企業年金・退職金の価値向上-5- 企業年金・退職金のパフォーマンスの向上策~前編
掲載日:2015年11月18日
従業員コミュニケーションの重要性
パフォーマンス向上にあたって特に重要なのは、しっかりと企業年金・退職金の額やしくみを従業員に伝えることです。
人事戦略上の目的(定着率向上、モチベーション向上等)を達成するためには、その対象である従業員が、企業年金・退職金の存在、しくみ、金額そして制度に込められた経営からのメッセージをよく理解する必要があります。
例えば、従業員から「うちの会社に制度があることを知らなかった」「制度があることは知っていたが、こんな金額をもらえることは退職するまでわからなかった」「勤続年数で決まるもので、会社に貢献したかどうかは金額とは関係ないと勘違いしていた」ということでは、現役勤務時のモチベーション向上には、あまり寄与していなかったということになります。
また、「退職金の金額を人事部に聞きに来る人は、すぐに退職しようと思っている」というケースもあります。仮に企業として定着率向上を目的としているのにも関わらず、「転職できるか不安で退職に踏み切れなかったが、これだけもらえるなら退職しよう」という退職勧奨のインセンティブになっているとすれば、目的達成どころかマイナス効果が生じているということになるでしょう。(逆に、目的が「一定年齢の従業員の退職勧奨」であって、当該退職者が想定している年齢なのであれば、目的を達成していることになります。大事なことは、企業ごとの目的を達成しているか否かなのです。)
別の観点から考えると、企業年金・退職金について知ることは、従業員の人生設計にとってもプラスになります。
人生設計や資産形成について検討する際には、保険のセールスの方、ファイナンシャルプランナーの方が、家族構成を前提にライフイベントを仮定して将来のキャッシュ・アウト・フローを見込み、そこから公的年金によるキャッシュ・イン・フローを差し引いて、残りを貯蓄や投資、保険などでカバーするようなファイナンシャルプランを作成するケースが多いでしょう。
このファイナンシャルプランニングにおいて、企業年金・退職金についても、1,000万円とか、多ければ3,000万円にものぼる重要なキャッシュ・イン・フローです。これを十分考慮しておくことにより、キャッシュが不足していると思って過大な保険に加入したり、リスクの非常に大きな運用商品に手を出したりしてしまう、ということを回避できるはずです。
ある程度、自社の企業年金・退職金からの支給額が予想できていれば、より無駄のない適正なファイナンシャルプランができるのではないでしょうか。これは明らかに従業員にとってプラスと言えます。
さらに付け加えるなら、運用リスクを会社が負担する確定給付型の企業年金・退職金の場合、従業員に支給される金額は、基本的に運用成績による影響を受けないことになりますので、従業員としては、よりキャッシュ・イン・フローの金額を見込みやすくなります。
そのことが、自社の従業員を大切にする姿勢を感じる機会や、将来に対する不安の軽減につながり、「この会社でもっと頑張ろう」というモチベーション向上につながるかもしれません。
「老後の生活保障という観点」にとどまらず、従業員の生活設計や人生設計を会社としてサポートしていく、それを広い意味での労働条件と捉えた場合に退職金・企業年金のもつ意味は大きく、従業員にわかりやすく伝えることにより、人事戦略上の目的(優秀な人材の採用・開発・定着・士気向上等)の達成に大きく寄与する可能性があるのではないでしょうか。
従業員向けの説明会、Webサイト・冊子等による周知
制度変更時には、従業員に対して変更内容を伝えているとは思いますが、これまでの制度変更というと、企業側のコストやリスクを小さくするための変更、つまり従業員側から見るとネガティブな変更が多く、モチベーションの向上や定着率向上につながるような説明は難しかったのではないでしょうか。
あえて、通常の時期に、公的年金のスリム化ゆえの老後所得確保の重要性と企業年金・退職金による給付の重要性を伝えていくことは、従業員と効果的にコミュニケーションを取る上でポイントとなる点です。
DC(確定拠出年金制度)の投資教育において、企業年金・退職金制度の説明が求められていますが、DCを導入していない場合でも、このような説明を定期的に行うべきでしょう。
とはいえ、企業年金・退職金の説明を行いたくても、「専門知識が不足しており、説明しきれない」、「説明資料を準備する時間がない」といったことがネックとなり、踏み切れない場合もあるでしょう。その場合は、社外の専門家へ、「従業員向けの研修」「説明会への同席及び質疑応答対応」、「説明資料の作成又は検証」などを依頼する、という方法も考えられます。
また、企業年金・退職金の内容について周知するためにWebサイトや会員向け冊子を利用するケースもあります。たとえば、企業年金連合会では、比較的手軽にWebサイトを作成できるようなサービスを提供していますので、一度検討してみるのも良いかもしれません。