっていますが、1.5を超えると積立上限規制を計算しなければなりません。 自己資本が高いに越したことはないですが、私どもは株主がいるわけではないためたまっている自己資本の退避先を考えなければいけません。このようなことを考慮し、自己資本比率を30〜40%に保つように運営しております。 そのため積立がたまってきた分を、来年の4月からは第一弾の利益還元を実施しようということになっています。 今一口1,000円で何口で加入するかは各事業所さんが決めるのですが、例えば少し金額を落とし980円払うと1,000円お渡しする、という形にすることで自己資本比率を落とそうと思っております。一方で下がりすぎると利益還元策を止めなきゃいけない、本来の1,000円に戻さなきゃいけないという問題もありますが、あまりため込みすぎないように、かといってみんなが不安にならないように、30%前後の自己資本比率を保っていく運営をしております。 |
向井 | ここまで積み上げられてきた理由は何かあるんでしょうか? |
木口 | あえて積み上げようと思ってきたわけではありませんが、資産運用をしていく中で皆様にお出しする利息よりも資産運用の実績が良いんです。 私ども設立51年目ですが、51年間の平均利回りを計算すると、年率で4.68%となっており、利息が2%や3%だったら余るのが当然、ということです。そういう部分が積み重なって今に至っております。 |
Q4.掛金や退職金の水準は企業ごとに決められますか?
向井 | 次に、制度設計の話になりますが、掛金や退職金の水準は企業ごとに決められますか? |
木口 | やはり中小企業のみなさんですと、掛金の水準や従業員構成もずいぶん違いますし、それから中小企業の場合は経営者の方が自ら入ろうと思わないとなかなか話が進まないという問題もあります。 企業年金制度には、役員の方も掛金の積み立てができてしかもそれが全額損金になるという、中小企業退職金共済(中退共)さんにはないメリットがあります。 私どもはポイント積立を採用していて、1ポイント1,000円でポイントを一人一人の仮想口座で積み立てていくという制度設計にしました。ポイントと利息が貯まっていって、そのご本人が今辞めたら何ポイントになるのか、それに1,000円掛けたものをもらえるという基本構造にしました。 分かりやすくいうと、企業年金ではありますが個人年金のようなイメージです。個人年金を積み立てて、ただ掛金を会社が払ってくれているという構造です。 勤続年数や役職ごとに掛ける口数を決めることができるため、経営者の方も感覚がつかみやすくわかりやすい、加入しやすいというのを重視しております。 一方で私どもの場合、年金受取のほうは1本だけにしています。5年、10年など選ぶのではなく、65〜85歳までの20年間の年金として、それを一時金として受け取るのか、それとも20年間の年金で受け取るかはご本人の選択としています。退職するまでの積立が事業主さんの義務で、その後は個人貯蓄に移行するような形をとっております。 |
木口 | もう一つ、企業年金基金の場合は積立用の掛金以外に事務費の掛金は別払いというのが一般的ですが、それに対して私どもは生命保険会社の個人年金の仕組みを応用しています。1万円の掛金と保険料を払ったら事務費などそれ以外は取らない、という仕組みです。 私どもはそれを真似して事務費に関してはもらった掛金の中のやりくりする構造を取ることで、皆様方が払った掛金全額に利息が1.2%つくという構造にしました。 これは考え方によりますが、中小企業さんからすると、掛け捨ての部分が基本ないということになるので、そういう部分もわかりやすいと喜ばれている要因の一つかなというふうに思っております。 このように、利息が1.2%つき、事務費がいらず(注)、個人年金のような積立で、それを毎年皆様方にお示しし、掛金の掛け方も各社で決められる、というふうに各社のご要望にできるだけ沿った掛金表をお作りいたします。 (注)加入者の平均月掛金が5,000円を下回る事業所については別途事務費掛金の支払いが必要となる。 |
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※記載内容は、ウェビナー開催時点(2022 年 7 月)の情報に基づくものです。
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