企業年金・退職金の価値向上-3- 企業年金・退職金に関する環境変化~労働環境の変化等
掲載日:2015年10月26日
人手不足フェーズへの移行
昨今、15歳から64歳の生産年齢人口の減少(2014年度:前年比116万人減)と、円安等による外国人観光客の増加、東京オリンピック特需などの影響で、長らく続いていた人員過剰のフェーズが、建設・医療・介護・IT・飲食といった業種を中心に、人手不足のフェーズに切り替わったと言えるでしょう。
人手不足の状況は、以下の通り、有効求人倍率など各種指標に表れています。
有効求人倍率:1.19倍(2015年6月)
1992年3月以来(23年ぶり)の高水準
出所:厚生労働省発表資料
企業の正社員採用意向:2008年度以来7年ぶりの6割超え
2015年3月の調査では63.6%、大企業では8割超えの82.1%
出所:帝国データバンク調査結果
業績見通しの下振れ材料として「人手不足」の懸念
2014年度19.5%(8位)→2015年度29.2%(3位)
出所:帝国データバンク調査結果
人手不足フェーズへの移行に伴う企業年金・退職金への影響
では、リストラや総人件費削減がテーマであった人員過剰のフェーズから、採用強化や賃上げがテーマとなる人手不足のフェーズに切り替わると、企業年金・退職金にはどのような影響があるのでしょうか。
以前は、業績が悪化すると、経営者は、企業年金・退職金を縮小する方向で検討するケースが多かったかと思います。
しかし、最近では、企業年金・退職金制度がなかった企業が、定着率向上のために新たに制度を導入する事例も出てきました。企業年金・退職金が、より前向きな人事戦略上の制度として、見直されつつあります。
特に、前回述べたように、公的年金スリム化等に伴い、従業員にとって企業年金・退職金の相対的価値が増加する方向にあります。トータルコンペンセイション(総額報酬)の観点で、企業年金・退職金をより重要な制度として位置付け、人事給与制度やその他の福利厚生制度とのポートフォリオを考えていく必要が高まるでしょう。
その他の環境変化と企業年金・退職金への影響
その他、2014年4月から施行した厚生年金基金の実質廃止は、代行返上・解散の意思決定及び代替給付設計に関する意思決定など、経営者に対して重要な経営判断を要求してきます。その際の判断材料として、企業年金・退職金が経営に役立つものなのか、人事戦略上の目的は何なのか、ということを明らかにする必要が出てくるのではないでしょうか。
また、2012年に公表された日本の退職給付会計基準の改正、あるいは、近年急速に増加しているIFRS(IAS19従業員給付)の任意適用は、企業年金・退職金のコスト(やリスク)の実態をB/Sや開示情報において、より透明化させることになります。さらには、コーポレートガバナンスコードが、経営者に対し、中長期的な企業価値向上のために、「株主との対話」を建設的かつ積極的に行うことを求めています。
これら法令や会計基準の改正という環境変化は、相まって、企業年金・退職金について透明化されたコストに見合ったパフォーマンスを達成し、それを経営者が株主に対して説明する必要性が高まることを意味しているのではないでしょうか。
次回からは、これらの環境変化を踏まえ、企業年金・退職金の価値を向上させるために、パフォーマンスやコストについてどのように考えれば良いのか、少しずつ掘り下げていきたいと思います。